イチゴタルトは別れの証
それなりに賑わっているカフェ。
そこに私と彼はいた。
目の前には、鮮やかなイチゴタルト。
周りはカップルや友達同士で来ているのか、楽しそうに出す笑い声。
その中心に私たちはいた。
だけど
空気は他と明らかに違っていた。
気だるげな彼。
無表情の私。
私は言う。
――別れよう
彼は言う。
――いいよ、別れよう
貴方は淡々と、何事もなかったかのように言う。
私の一言で、たったこれだけの言葉で終わらせるの?
理由も聞かないの?
彼の目の前にはケーキはない。
何か感づいていたのか、それともさっさと帰ろうとしていたのか。
私は言う。
――理由、聞かないんだね
彼は言う。
――理由なんてどうでもいいから
なんて人だ、と思った。
それと同時に、今更私はそんなことを思うか、とも思った。
二年間付き合ったけど、彼はつかみどころのない人だったから。
でも、どことなく愛情を感じた。気のせいだったのかな。
彼は言う。
――今日から、僕らは他人だね
私は言う。
――そうだね、もう何も関係のない間柄だね
自嘲気味に私は笑う。
――ねえ
――・・・何?
――好きだよ
――・・・私もだよ
――もし、僕に負担をかけると思って別れるなら、やめときなよ
――理由はどうでもいいんじゃないの?
――どうでもいいよ。ただ別れるのが僕のためならやめて。もし
――もし?
――君のためなら、別れる
私は、涙をこらえる。別れたくない。けど
――私のためだよ。だから、別れて
――わかった
彼は相変わらずクールにそう言い切って、さよなら、と言って席を立ち上がる。
そして、私に背を向け歩き去る。
――ごめんね
心の中で呟く。
私は二か月前に子供ができた。途端、周りはおろせと言い出す。
どうしようかと、彼に相談した。この子を育てたい、そう言うと、一言
――困る
それだけ言って、私を突き飛ばした。
その結果、私は病院に運ばれた。子供の無事を願った。
けれど、子供は死んだ。
それと同時に
私の心も死んだ。
彼を愛せなくなった。でも依存した。
彼に依存した。でも好きじゃない。
この感情をどう表わしたらいいかわからない。
別れていいのか、もわからない。
でも、彼は私を好きと言った。
その彼を私は振り切った。
刹那、私の復讐は果たされた。
子供の敵をとった。
それで十分だ。
目の前のイチゴタルトを見る。
死んだ私の心は
そのイチゴタルトの味をわかるかな。
目から何かが零れ落ちるのは
きっと、嬉しいから。
決して、彼と別れたことを後悔しているものじゃない。
そう思い込む。
ふと周りを見渡すと、周りの空気が違う。
空気じゃない。
色がなくなっている。
もう色のない世界になってしまった。
こんな世界で
私は生きられるだろうか。
こんな世界に
子供と彼氏を失った私に
私は愛されることができるだろうか。
わからないまま
私はイチゴタルトを食べようとフォークを取る。
きっと、刺激的で忘れられない味になるだろう。