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19 ターニャは改造人間である

「止めろー! コジローっ!」


 ターニャは改造人間である。

 彼女を改造したのはこの俺と猫耳女神バステトである。

 ターニャは世界の平和のために悪の魔王と戦うのだ!




「まぁ、ここは一つだまされたと思って……」

「だまされたのよっ!」


 憤慨するターニャは放っておいて、後はこの力の塔に蓄えられた金品を入手する訳だが、


「ああ、そこの部屋の警備システムはまだ生きているから触らん方が身のためだぞ」

「警備システム?」

「筋肉スライム三体がコンテナに触れる度に現れる」

「げぇーっ!」


 乙女にあるまじき叫び声だな、ターニャ。

 筋肉に囲まれ、もみくちゃにされたのがよっぽど嫌だったのだろう。


「とはいえ、警備システムが壊れている場所もあるから今回はそれが狙い目だ」


 まずは筋肉スライム用のきらめくスパンコール付き衣装。


「こっ、こんなの持って帰るのぉ?」

「売ればいい金になるからな」


 次はマッスルコーヒー、プロテイン、インドメタシンといったドーピング用アイテム。


「オラッ、口を開けやがれ!」

「嫌ああああっ!」


 さっそくターニャに使って能力値を強化する。


「これは、絹織物でしょうか?」


 そう言ってユスティーナが手にしたのは衣装用の生地。

 絹糸を特殊な四層織りにしたもので、防弾チョッキにも使えるほど強靭なものだった。

 地球でも一番初期の防弾チョッキはそのような生地で作られていたからな。

 ちょうど二着分あるので、帰ってユスティーナとカヤ用に服を仕立ててやればいいだろう。


「これは、本?」


 ターニャが手にしたのは革で装丁された一冊の本だった。


「錬筋術秘典。健全な魂は健全な裸体に宿るというのが教義の宗教書だ。迂闊に読むと洗脳されるぞ」

「あぅ、せんのー?」

「筋肉が好き好きになるってことだ」


 共通語コモンが苦手なカヤに簡単に噛み砕いて教える。

 しかしターニャは、


「そんなバカな。人の心はそんな簡単なものじゃないわ」


 と言って、表紙をめくってしまう。


「……人は裏切るが、己の筋肉は決して裏切らない。筋肉サイコー!」


 唐突に叫び出すターニャ。

 まったく、簡、単だ!


「きんにくにくにく、きんにくにくにく、にくがすーきー」


 シュールな歌を歌いながらターニャは不思議な踊りを踊り出す。

 その様は怪しい邪教の儀式もかくやといった感じだ。


「こんな風になる訳だ」


 やれやれだ。

 次に入手したのは力の杖。

 これは術者系の職業の者が使える武器の中では破格の威力を備えたもので、前衛職が使う上質の剣を軽く上回る性能を持つ。

 とりあえず、俺が持っておく。


 あとは、アクセサリー類と古代の金貨。

 これらは高く売れるはずだった。


「んじゃ、ジャンプ」


 リターン・クリスタルを使って、登録済みのステーキ・ハウスの街のゲートへと転移する。


「武具屋に向かうぞ」


 武具屋に行ったら持ち込んだ絹の生地でユスティーナにはメイド服を、カヤには防弾ベストを造ってやる。

 後は、カヤ用に難燃性を持つラシャ生地で作ったBDUバトル・ドレス・ユニフォーム、要は軍服に鋼の盾を購入。


「あぅ、かっこいい」

「軍服ですか。糊付けはしないのですね」

「ああ、糊付けしてパリッとさせた服は格好いいかも知れないが、鬼族の持つ赤外線視力には捉えられやすくなるからな」


 だから地球でも軍服の糊付けは廃止されていたし、赤外線反射吸収率が草木に近い夜間迷彩服などが用意されていた。


 それから、ターニャ用に鋼の胴鎧とやはり鋼の盾、そして鉄製のフリッツ・ヘルメットを。

 ユスティーナ用には軽く負担にならない甲羅の盾を回すとして、俺には無いよりマシな小さな木製のバックラーシールド、鍋のフタを購入する。

 あとは、革のネコスーツと革のネコ帽子を購入。

 帽子には猫耳が付いていた。

 ご丁寧に耳を塞いでしまわないよう小さな穴が左右、七個ずつ開けられている。


「うっ、かわいい……」


 ネコスーツ姿の俺を見て、ターニャが思わずといった様子で言う。

 止めろ、撫でようとすんな。


 ここまで装備を強化しようとすると、力の塔で手に入れた金品をつぎ込んでも足りなくなるが、


「こいつを売ろう」


 力の杖を売る。

 高い価値を持つ逸品だったが、初期は『ねこぱんち』などの独自魔術を身に着けるため術師系に近い成長をするバトル・コックは筋力が低く振り回しても大したダメージは期待できない。

 そもそも俺は戦闘中は魔術を使っていれば良いため、金に換えた方が有意義だった。


「一気に装備が充実したわねぇ」


 サイズ直しを終えた新品の鎧を軽く叩き、ターニャは胸を張る。

 まぁ、確かに格好だけは調ったか。

 力の塔でドーピングアイテムを多用して人体改造したこともあって、ターニャをユスティーナより前に出せるようになったな。


「それじゃあ、夕飯食って休むか」

「そうねぇ。今晩もまたステーキ?」


 そう答えるターニャは貴族らしく肉好きなんだな。

 毎日ステーキでも全然平気なようだ。

 だがしかし俺は首を振る。

 日本人の味覚を持つ俺はそんな味気ない真似はしない。

 美味い物も毎日では飽きる。


「いいや、この街に貯蔵された熟成牛肉を使ったハンバーグだ」


 このステーキ・ハウスの街には冷気が漂う洞穴があり、天然の冷蔵庫の役割を果たしている。

 そこで四十日間に渡って寝かせ、熟成させて旨味成分を増幅させた熟成牛肉は、赤珊瑚と呼ばれ主にステーキに使われる新鮮な肉とはまた違った深い味わいを出すことが可能なのだ。


「歯ごたえがあり力強い味わいのある粗挽き、なめらかでふわっとした食感の二度挽肉をミックスしたものに卵黄、卵白、パン粉、玉ねぎ、マッシュルームを入れてこねるんだ」

「おいしそー」


 カヤが歓声を上げた。


「それでは準備のお手伝いをいたしますね」


 そう申し出るユスティーナに俺はうなずく。


「ああ、頼む」


 そうして俺たちは食材を買いに店へと向かったのだった。




 新鮮な野菜を千切ってニンニク、塩、コショウ、レモン汁、オリーブオイルから作られるシーザードレッシングに、削りおろしたパルメザンチーズとクルトン、それからボリュームを増すために携帯食から干しエビを水で戻しトッピングしたシーザーサラダ。

 干しエビは軽く保存が効く上、水で戻すと驚くほど大きくなり食い堪えはあるし、生のものより身が締まって旨みが凝縮されているという優れた食材だ。


 スープの方は対照的にシンプルに仕上げた。金色に澄んだオニオンスープ。


 それから小麦の香り高い胚芽パンの厚切りトースト。


 この辺を前菜として、メインの熟成牛肉のハンバーグをいよいよ出す。

 付け合わせには粉吹き芋とニンジン、そしてベーコンが一枚添えられている。

 ターニャがさっそくハンバーグにナイフを入れた。

 そして一口。


「うまぁああっ! 何これ、凝縮した旨味って言うの? その上、羽根のように軽く柔らかいのに歯ごたえがあって」


 熟成肉は旨味を増幅させるからな。

 歯ごたえの方は、粗挽きときめ細かな二度引きをミックスしたおかげだろう。


 カヤはと言うとナイフで切ったりせずにフォークで刺したハンバーグにそのままかぶりついて言う。


「ほっぺた落ちそうだ! しょっぱいのに甘みがある?」


 それがコクってもんだ。

 熟成肉の旨味に、混ぜ込んだ玉ねぎの甘み、そして……


「このデミグラスソースは、甘口のワインを加えてじっくりと煮込んだものですものね。添えられたベーコンのほど良い塩味が絶妙です」


 調理を手伝ってくれたユスティーナがソースの秘密について語る。


「ベーコン、豚を合わせるというのも良いものですね」

「ああ、本当は豚の挽肉があればハンバーグに混ぜ込んで更にジューシーでさっぱりとした食感を演出できるんだがな」


 仕方が無いため、今回は携帯食のベーコンブロックから薄切りにして添えてみたのだ。

 ユスティーナは感心した様子で言う。


「さすがご主人様。これだけの料理を作っておきながら、完成した時には更なる高み、次の作品が見えている訳ですね。それこそが超一流の職人であることの証なのでしょう」


 そこまでベタ褒めされるほどでもないが、料理は好きなので褒められればもちろん嬉しかった。


「まぁ食え。よく冷えているロゼワインもあるぞ」


 このステーキ・ハウスの街では天然の冷蔵庫である洞穴があるため、適温に冷やすことができた。

 ターニャはピンクのワインの色や香りを確かめてから一口味わうと言う。


「さっぱりした飲み口が肉料理にも良く合うわよね。アタシは赤や白よりもロゼが好き」


 一般に長期熟成はしないロゼワインはフルーティで女性に人気があり、肉料理にもよく合う。

 だから、


「うん、おいしいよ」


 お子様舌のカヤでも大丈夫なようだった。


「ロゼというと飲みやすいといえば聞こえは良いのですが、実際にはペラペラの薄甘口の安物も多いのです。しかしこちらは本格的と言いますか、一本筋が通ったような味わいがありますね。結構お値段が張ったのでは?」


 そう言うのはユスティーナ。

 彼女の指摘どおり、そこそこはしたがな。

 とはいえ、それなりの品でも手頃な価格で買えるのがロゼの魅力的なところだろう。


「まぁ、値段なんて気にせず楽しめばいいさ」


 そういうことだった。




 ターニャがふと思い出したように言う。


「……そういえば、玉ねぎってネコには毒じゃなかった?」

「食い終わってから言うな」


 本当に勝ち組リア充でスペックは高く知識も豊富なのに、それを役に立てることができないアホだよな。


「俺はネコビトだから大丈夫だ。普通のネコなら今頃大変なことになっているだろうが」


 基本、玉ねぎは煮ても焼いてもネコには毒だから食わせちゃいかん。

 俺との約束だぞ!

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