六、荒野の命泥棒「その二、永遠のゾンマキ」
ドンと屋根なし馬車に同席した魔導士のリーボックは、うっかり「少々の水など、いいではないですか」と言いかけて口をつぐんだ。相手のドケチさは身に染みている。彼は今どき珍しく相当の魔力を保った魔法使いで、その実力は何度も見ているはずだが、報酬はしみったれていた。が、それでも生活や賭け事の借金など、もろもろの事情でやむなく付き合っている。それでも相手の小者ぶりにへきえきすることしばしば。今回、金をもらったら、ただちに手を切るつもりでいた。
馬に鞭打って飛ばすドンは、隣のリーボックに怒鳴った。
「奴らを止める術くらい、あるんだろうな?!」
「もちろん。ただ、部下のおひとりを、お借りしなくてはならないが……」と、最後にニヤリと笑うように、「永久に」
「かまわん! 誰だろうが、好きに使え!」
投げやりに言い、線路の先に樽のケツを認めて目をこらす。
「タダ飯を食わすわけにはいかんからな!」
すると魔導士は、隣を過ぎる部下の背中に、一枚の白いカードを投げて貼り付けた。ドンは妙な顔をした。
「なぜ、あいつに?」
「すぐ死にそうなので」
左右から馬で追いすがってくるガンマンたちに、さすがのフラウもビビった。
「きゃううーっ! どどど、どうしましょう?!」
「飛び移ったら、叩っ斬っちゃって」と運転席のニノーチカ。
「行こう」
ユーリに言われて一緒にドアから出たはいいが、車体につかまって移動するには足場が悪く、フラウのビビリはマックスに達した。隣のユーリが、何度も「大丈夫、フラウはかっこいい、イケメン」などと励ますしかなかった。フラウは恐怖で刀の腕は上がるが、ほかは普通なので大変である。落ちたら元も子もない。
汽車の後ろの貨物車に薪が積んであり、その後ろの車両に樽が乗っている。ヨーコも出てきて釜にくべる薪を運ばなくてはならず、こちらも大変。
そうこうするうちに敵の二人が馬から樽の車両に飛び移った。一人はユーリが射殺し、後ろに続く奴は、おびえマックスのフラウが「きゃあああ殺されるうう!」と泣いて斬り捨てた。だが五、六人ほど乗ってきたので、ユーリは面倒だからグラサンを外し、連続撃ちで全滅させた。
「ひ、ひえええっ」
ビビる親友に、ユーリは優しく声をかけた。
「みんな死んだから、心配しなくていい」
だが相手が指す先を見て、さすがにぎょっとした。床に伸びる仲間の死体を、最初に殺したやつがガツガツ食っているのである。その背には白いカードが貼られていた。
「生ける屍――ゾンビーを作る札です」
馬車でのんきに言うリーボック。
「貼られた者は死んだあとよみがえり、人肉を食らいます。死んでいるので、もう殺せません」
「そいつはいい」とニヤつくドン。「キラー・ニノッチめ、これで奴も終わりだ」
さらに悪いことは続いた。薪を乗せている貨物車の、側面についている蓋の留め金を撃たれ、蓋があいて薪がガラガラと全て落ちてしまった。
「薪がないわ!」
運転室にもどって叫ぶヨーコ。
「停まっちゃう!」
そこへあわてたフラウも突入。
「ぞ、ゾンビが襲ってきますうう!」
その後ろから真っ蒼な顔を出すユーリ。
「いくら殺しても、死なない!」
スピードダウンする汽車を見てペースを落とすドン。
「薪もなし、後ろからゾンビ、そして我々かあ」
面白がるようにリーボックが言った。
「こりゃもう、おしまいですねえ」
背後から噛みつこうとするゾンビの口を刀の刃で押さえるフラウ。
「何匹も来ます! もうダメですうう!」
ところが、ニノーチカは余裕の笑みを浮かべて言った。
「薪なら、あるじゃない」
そして、いきなりフラウのところへ行き、ゾンビの前髪をつかんで引き寄せると、頭を釜に突っ込んで尻を蹴とばした。中でめらめらと燃えるや、汽車は煙突から盛大に煙を吐いて生き返り、猛烈に走りだした。
これだとばかりに、ニノーチカたちは、入ってくるゾンビを次々に釜に突っ込んで燃料にし、スピードアップさせた。
あわてて馬を鞭打つドン。
「なんだ、薪もないのにどうやって?!」
「そうか、その手があったか!」
つい笑い、にらまれて黙る魔道士。
「なあに、すぐ停まるさ」とドン。「ゾンビの数はたかがしれとる。すぐ切れて終わりだ」
「いえ、それがですね……」
たしかに、しばらくすると六人のゾンビすべてを使い果たし、汽車は停まるはずだった。ところが煙突から出る煙が黒雲を作り、そこから薪を積んでいた荷台に、雨がざあざあと降った。それを見て驚いたヨーコが、指さして叫ぶ。
「床から、何かが生えてくるわ!」
さっき焼いたゾンビが、気体から液体に変わって雨になり、床板の養分を吸って復活したのだった。植物が土から芽を出すように、頭が生え、肩から胸、腰、足と、人型が形成される。完全体になって足が抜けると、ゾンビなだけに食おうと襲ってくるので、フラウとユーリがそれをこん棒で殴って運転室に入れ、ニノッチがシャベルで釜にぶっ込んで燃料にした。一匹が燃え尽きても、次から次へと復活して襲ってくるので、それをまた突っ込む。するとまた煙から雨が床に降る。再び復活。そして燃料。
薪がゾンビに変ったのだった。シャベルでゾンビを釜にぶっ込みながら、ニノッチが後ろに叫ぶ。
「ゾンビを絶やすなー!」
いつまでも尽きることがないゾンビ薪。略してゾンマキ。それは、まさに永久機関であった。




