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ある幽霊の話  作者: くらげ
終章
8/10

占い師の別れ

「……」 


 朝の目覚めは最悪だった。


 闇の中で震える少年。暗すぎて顔は判別できない。


 が、本当に俺が細工したとおりの夢を見ているのか、本人に聞かなければ、わかない。

 他人の夢を一回自分の思い通りにいじるだけでもかなり疲れるのに、回数指定でタイマーを仕掛けるなんてやったことはない。


 一応、警察などに名乗り出たり、捕まったりすれば、5回に1回から10回に1回に間隔が開くようにしているが、それもうまくいっているかどうか。



 その日の夜のニュースで、少年が逮捕されたことを知った。



 ファミリーレストランで、いつの間にか出されたコーヒーを見つめる。


 そこに遥さんが現れた。

 何か雰囲気が違うなと思って彼女の姿を見直すと、服が制服とは違って、風呂に落ちた彼女にプレゼントした花柄レースの服だった。 


「犯人捕まったよ」

「じゃあ……あの世ってところに、いかないといけないかな」


「俺は死神じゃないから、成仏の仕方なぞ知らないぞ」


 さっきから、花柄の服に視線が行っていることに気づいたのか、彼女は胸に手を当てた。


「こういう感じの服を買ったことあるんだけれど、似合わないって思って結局、着なかった。

 一度くらいこんなかわいらしい服着て、デートとかしとけばよかった。まあ、相手なんていなかったけれど。 ……今からどっか出かけない?」


「いや、遠慮しておく」


「なんで? この服の本当の持ち主が怒るから? 夢の中なら、ばれないよ」


 遥さんはレース地の服のすそを摘まんで、くすくす笑う。


「夢の中でちょっとかわいらしい女性に見入っていたら、その女性がゾンビになったことがあった。あんな経験は二度としたくない」


 彼女がぷっと吹き出して、爆笑する。 散々笑って、笑って……笑いすぎて目にたまった涙を、両こぶしで隠した。くぐもった小さな嗚咽が、一度だけ耳を掠める。


 無理もない。たった16歳だ。


「じゃあ、仕方ないか。 この服、着ていっていい?」


「奥さんが高校生のときの服だから、流行のものじゃないけれど、それでよければ」


 夢の中とはいえ、死者に妻の服を無断で渡すのはどうかと思うが、結局は夢の中だし、まあ女の子の最期の願いだし。


 この服、まだどこかにしまっていたはずだから、起きたら掘り出して塩だけは振っておこう。


「奥さんいくつなの?」

「勝手にばらしたら、それこそ怒られる」


「イメージがしっかりしていない服はぼやけるって言っていたよね? この服、細部まで細かく再現されているみたいだけれど、何か思い出の品だったりするの?」


 まったくもってその通りなのだが、「夢魔の力だ」とごまかしといた。


 他愛のないおしゃべりをして、彼女は気の済むまで話せたのか、にっこり微笑み丁寧に礼をして、去って逝く。


 その背に、「本当の相手は俺じゃないよ」と囁いた。

 伝えずとも彼女にはわかっているはずだ。




 翌日--


 俺は、真っ白な花束を現場に手向けた。花束の中に、映画のチケットを一枚忍ばせて。


 サジは『お姫様とスケルトン』と『ゾンビとアカツメクサ』にも登場しています。

 そちらは、かわいい童話風になっています(たぶん)。

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