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夏、再び

季節は何もしなくても巡る。

彩りも鮮やかな秋が訪れてそしてモノトーンの冬が過ぎていく。

春になると少しずつ俺も変わって進むべき道を見つけ勉強も始めた。

そしてまた夏が来た。


「はるちゃん、遅刻するよ」

「ん、うん」

「姉ちゃん、ちゃん付けはそろそろ卒業しようぜ」

「はい、は・る・ち・ゃ・ん。ご飯」

朝からもの凄い顔で睨まれた……

姉ちゃんが用意してくれた朝ご飯を食べて家を出る。

「はるちゃん。今日、お姉ちゃん少し遅くなるから」

「判った」

「7時までには帰るからご飯だけ宜しくお願いね」

「ん、行ってきます」

「気を付けて行くのよ」


玄関を出た途端、朝から蝉たちの大合唱が聞こえる。

江戸から明治にかけての街並みが連なっている白壁の家々が続きナマコ壁の民家も相変わらずだ。

鋼色の瓦や白壁に反射した太陽が目に突き刺さり思わず目を細めた。

「暑いな、今日も」

空を見上げると青い空に白い雲が泳いでいる。

あの日と同じように犬寄川の川沿いに向かいバックからカメラを取り出し川の流れにピントを合わせた。

すると革の大きなトランクがファインダー越しに見える。

カメラをバックに仕舞いトランクを覗き込むと赤茶のロングヘアーの女の子がしゃがんでいた。

腰に手を当ててため息を付いた。

「成長しないんですね」

「うう、酷いよ」

「でも、そんな先輩が大好きですけどね」

「はる君が愛してるって、会いたいって伝えてくれたから……」

飛び上がる様に俺に抱き着いて来たのはノア先輩だった。

今まで出来なかった分を込めて抱きしめる。

「はる君、苦しいよ」

「今まで我慢してきた分です」

「本当に?」

「会いたかったです」

学校に着くまで戻ってこられた経緯を教えてくれた。


教室に入りカバンを机に置くと早生が声を掛けてきた。

「よう、遥」

「おす、早生」

「今日は何だか違うな」

「そうかちょっと良い予感がするんだ」

そこに香苗と清見がやってきた。

「何しに来たんだよ。香苗と清見は隣のクラスだろ」

「朝の挨拶だよ」

「おはよう、じゃあな」

「先輩に言いつけてやる」

早生が清見を必死に引き止めているのも3年になってから毎朝の様に繰り返されている光景だ。

「おはよう、早生君」

「おはようございます。柚子先輩」

「あら、同級生に先輩は失礼じゃなくて。ね、遥君」

「おはよう、柚子」

これも3年になってから毎日の様に繰り返されている挨拶だ。

柚子先輩は成績が優秀だった筈なのに留年して俺達と同級生になっている。

誰が聞いても理由は絶対に教えてくれない。

だけど俺はその理由を今日なんとなく知る事が出来た。

「あら、遥君は良い予感でもするのかしら」

「まぁ、ですね」

笑顔で返すと柚子先輩が笑い返してくれた。

そこに担任が入ってきてホームルームが始まった。


「はーい、甘平さんと松前さんは教室に戻りなさい」

「蜜柑ちゃん、今日も可愛いよ」

「先生の名前は実夏みかです蜜柑じゃありません」

清見と香苗が慌てて教室に戻ると蜜柑ちゃんもとい実夏(みか)先生が頬を膨らませながらホームルームを始めた。

「今日は大事なお知らせがあります。実は転校生が来ています」

「蜜柑ちゃん、男? 女?」

「素敵な女性ですよ。はい、入って来なさい」

ドアが開いて小柄で赤茶色のロングヘアーのノア先輩が入ってきて教室が騒然とする。

早生が立ち上がり口を開けたまま俺と柚子先輩を交互に見ている。

「それじゃ、自己紹介して」

「はい、大森ノアです。皆さんとはお会いした事があると思いますが、もう一度3年生として戻ってきました。宜しくお願いします」

苗字が変わっていたけれど誰も気に留める様子は無かった。

俺も苗字が変わろうがそんな事は気にしない。

「そしてもう一人転校生がいます」

「嘘だろ、信じられねぇ。奇跡だ!」

「はい、入って来なさい」

歓声と奇声が混じり合った声が上がる。

教室に入ってきたのは赤茶色のロングヘアーでモデルさんの様なスタイルの女の子だった。

俺は彼女に一度だけあった事があった。

「それじゃ、自己紹介をして」

「伊予ノルンと申します。遥お兄様の義理の妹になります。宜しくお願い致します」

怒号交じりの声が上がり教室が揺れる。

すると何事かと隣の生徒や先生までが覗き込んで更に声が上がった。

そんな生徒に混じり清見と香苗も驚いた顔をしてノア先輩に手を振っている。

「ねぇ、早生。あのモデルさん誰なの」

「え、あ、遥の義理の妹さんでノルンって名前だったかな」

「はぁ? 遥の義理の妹?」

もの凄い一日が過ぎていく。


「まだ、終わりじゃないの!」

「帰って良いか?」

思いっきり清見と香苗に睨まれた。

ノア先輩とノルンちゃんは目の前にある釜玉に釘づけになっている。

早生は柚子先輩の横で猫を被っていた。

清見に拉致されるように大洲屋に俺は連れて来られ、ノア先輩とノルンちゃんは大洲屋の釡玉をエサに釣られてきた。

「で、遥。説明してもらおうか」

「ノルンちゃんはノア先輩の妹だ」

沈黙が続く。

人間は本当に驚いた時は声が出ないらしい。

「それじゃはる君。何でノア先輩は大森の名字に変わっているの?」

「それと何でノルンちゃんが義理の妹なんだよ」

「俺が知る訳ないだろう」

「ノア姉様の妹である私が遥お兄様の義理の妹という事はそういう事ですよ」

清見と香苗や早生は3人で顔を見合わせ?マークを量産している。

柚子先輩は素知らぬ顔をして俺を見て微笑んでいた。

義理の妹の事を考えてもそんな事実は無いし意味が判らない。

相変わらずノア先輩は幸せそうにしている。

「遥お兄様なら判りますよね」

「いまいち飲み込めないかも」

「ノアお姉様と婚姻の証をなさったそうじゃないですか」

「ノ、ノルン。あれはね、違うの」

ノア先輩が説明しようとするとノルンちゃんがノア先輩の前に手をだし今にも泣きそうな顔をしている。

そして……ノルンちゃんが泣き出してしまった。

「遥お兄様はあんまりです」

「ノルンちゃん、ちゃんと説明してもらえるかな地球とノルンちゃんの星では違う事が多いんだよ。だから俺にも判らない事が沢山あるんだ」

「は、はい。私の星では頭と頭を合わせる儀式は婚姻を表すのです。だから私は」

「ありがとう教えてくれて」

優しく頭をなでると泣き止んでくれた。

頭と頭を合わせると言うのはおでこをくっ付ける事と同じなのだろう。

確かにノア先輩と俺はおでこをくっ付けた事がある。

そしてノア先輩はその意味をおまじないと言っておでこをくっ付けた。

海での思い出が鮮明に蘇りノア先輩の覚悟まで感じる。

「確かにノルンちゃんは俺の義理の妹だね」

「は、遥、お、お前」

早生が撃沈し今日の大洲屋はやけに静かだった。

「柚子、確かこれで認められるんだよね」

「そうね。異星間の婚姻はどちらかの星の決まりに従えば両方の星に認められる。短期間でここまで理解するなんて遥は流石ね」

ノア先輩が柚子先輩に俺の事を聞いて驚いていた。

「でも、何で柚子ちゃんが呼び捨てで私がノア先輩なの」

「柚子は先輩だったけど今は同級生って、そうだねノア先輩も同級生でしたね」

「同級生だからなんだぁ」

頬を膨らませアヒル口になるノア先輩が見たくてちょっと意地悪をしてしまった。

「冗談ですよ。ノア」

「あ、ありがとう」

「それとノルンもね」

「お兄様、嬉しいです」

柚子先輩が留年した理由はノアとノルンが来ることを知っていたからなのだろう。

何故なら柚子先輩は観察官なのだから。

「ノルンは何処に下宿するのですか?」

「え、あの。実は」

「姉ちゃんが聞いたら大喜びするからノルンが俺の姉ちゃんに聞いてみな」

「はい、お兄様」

大切な仲間が1人増えて皆で釜玉を食べる。

ノアがノルンに先輩ぽく釜玉の食べ方を伝授していた。

「でも、遥があんなに勉強しているとは思わなかったよ」

「大学を出ていなくてもなれるって柚子に言われてね。それにどうしても関わりたかったんだ」

俺は外交官になる為の勉強をしている。

ただし俺の夢は海外ではなく星々を相手にする外交官になる事だ。

ノアとノルンを連れて家に帰っていると家の前に姉ちゃんの車が止まっている。

そして姉ちゃんが俺達に気付いて手を大きく振って走ってきた。


また新しい仲間が増えて良い予感がする。


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