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ある幽霊の話  作者: くらげ
夢魔と友の夢
5/10

夢魔の夢

 

「すみません。遥は来れません」


 --やはり


 篠山 美紀さんの言葉で、俺は重いため息を落とした。


「知っている。ニュースになっていたから。これから、通夜?」


  こくりとうなずく美紀さん。


「もし、知っているようなら明日の葬儀の場所を教えてくれるかな」


 今日はまだ、はっきり答えを渡せない。渡す覚悟もない。


 ◆


 菱川 遥さんと篠山 美紀さんの夢へのパスをもらった夜、彼女達の夢にお邪魔した。


 篠山さんの夢は、まあ、有名俳優さんとデートしたり、なんかかっこよさげな同年代の学生とデートしたり、とても、幸せそうな夢だった。


 夢占い師といっても、実際は人の夢に入り込めるだけで、夢の意味がわかるわけではないので、実際は夢占いと言うよりも、夢当てと言ったほうがしっくりくるかもしれない。


 菱川さんの夢は何度も何度もビルから落ちる夢だった。


 まあ、直下の箱みたいなものに落ちているだけだし、再びビルの上に現れるときは、どこも怪我をしている様子はない。ただ繰り返しているだけ。 


 テストで悪い点を取ったとか、今から取るとか、でもあの影は何だろう。夢の中は現実とは違って集中すれば、かなり遠くのものもはっきり見えるはずなのに、目を眇めても、顔はわからない。


 ただ、その影は学生らしく制服だけがはっきり見えた。自分が卒業した高校の制服ならまだしも、他の高校の制服なんて知らないので、どこの学校の生徒かわからない。


 この男子生徒とフォーリンラブとか?などと馬鹿なことを思った。


 まあ、夢の内容をまるまる伝えるだけで、たいていは面白がられるから、深い意味なんてどうでもいいのだが。


 ◆ 


 翌朝、朝食を取りながらテレビを見ていると、地方版ニュースでちらりと高校生が、公園の階段から転落死したと出ていた。

 住所が近所だったので、テレビをよく見てみると見知った公園の画像と名前のテロップが映し出されていた。そのテロップは『菱川 はるか(16)』となっていた。


 ◆


 菱川 遥さんが、昨日会った菱川さんでなければ、と思っていたのだが、篠山 美紀さんが真っ青な表情で、店に入って来て、それはかなわなかったのだと知る。


 話せる内容もなく、本当はあるのだが……美紀さんに自身の夢の内容を伝えれるような気分ではない。


 コーヒーを飲みながら、ニュースと新聞で知ったわずかな情報を思い出す。


 遺体が発見されたのは、昨夜の午後8時頃。娘に本を読んでやって寝たのが……午後8時頃だった。


 自分は死者の夢に入ったのか?

 

 ぞくりと背筋に這うものがあった。 深く考えたら、気分が悪くなりそうだ。

 


 翌日の葬儀には出席すると言いおいて二人分の食事代を出して、店を後にした。


 ◆


 基本的に、夢の中に入るときは、通行人Cになるように心がけている。

 なるべく夢に影響を与えないように、本人とは接触せず、少し離れたところから眺めるのだ。


 昨夜はそうしていたのだが、今夜は、彼女と会って……


 夢の中で犯人を暴いたからって、どうすることもできないのは、わかっている。


 昨夜、自分が夢の中で見たのが、幽霊だとは今でも信じがたい。


 でも、娘がこんなことになってしまったら……そして、もしあの世に行かず現世をさ迷うことになったら、きっと何もせずにはいれない。


 遥さんの夢の中に入れないなら、きっとあの世にでも、逝ったのだろうと思い込めるが、残念ながら夢の中にはすんなり入れてしまった。 


 彼女は生前と変わらない姿でいた。

 幽霊だと思うと腰が引けるが、骨や腐りかけよりかずっとましと自分に言い聞かせ、携帯で写真を撮り終えた後、彼女に近づく。


 夢か幻だか、あの世の境だかの狭間で、同じ繰り返すのは哀れだ。


 遠くでは、わからなかったが、彼女が落ちていたのは、風呂だった。彼女がそこに落ちて水しぶきがあがる。


 水……。まさか。


「さっきまで服着ていたのに!」


 知るか! 死んでいるってわかっているのに、じろじろ見るか!


 昔、ある夢で、美女がゾンビになった夢を思い出してしまった。

 で、芋ずる式にゾンビやスケルトンに追われた懐かしい夢も……。

 

 とりあえず、ゾンビ関係の記憶は横にやって、風呂の中に人差し指をほんの少し浸けた。


「川か」


 指をほんの少し水面にひたしただけで、指先から一気に脱力し、溺れているわけでもないのに急に息苦しくなる。

 

 見た目には澄んだ水だが、俺には血を湛えた三途の川に見えた。

 

 あの影をこの目で確認したほうがいいかもしれないが……

 慣れた夢なら、翼を生やして屋上まで飛べるが、携帯や服を出した上、“川”に触れたせいで根こそぎ気力を奪われてしまっている。


 ビルの屋上を見上げると、すでにその影は消えていた。

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