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雨打つガラスの内側

今回は文学っぽいと思う。

 午後から青空を覆い始めた雲は、ぼくたちが家路につこうした頃には空一面に広がる大きな大きな黒雲の塊へとその姿を変えていた。秋の冷たい雨がアスファルトを濡らしていく。ぼくはそんな外の景色をロビーのソファーから眺めていた。このままじゃ、明日風邪を引くかもしれない。

 いつの間にかソファーの向かいに彼女が座っていた。この大学にいるぼくの唯一の知り合いで、幼馴染み。昔からのかわいいと持てはやされているが、ぼくの一番の天敵だ。

「あんた、傘は?」

 ほらきた。

 彼女はぼくの事を良く知っている。昔からの付き合いだから、癖から性格、好きな女の子のタイプまで何でも知ってるんだ。だから、ぼくの抜けてるところを鋭く探し当て、的確に針でつっついてくる。

 案の定、傘を忘れたことを告げると、

「バカじゃないの?」

と今日十回目の台詞を、十回とも同じ人から言われた。そんな事分かってるのに、誰かに改めて言われると少し傷つく。ぼくの心はガラスでできているのに、彼女はそんな事もお構い無しだ。

「バカじゃないよ……」

 ぼくは力なく返事した。そもそも、今から雨の中を走って帰らないと行けない事を目の前にして、ぼくはもはや落ち込んでいたんだ。それなのに彼女ときたら。分かっていたのに言ったに違いない。この性悪め。

 でも、ぼくか傘を忘れたのには原因がある。朝目覚めてから何かちょっとした事を忘れてて、まるで喉に突き刺さった小骨のように気になっていたんだ。傘を忘れてしまった原因のそれは、今もモヤモヤと渦を巻いている。

 まったく。そう言ってから彼女は呆れ果ててこう続けた。

「今日は降るって朝電話したでしょう」

 渦が突然動きを止めた。

 そうだった。朝、ねぼけ眼のぼくのところに、彼女は電話をくれたんだ。

「今日は晴れてるけど、午後から雨が降るよ」

って。そうか。そうだったんだ。忘れていた事はこの事だったんだ。

 うん? それじゃあ彼女のせいで傘を忘れたのか?

 そんな事を口走ったら、今日十一回目の台詞を同じ人からまた言われた。

「バカじゃないの?」

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