遥の夢
ファミリーレストランを出た私は、映画館にたどり着いた。
ポケットに入っていた映画のチケットをもぎりのお姉さんにちぎってもらって、映画館の中に入る。
次々と席が埋まっていくなか、少し遅れて待ち人は来た。
「遥、お待たせ……珍しいじゃん。遥がそんなおしゃれするなんて」
親友はことさら明るい声で隣の席に着いた。
「もう、遅いよ」
この映画はもうすぐ上映期間が終わってしまうのだ。
「でも、服褒めてくれたから許したげる。たまにはかわいい服着ないとね」
「ほら、始まっちゃうよ」
映画は迫力の出来だった。
激しい剣戟と美しい魔法のエフェクト。何千のモンスターの大群をなぎ倒す主人公とそれを助ける呪われた王子。巨大な竜を操り、悪王の喉元に剣を突きつける。
からからと、映写機の音が響く。
気づけば、画面は真っ白になっていた。
いつの間にか、映画は終わっていたようだ。
二人とも、真剣に映画を観ていたはずなのに、テレビCMで流れていたシーンしか印象に残っていない。
当然だ。私も彼女も結末を知らないのだから。
「終わっちゃった」
「終わっちゃったね。次は何を見に行こうか……」
他の観衆が消え二人っきりになった映画館。
私が首を振ると美紀はクシャリと顔をゆがめた。
「望みは十分叶った」
嗚咽をもらす親友をぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう」
抱きしめていたはずの友人の感触が、姿が曖昧になり……
消えた。
夢から覚めたのだろう。