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15 わかりやすいあらすじ(わからん)

「ひゃあああっ!」


 立ち塞がる強大な敵。


「ああっ、ターニャがやられたー!」


 道半ばで倒れる仲間。


「危険ですご主人様!」


 愛する者を失ったコジローの怒りと悲しみが、秘められた力を目覚めさせる!


「うぉおおおおっ!」




 って、感じだったよな。


「嘘だっ!」


 何だターニャ、藪から棒に。


「今のは絶対嘘でしょ。モンスターにやられた直後から記憶が全然無いけど」


 そりゃあ、死んでたんだから記憶も無いよなぁ。


「カヤのセリフはやたらと棒読みだし、ユスティーナのセリフは無駄に演技が凝ってるし」


 珍しく鋭いな。

 まぁ、そんなことは口にはしないが。


「変なこと言ってないで、これでも食え。アンバーエールでマリネした臆病ニワトリのハーフグリルだ」


 この街、その名もずばりビア・ガーデンの小規模醸造所マイクロ・ブルワリーで造られたクラフト・ビールを生かした料理だ。

 琥珀色をしたビール、アンバーエールを使用したマリネ液に漬け込んだお陰で肉が軟らかくなっており、香り高く味わい深く仕上がっている。


 ごくりとターニャののどが鳴る。


「そ、そんな誘惑には誤魔化されないっ!」

「ジョッキの中身は、この街の数あるビールの中でも肉料理に最も似合うインペリアル・スタウト。黒糖の甘みとコクが特徴のパンチの効いた強い黒ビールだ。専用のサーバで泡まで美味しく注がれ、きりりと冷やされた逸品だぞ」

「何だか誤魔化されてもいい気がしてきた……」


 弱いな、おい。


 まぁ、旅で一番大切なことは物が美味く食べられるということだ。

 美味く食べられさえすれば、どんなにつらい旅も最後までがんばれるからな。


 ともあれ、こうなった経緯はと言うと……




「女神の試練の迷宮?」


 ターニャが麺を飲み込んでから首を傾げる。


 今晩の夕食は、寮の食堂を借りて作ったソバだ。

 この世界にもソバ粉はあって、ガレットと呼ばれるクレープのような食べ物に使われている。

 俺はソバ粉を分けてもらって、手打ち(肉球打ち?)でソバを打ったのだ。


「はふぅ……」


 熱い醤油味のスープをどんぶりを持ち上げて飲んでいたカヤが、満足げな吐息を漏らす。

 気に入ってもらえたようで何よりだ。


 カヤと俺は、出汁を取ると同時に具として煮込んだカモ肉を入れた鴨南蛮。


 ユスティーナとターニャには食堂で余らせていた野菜を寄せて揚げたものを入れたかき揚げソバにしてある。

 残り物と言っても揚げたてサクサクだから美味いぞ。


 まぁ、それは置いておいて。


「トレーニング用ダンジョンを最速クリアした俺たち、そしてその次にクリアできたオギワラたちは勇者学園が成績優秀者だけに開催する特別講習を受けることになったんだ」

「女神といえば、神殿が信仰する救済の女神ですよね?」


 ユスティーナが確認する。

 この世界を管理する遺跡の意識体は、人々に救済の女神として信仰されていた。

 エインセルで女神といえば彼女しか居ないというくらいに。

 俺にとってはゲームでおなじみの猫耳女神バステト様ってだけなんだが。


「キサナドゥ、幻の地下都市群か」

「それ、長老に聞いたことがある」


 俺がつぶやいた名前に、カヤが反応した。


古代上位種ハイ・エンシェントが地下に造ったっていう失われた理想都市ユートピア

「その通り。そして今なおその一部は生きていて、遺跡はそれを通じて俺たちに力を与えてくれるんだ」

「遺跡?」

「救済の女神様の加護を受けた遺跡さ」


 俺はカヤたちに彼女らの常識に合わせた説明をしてやる。


「この勇者学園には、そこに通じるワープポイントがあるんだ」


 そのためにこの田舎、辺境の地に勇者学園が建てられたのだと言ってもいい。


「ただし、手強いモンスターが出るから十分対策をしないとな」


 俺は思いきって耐久力のあるカヤではなく、ターニャにフリッツ・ヘルメットと甲羅の盾を身に着けさせた。

 そうして女神の試練の迷宮と呼ばれる地下都市跡へと飛び、中でもまだ奇跡的に生きている街、ビア・ガーデンへと、途中のモンスターから逃げ回りながら向かったのだった。


「何でアタシだけー」

「何でだろうな」


 何故かモンスターからの追撃が、ターニャだけに集中してしまう。

 逃げ切る度にターニャは自身のライトヒーリングの魔術で必死こいて回復させる。

 だが、逃げ損ねたところに喰らいまくると防御を固めていたとしても耐えきるのは厳しく。


「あっ」


 ターニャはビア・ガーデンの街を目の前にして、死んでしまったのだった。


 だがしかし、この世界には蘇生魔術がある。

 主に癒し手が使う回復魔術は俺たちの体内にある遺跡由来のナノマシン、魔力素子に作用して肉体を修復させるものだ。

 だからナノマシンを持たない一般人ならともかく、俺たちなら確実な蘇生が可能だ。


 遺跡も医療用の端末を世界の各所に用意している。

 それは神殿により管理され、神殿は遺跡の意識体を救済の女神として信仰の対象としているのだ。


 だから俺たちも、ターニャの遺体をこのビア・ガーデンの街に運び込んで神殿への喜捨、つまり寄付を代償に蘇生させたのだった。




「ただのおつまみのナッツのはずが、おかしいくらい美味しい!?」

「はぐっ、食べるのが止まらない。何これコジロー」

「この香ばしくも深い風味は、もしかしてスモーク仕立てですか?」


 ユスティーナが正解だ。

 それは保存食のナッツを桜の木のチップをつかって燻して作った特製のスモーク・ミックス・ナッツだ。

 ついでにスモーク・チーズも作ってみたが食うか?


「食べる!」


 即食いつくターニャ。

 無事、誤魔化されてくれたようで何よりだった。




 宿で一晩休んだ翌日。

 ターニャの防御力が不安だったため、ユスティーナが街を巡って回収してきたアイテムを売って金を作り防具を追加することにする。


「ほれ、ラシャの生地で作ったマントだ。炎に対する耐性が付いた品だぞ」

「ええっ、マジック・アイテム?」

「そんなような物だ」


 羊の毛を密に織って作るラシャは難燃性を持ち、昔は消防服に使われていたくらいだ。

 また、丈夫であるため軍服にも使われているし、水に強いことから合羽にも使われていた。

 防具に使うには一番いい布地だろう。


 実際このマントに商人系の職業が持つスキル、鑑定を行うと耐火のマント+1と出る。

 俺はこの街に着いた時点でこの品を発注しておいたのだった。


「さすが、ご主人様。マジック・アイテムに匹敵する品をこうも簡単に作り上げるとは」


 ユスティーナの賛美がくすぐったい。


 スマホのソーシャルゲーム、リバース・ワールドの生産システムではこういった素材の特性まで再現されていて、生産プレーヤーが組織する服飾ギルドではそれを活用した装備作りを行っていた。

 作成のレシピはもちろん極秘とされていたが、俺が現実の素材の特性を学んで知り合いの作り手に聞いたところ「肯定はしませんが、否定もしません」という事実上、認める回答が帰ってきたのだった。


「これは上等の生地ね」


 ターニャはマントの布地を頬に当て、嬉しそうに言った。

 ラシャの生地は見た目も豪華なのでスーツや乗馬服などにも使われていた品だからな。

 そして、ターニャが今まで使っていたマントは、カヤが使う。


「ひらひらー」


 カヤは着慣れないマントを閃かせ、戯れていた。


「それじゃあ、次の街へ行くぞ」

「はぁっ!?」


 新しいマントを手に入れご機嫌だったターニャの表情が凍った。


「じょ、冗談でしょう。ここまで来るのもひたすらモンスターから逃げ回って、ライトヒーリングで誤魔化しながらやっとのことでたどり着いたのよ。モンスターに勝てないのはもちろん、これ以上は死ぬわよ」


 実際に死んだやつが言うと、説得力があるな。

 だがな、


「まぁそう言うなって。次の街、ステーキ・ハウスは赤珊瑚、レッド・コーラルと呼ばれる特産牛の赤身肉が有名な街だぞ」

「赤い……」


 ごくりと生唾を飲み込むターニャ。


「サンゴ?」


 森育ちのカヤには例えが分からなかったようだ。

 しかしながら、食べ物の話だというのは理解している様子で、期待に瞳をきらきらと輝かせている。


「鉄板で焼き上げるサーロインステーキは、さぞ美味だろうなぁ」


 ターニャの耳元でささやいてやる。


「うう~っ」


 もう一息か?


「同じ鉄板で同じく特産のトウモロコシを焼こう。ソイソースの香ばしさはもう、たまらんぞ」


 ソイソースとはしょうゆソース。

 つまり醤油だ。

 このエインセルでは東方に日本に相当する秀真国が存在し、和食用の食材も流通しているのだ。


「……行く」


 焼きとうきびが決め手になったのか、ターニャは遂に陥落。

 バカは死んでも直らないとは言うが、臨死体験もこいつには何の学習にもならない様子だった。

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