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春の名を持つ雪女  作者: 月白
3/11

「ぅうわぁぁっ!?」

俺は布団から飛び起きた。

「はぁ…はぁ…夢?」

寝起きで上手く働かない頭を手で押さえ、軽く振りながら状況を理解しようとする。

そして落ち着いた頃。部屋を見渡し…

「だよなー。現実なわけ…」

「何が現実なんですか?」

あるんだよなぁ…悲しい事に。


話しは数日前に遡る……—。



「貴方。私の姿が見えるんですね?」

目を丸くする俺に話し掛けてくる、真っ白な少女。

俺は自体が飲み込めないまま、少女の話しを聞いていた。

「不思議です。今まで私の姿が見える人なんていなかったのに」


—なんだ?何を言ってるんだ?こいつは…—


「あ。私、雪女のさくらと言います」

「え、あ。さくら、さんね」

「これも何かの縁。暫く貴方の傍に居させてもらいます。これから宜しくお願いします」


—な、なんだとっ?!

何を言ってるんだ!?こいつは!

はっ!きっと、これは夢だ!…たちの悪い夢なんだぁッ!!!—


と、まあ。一方的に、自称雪女に取り憑かれた俺は、狭いアパートの一室で共に過ごしている。

「うなされてましたけど、どんな夢見たんですか?」

「………お前と知り合った時の夢」

酷いですっ!

と、顔を赤くさせ怒るさくらを尻目に、俺は出かける準備を始めた。

「今日も大学ですか?」

「まあ、な。一応大学生だし」

服を着替え終えると洗面台へと向かう。すると、お腹を空かせた子犬の様な目で…

「私も連れてって下さ…」

「断る」

「…最後まで言わせてくださいよ」

さくらはいじけるが、大学にまでついてこられちゃ、俺の楽しいキャンパスライフが目茶苦茶だ。

「だって、暇なんですよ?圭一さんが出掛けた後って」

「そんなの知るか。一人で出掛けたらいいだろう。」

そこまで言うと、さくらはぅぅと低く唸っていた。その間に洗面所で歯磨きを済ませ、ばしゃばしゃとぬるま湯で顔を洗った。

「前みたいに徘徊してりゃ、俺以外にも見える人間が見つかるかもしれねぇぜ」

居間に戻るとタオルで顔を拭きながらさくらに告げる。

「徘徊って…私、明治時代の人間ですが、ボケてません!」

「ふ〜ん。明治…って、地縛霊みたいなもんか?何か心残りでもあるのか?」

「っ…い、いいえ…だ、大学!そう、早く行かないと遅刻しますよ!それに、私は地縛霊じゃなくて雪女です」

さくらは言いながら、俺を部屋から追い出そうとして。

「いってらっしゃい」

「ぁ、ああ。行ってきます」

扉はバタンと、誰も触れていないのに勝手に閉められてしまった。…多分、さくらの力だろうな。俺は、そのまま大学へと向かった。

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