夢か幻か……現か
夢には、稀に未来の情報が含まれている……らしい。
遥さんは、内容は覚えていないが数日前から悪い夢を見ると言っていた。
数日前から、夢の中で警告を受けていたのに、予知夢を見過ごしてしまった。
彼女がもし一日早く、占いに訪れていたら……ちゃんと夢の意味を紐解けていたら、事件を防げていた……と考えるのは都合がよすぎるが、それでも何かできていたのではないかと思うと、胸の奥に何か詰まったような感じになる。
夢の中で遥さんと接触した翌日、葬儀が終わって美紀さんに声を掛けた。声を掛けても夢の中のことを言うかどうか迷ってしまったが、前日よりもやつれて見える少女に言ってしまった。
今日、夢で会おうと。
夢は、過去の記憶を(稀に未来の記憶も)バラバラにして、再構成した世界だ。
記憶と直結している。
記憶そのものを見ることはできないが、夢なら覗くことはできる。
美紀さんの夢をフィルターにして、現実を夢の中に再構成する。
完璧に再生できなくても、きっかけがあれば何があったか思い出してくれるだろう。
夢の中のファミリーレストランに先に現れた美紀さんに何枚か撮った携帯画像を見せ始めたところで、遥さんが訪れた。
できれば、穏便に思い出して、成仏して欲しい。
◆
「あの夢は本当ですか?」
21日夕方、いつもの通りファミリーレストランで食事をしていたら、青ざめた顔をした美紀さんが訪れた。
夢の中で、遥さんが石段を転がる様は見事に『再生』されたが、あれが本当に起こったことかどうかなんて俺だってわからない。
答えられずにいるとそれを肯定と受け取ったのか、美紀さんは目を伏せ、涙をこぼし始めた。
「こんな……あんまりよ」
涙を枯らして、泣く少女を慰める言葉が見つからない。
「私、警察に--」
「なんて言うんだ。夢の中で、その男子生徒が遥さんを突き落としたのを見たって言うのか? 夢は夢だ。現実じゃない。君が昨日見た夢は、君の願望で作り上げたただの幻想だって思うのが普通だろう」
所詮は夢。 現実には届かない。
「昨夜、私が見た夢の内容をきっちり言い当てているじゃないですか」
「俺は、自分の力をそこまで信じちゃいない」
あの夢の中の遥さんも、男子生徒も本当にただの夢で、俺と美紀さんはたまたま同じ夢を見ただけかもしれないじゃないか。
「……じゃあ、夢の中でいい。罰を」
底冷えするような声で、美紀さんは言う。
「すべては夢だというなら、かまわないでしょ?」
「顔は知っているけれど、現実で見ていたり名前がわからないんじゃ……」
人の夢をいじれる力は確かにあるが……
手がかりが、顔と制服だけじゃな。
こっちは本業もあるし、第一、復讐なぞに使うのは激しく気が進まない。
「名前は私が調べる」
そう言って、通学かばんの中から小さなノートを取り出した。
「今朝、起き上がって、一番最初書いたものです」
小さなノートには、少年の特徴や事件の状況が書きなぐられていた。
そりゃ、携帯のあのぼやけた画像だけじゃ、特徴はわからなかっただろうが、あんな至近で犯人の顔を見たんだから、実際に見たのならこれだけ書けてもおかしくないだろうが……。
夢の情報は、すぐ消えていってしまうのに、よくここまで書きとめられたものだ。
ノートからすさまじい執念が伝わってくる。
この子、俺が止めなきゃ夢の中の男の子を探し出して、本気で警察に訴えるつもりだったんじゃないだろうな。
警察に事情聞かれたら、怪しげな霊媒師扱いでこっちが逮捕されかねない。
「じゃあ、その夢の中の男子生徒が実在していたら、考えてもいい」
数日後……。本当に、彼女は犯人を見つけてきてしまった。