七、荒野の命泥棒「その三、樽上(たるうえ)の弔砲(ちょうほう)」
「なんちゅうもん使うんだ、きさまあ!」
ついに町まで、あと三分の一の距離に近づいていた。猛スピードで遠ざかる列車を見て、ドンは相方にキレたが、相手は、なぜかことのほか落ち着いている。それで、ますますキレに磨きがかかるボスに、雇われ魔道士はいさめるように言った。
「ご心配なく。ほら、ごらんなさい」
見れば、汽車はあっというまにまたスローダウンし、停まった。
「永遠など、ありません。ゾンビどもも、幽霊ではなく実体です。使うたびに薄まって消えてしまう」
「わははは」
ドン・セレスはもう聞いていなかった。豪快に笑いながら、馬車を列車に近づけていった。
ガンマンどもに包囲され、汽車から降りたニノッチ一行を、ドン・セレスは薄笑いで迎えた。
「ドン・セレスだ、お初にお目にかかる。いやニノッチどの、人相書きの数倍は美女ですな」
「よく見かけるけど、どれも下手だからね」
賞金稼ぎは両手をあげたまま、涼し気に言った。ちなみに彼女以下、メンバー全員が降参ポーズである。
「減らず口を。どうだ、俺の女になれば命は助けてやるぞ」
「もっと気の利いた口説き文句じゃないとねえ」
そこへ来たリーボックは、ヨーコをしげしげと見て言った。
「これは、かの東洋の魔女、ヨーコではないか」
「へえ、まだ魔法を使える者がいたのね」と真顔で返す魔女。
「さきほどの暗雲、見事でしたぞ」
「それはどうも。あなたのゾンビもなかなかでしたわ」と皮肉る。
「いやいや、私ごときなど」と手と顔を振って謙遜する。ふざけているようでもなく、本気らしい。「あれでもう魔力を使い果たした。明日まで、なにもできん」
「使える仲間がいて、よかったわね」
ニノッチの冷笑に、真顔になるドン。
「ふん、誰がおまえのようなヤバい奴を女になぞするか。生かす気など、最初からないわ。おまえにも嫌ってほど賞金がかかっとるんだ。俺が逃すと思うのか。でかい組織に突き出して、ボロ儲けだわい」
「まあ、仕方ないわね」と目を閉じて、思いのほか素直に言うニノッチ。そして顔をあげ、「最後に弔砲を撃たせてもらえないかしら?」と願い出た。
「弔砲だと?」
「今までものすごい数を殺してきたから、死ぬ前にせめて彼らをとむらって、償いがしたいのよ」
「そんなことを言って、また魔法で小細工する気だろう」
「それは無理のようです」とリーボック。「あちらも、私と同じく魔力ゼロです」
「それならいい」と薄笑いを浮かべる。「とっととやれ!」
ニノッチはユーリを呼び、一緒に樽の上にあがった。それをヨーコが横目でじっと見ていた。
「あなたの助けがいる。私があっちに撃ったら、弾をはじいてほしいの」
「あなたの弾に私が弾をあてる、ということですか?」
あんまりな提案に、ユーリはしばし固まった。
「一発じゃダメだけど、二倍の力なら湖まで届くわ」と真剣な目になるニノッチ。「ユーリ、あなたならできる。いや、ユーリにしかできない。お願い」
「……わかりました」
さっそく虚空に向かい、両手で銃を構えるニノッチ。すぐ先でユーリも同じく構えたが、足が震えた。
(そんなことできるだろうか?)(こんな私に)(こんな……)(自分で自分のことを大嫌いな私なんかに……)
だが、そんな自分を信じてくれる人が、後ろで見ていてくれていることに気づき、たちまち胸が熱くなって震えが止まった。
(大丈夫、やれる)(いや、やってやる……!)
彼女はグラサンを外した。
「行くわよ!」
「はい!」
らしくないほどに大きく返事をした直後、背後で銃声が響くと同時に、こっちも撃った。ユーリは、かつてないほどの食い入るようなぎょろ目でにらみ、念じた。
(行け行け行け行け!)(当たれ当たれ当たれ当たれ!)
その凄まじい眼光に押されるごとく、その弾はニノッチのそれに追いつき、激突して火花をあげた。押された弾丸は、数倍のスピードで大空を飛んでいった。
「終わったな」
二人が降りてくると、ドンはニヤついて言った。
「では、蜂の巣になってもらう」
これにはニノッチも目をむいた。
「突き出すのでは?」
驚いて聞いたのは、彼女ではなく、隣のリーボックだった。
「最初の組織の話じゃ、とんでもない美女ってことで、生きてりゃ倍値だったんだが、こいつがあんまりしぶといせいかね。さっきの報せで、死体でも倍でかまわねえ、とさ。なら、ここで殺したほうが楽だろ?」
「あっそう」
ニノッチは嫌そうに眉をひそめたが、すぐに口元をつりあげた。
「いいけどね」
「なにがおかしい?!」
ぎょっとするドンに、腕組みして言う美女。
「ちと、手遅れだったようね」
「なんだと?!」
そのとき、背後から地響きのような轟音が聞こえてきた。振り返った悪人どもの目に、数十メートルもの高さの、巨大な水の壁が押し寄せてくる地獄が映った。




