ある幽霊の真実
一時は、事故扱いになりかけていたが、犯人は捕まった。
犯人が逮捕されたのは、まあいいとして、こんな若い身空で死んでしまうとわかっていたら、一度くらい誰かと付き合っていたのに。
やっぱり成仏とやらをする前に、一度くらいデートしたいな。
そんな風にぼんやり思いながら、白いゆりの置かれた席の上から授業を眺めていたら、教師が間違って『菱川さん』と呼んだ。
絶対聞こえないだろうなと思いながらも、「はい」と答えてみた。
その途端、一人の男子生徒が騒ぎ出す。
「今、なんか聞こえなかったか?」
「別に」「ねえ」
女子生徒たちがそろって首をかしげる横で、別の男子が声を上げる。
「俺も聞こえた。絶対菱川の声だって」
私の存在を気づいてくれた。声を上げた男の子の横に来て、耳元で「はい」って呟いた。
「い、今……耳元でこっ、声が」
悲鳴が上がって、クラス全体がざわめきだした。
「おい、おまえら、静かにしろ!」
教師の怒鳴り声で教室が一瞬静まる。
怒鳴った教師の顔も男子生徒たち同様、わずかに引きつっている。
でも、誰も私を見てくれなかった。
◆
あの日以来、見つけてもらえるよう日夜努力している。
努力といっても呼ばれたら答えるくらいしかできないのだが、声は届けどもまったく姿が見えていないようだ。
今でも、私を呼んでいるくせに、返事をすれば、塩振られたり、数珠を向けられたり、「南無阿弥陀仏」って唱えられたり、机にお札を貼られたり……。
十字架のペンダントは、贈られたらうれしいかもしれないけれど、投げつけられるのはちょっと。
あ~あ、どっかにイケメン霊能少年とかいないかな。
まあ、本物の霊能者なら、お祓いされちゃうかもしれないけれど。
◆
それから十数年後。
私が死んだ年にいた先生はほぼすべて入れ替わり、私の噂はゆっくり廃れていった。
「菱川」
女性教師が、生徒の名を呼ぶ。
ああ、今年はついにこのクラスに「菱川」って人が、入ってきたのか。
それも私が座っていた席。
「「はい」」
いたずらで名を呼ばれることが無くなっていたので、最近試していなかったが--
「今、誰が答えたんだ?」
菱川君の近くの男子生徒が私の声を騒ぎ出した。
「なに?」「どうしたの?」
「今、女の声がした」
「えー? 幽霊?」
「でもね。この学校って、昔--」
周りの女子も騒ぎ出し、騒ぎがクラス全体に広がる。
その中で、菱川君だけが、私のほうを呆然と見つめていた。
見つけてくれた私と同じ姓の少年は想像していたようなイケメンじゃないどころか、おどおどした風なメガネの男子だけれど。 というかこっち見ておびえているし。
まあ、でもお話からはじめてみるか。
私は、クラスの喧騒を尻目に、菱川君に微笑んだ。
ホラー詐欺なお話を最後までお読みいただきありがとうございました。




