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17 女神降臨

「さて、ユスティーナ、行くぞ」

「はい、ご主人様」


 俺とユスティーナはこの街の外れにある遺跡へと向かう。

 ここには特殊な医療用プラントがあり、体表に魔力素子と呼ばれる遺跡由来のナノマシンを使った呪的紋様…… 呪紋を描き込んでくれるのだ。

 ただし制限はあって、刻める呪紋は一人につき一つだけ。

 一度描き込んだら一生そのまま変えられない。

 そして、この呪紋は遺跡の加護、要するに支援バックアップを必要とするため、一つのパーティには一種類につき一人だけという制限が付く。


「んじゃ、服を脱いでそこのベッドに横になってくれ。施術を始めるから」

「はい」


 ためらいも見せずにメイド服を脱ぎ出すユスティーナに、慌てて顔を背ける。

 それでも聞こえるささやかな衣擦れの音。

 最後にかちゃりと鳴ったのは、彼女がめったに外さない眼鏡アイウェアを置いた音か。

 ユスティーナが未来的なベッドに横たわると、自動的にカバーが彼女を覆う。

 そうして施術が始まった。

 低いハム音が静かな室内に響く。


「ふむ」


 遺跡が用意したベッドは、まるで仮想現実技術黎明期の疑似感覚再生用コクーンのようだった。

 その後、ナノマシンによる神経接続により廃れた技術だったが。


「そのナノマシンこそ、私の世界から並行世界、あなたの言う地球に時空間移動した一握りの移民がもたらした物なのです」

「ユスティーナ!?」


 俺の内心の呟きに答えたのは、いつの間にか施術を終えたユスティーナだった。

 いや、眼鏡アイウェアを外し素顔を晒した彼女は……


「……猫耳女神バステト?」

「一目で見抜かれたっ!?」


 のけぞるユスティーナ、に憑依した猫耳女神バステト

 ハイ・エロフとも揶揄される光妖精ハイ・エルフ特有の豊かな胸がゆさりと揺れた。

 猫耳女神バステトは巨乳好き、と。

 ネコの女神だけあって本物は胸無いからな。

 豊穣の女神でもあるのに。


「断言されたっ!?」

「人の内心のつぶやきを読みとるんじゃない」


 何という神力の無駄遣い。

 そうして気を取り直したユスティーナ、いや彼女の身体を借りた猫耳女神バステトは完璧に思えるほど整った微笑を浮かべ説明する。


「この医療ユニットで刻むことのできる呪紋は魔力強化神経ブーステッド・リフレックス。人体に百八箇所ある神経の集中点をつなぐラインを魔力素子と呼ばれるナノマシンにより体表に焼き付け、それにより神経をバイパスさせ驚異的な反射スピードを得るものです」


 ユスティーナの真っ白な肌に、時折かすかな燐光が走る。

 これが魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋か。

 スマホのソシャゲ、リバース・ワールドでも使用時に同様のエフェクトが発生していたな。


「ですから、彼女に頼んでそこへの割り込みを許して頂いたのです」


 なるほど、霊的経路チャンネルを通じて交霊アクセスし神経系をインターセプト、割り込みをかけて身体を一時的に乗っ取った訳か。


「それで?」

「まずは、この世界に来ていただいたお礼を」


 猫耳女神バステト、遺跡の意識体は優雅な所作で頭を下げる。


古代上位種ハイ・エンシェントと呼ばれる私を造った方たちの血を引く者も、代を重ねる度にその身に内包するナノマシンを薄れさせ、力を弱めつつあります。大魔王からこの世界を救うには、異世界へと平行移動した方の血を濃く引く者、あなた方の助けが必要だったのです」


 俺たちの世界で急速に広まった、ナノマシンを使った神経接続はこの世界に由来したものだったんだな。

 世に出た時、オーバーテクノロジーと称賛されたのは、地球で開発された物ではなかったためか。


「一つ、教えて頂けますか?」

「何だ?」

「どうしてあなたは、この魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋を彼女に使われたのですか?」


 なるほど。


「普通なら、一番の攻撃力を持つ勇者に使えば先制攻撃ができ有利だからか?」

「はい。私もあなたの世界のネットワークにアクセスし、情報を集めましたがそれによるセオリーからは逸脱しているように思えます」


 セオリーね。

 オギワラが言いだしそうな言葉だ。

 やつがこのことを知ったらまた騒ぎ立てるんだろうなと思い、俺は苦笑した。


「この魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋は、使用者の敏捷値を倍にするんだったな」


 とんでもない身体強化フィジカル・エンチャントだ。


「はい」

「なら、一番敏捷値の高い者に使用すれば、最も高い効果が得られるって訳だ」


 単純な計算だ。


「しかしメイドは盗賊系の決定力に欠ける職業。先制できてもあまり意味が無いのでは?」

「しばらく戦う予定は無い」


 俺は宣言する。

 猫耳女神バステトの整い過ぎている表情は、あっけにとられている様子もまた美しいものだったが、


「敏捷値は回避力、つまり総合的な防御力を上げる。敵の追撃をかわしながら逃げるのには、守りは堅ければ堅いほどいい」


 もちろん、その後のこともまた別に考えているがな。

 手札は何通りにも活用して行くものだ。


「……分かりました。あなたにとっては余計な心配だったようですね」

「そうでもないぜ。女性レディに気にかけてもらえるのは、男なら誰だって嬉しいものさ」


 俺の軽口に、彼女は微笑んだようだった。


「あなたとこうして話すことができて嬉しかったです」

猫耳女神バステト様にそう言って頂けるのは光栄だ。話し相手ぐらい、いつだってするが」


 猫耳女神バステトは小さく首を振る。


「私を降ろすのは、彼女に負担をかけますから」


 そう言って、燐光が走るユスティーナの身体を見下ろす。


「それでは貴方の未来に光がありますよう」


 そう言って、猫耳女神バステトは去って行った。


「未来ねぇ」


 俺にとっては、今だけが今だ。

 十年後だろうと百年後だろうと、ただの未来に過ぎない。


「女神の憑代になるなんて、得難い体験でしたね」


 そう言ってユスティーナは猫耳女神バステトとは違った笑みを見せる。

 同じ顔なのに、受ける印象は大いに変わるものだ。

 だから俺は言う。


「分かったから服を着ろ」

「あら」


 神々しさでもあったのか、猫耳女神バステトが降りていた間は芸術作品でも見ていたような印象を受けていたのだが、ユスティーナ自身に意識が戻ると急にその裸体が生々しく感じられた。

 光妖精ハイ・エルフっていうのはみんなこんな風にスタイルがいいんだよな。

 ハイ・エロフと呼ばれるのは伊達では無い。

 視線を背けるものの、衣擦れの音が耳を刺激し想像力をかき立てられる。

 耳聡いネコビトの身体というのも考え物だ。

 ぴくぴくと動くネコミミがユスティーナの方を向かないようにするのも大変だし。


「もうよろしいですよ」


 その言葉に視線を戻せば元通り、一分の隙もなくいつものメイド服を着こなしたユスティーナが澄まし顔で立っていた。


魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋ですか。目には見えないのですね」

「魔力素子、ナノマシンによるものだからな。力を使った時に淡く光が走る程度さ」


 これで、ただでさえ高いユスティーナの敏捷値が倍ほどに加速されるようになった訳だった。


「この呪紋を得るために、ここまで強行軍で来た訳ですか?」


 その質問にはこう答える。


「いいや。これはまだ途中でしかないぞ」


 俺たちの戦いはこれからだ。




「ある意味、刺激的だよな」

「こっち見るなー」


 顔を赤らめるターニャ。

 ユスティーナの敏捷度が上がり回避力が上昇したということは、その分、彼女が使っていた防具を他の二人に振り分けても問題がないということ。

 幸い彼女が身に着けていた革のビスチェは、コルセットと同じく締め付けを調整できるため、サイズも多少の融通が効く。

 とはいえそれはウェストの話で、圧倒的なバストを誇るユスティーナの物が、起伏のなだらかな幼いカヤの身体に合う訳もなく。

 結果として、ユスティーナの物をターニャに、ターニャの物をカヤにとスライドさせることで間に合わせたのだったが。


「胸元に空いた隙間が目に毒だよな」


 ターニャはビスチェを服の上に着ているのだが、サイズが合わなくて生じたビスチェと胸の間に空いた隙間が、何と言うか悩ましい。


「スレンダーな女の子がビキニとか着ると、身体をひねった時に生じる隙間が色っぽいとは聞いたが、なるほど納得だな」

「誰がナイムネかーっ!」


 いや、そんなこと言ってないだろ。

 お前は普通にプロポーションがいいと言われる程度にはあるだろうに。

 この勝ち組リア充が。

 本当に無いのはカヤのような身体を言うんだよ。

 そのカヤだが、


「コジロー、似合うー?」


 ターニャの着ていたビスチェを人狼族ワーウルフ特有の露出が多い民族衣装の上から身に着けているのだが、


「うわ」


 起伏がなだらかな分、ビスチェと胸の間に空いた空間が犯罪的だった。

 やばい趣味を持っている者が見たら、一発で悩殺されてしまうだろう。

 妖しい魅力があった。


「カヤさんのその短いチョッキの下って、そのまま戦闘用ブラジャーだったんですね」


 ユスティーナがカヤを見てそう言うが、


「戦闘用ブラジャー?」


 なんだそりゃ。

 この世界には防弾ブラジャーでも存在するのか?

 カヤがいつも身に着けていたのは、肩ひもの無いへそ出しのチューブトップだと思っていたが。

 ユスティーナは光妖精ハイ・エルフ特有のすらりと伸びた耳にかかった眼鏡アイウェアのつるを直しながら説明する。


「男性にはお分かりにならないかも知れませんが、防具の下に着けるブラジャーというのは気を遣うものなのです。ホックを使っていると激しく動いた時に外れたりしますし、打撃を受けた時には衝撃で弾かれた金具やワイヤーが肌を傷付けたりします。縫い目だって場合によっては重い防具の下に着ると擦れてしまったりしますし」


 ああ、だからカヤの着けているようなノンシーム、ノンワイヤー、ノンホックのスポーツブラ的なチューブトップが好ましい訳か。


「伸び縮みのする人狼族ワーウルフの織物でできた、特別製」


 カヤが俺の目の前にかがみ込み、ビスチェの下に身に着けたそれを引っ張って見せる。

 いや、それは危ないって。

 起伏がなだらかな分、奥まで見えるため桜色をした先端部分まで見えそうになってるだろ。

 しかし、


「女性の冒険者向けに売り出したら儲かりそうだよな」


 誤魔化すように口にした言葉だったが、商業ギルドには伝手もあるし企画してみるのも良いかも知れなかった。

 ご感想にあった「なぜ地球から勇者を呼ばなくてはならなかったか」のお話でした。


 ライトノベルの書き方などを読むと、

「最初に全部説明しようとするな」「情報は小出しに」

 ということが挙げられています。

 冒頭に説明を詰め込まれても読む気にならないからですが、みなさんはネット小説でも同様だと思いますか?

 例えば私のお話の場合、冒頭で、


「なぜ地球から勇者を呼ばなくてはならなかったか」分からない、作者何も考えてないんじゃないの、読むの止めるわ。


 という具合に思われたらそこまでですよね。

 ライトノベルの場合は、

・出版社が出版した本だからある程度は信頼できる。

・お金を出しているので、その分、読むのを簡単に止めたりしない。

 ということで先まで読んでもらえるから「最初に全部説明しようとするな」「情報は小出しに」ができるとも言えます。

 ネット小説はそういうことができないので、書き方を変えなくてはいけない、のでしょうか?

 みなさんのご意見を聞かせて頂けると幸いです。

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