第87話:2戦目決着
ラウンド合間のインターバルで、
テーブルいっぱいの食べ物や飲み物を頬張る異様な光景。
グラトニィの食欲は留まることを知らない。
インターバル中の食事が終わるタイミングで、
次のラウンドが開始される。
((ふぅ、4R目だね。))
((──うん。突進は左膝のダメージを隠すための行動と推測。
隅に追いやられないように回り込みながら回避し、
引き続き左膝を攻撃するのがベストだよ。))
((左腕は痛いけど大丈夫そうだし、
ゼニスの指示通り回避しながら左膝攻めるよ。))
((──うん。))
4R目は開始早々、
グラトニィは腕を振り上げながら突進してくる。
グラトニィの右の張り手を回避しながら、
左膝に的確に蹴りを叩き込む。
4回ほど左膝に蹴りを入れたところで、
フェンスに寄りかかるようにグラトニィの動きが止まった。
((──遥、ベルゼブブの左膝ダメージ72%と推測。))
((OK。このまま一気に押し込もう。))
グラトニィとの距離を一気に詰め、
左足をしっかり踏み込み渾身の力を込め右脚を爆発させる。
メキッ、グラトニィの左膝が曲がってはいけない方向を向く。
その瞬間、巨体がゆっくりと落ちてくる。
巨体を支えるために腕をリングにつく、
すかさず支えになっているグラトニィの腕に蹴りを放つ。
腕を蹴られたグラトニィは戦意を喪失したような表情。
((これで、終わらせるよ、ゼニス。))
((──OK、遥。))
グラトニィの側頭部にポイントが表示され、
的確に右脚を振り抜いた。
ドゴッ、という音と共に
グラトニィはリングに完全に崩れ落ちた。
「よしっ、さすがに終わりでしょ?」
((──ベルゼブブの左膝ダメージ甚大、
頭部、腕へのダメージも考慮すると、
遥の勝率100%で、立ち上がる事は不可能と判断。))
((うん、だよね。4Rも続くとは思わなかったし......
早く部屋戻って、美味しいもの食べたいよね。ふふっ))
((──うん。そうだね。))
グラトニィはそのまま起き上がることはなく、
職員が4人掛かりで担架に乗せ運び出して行った。
「ふぅ」
((おつかれ、ゼニス。))
((──お疲れ様、遥。))
((ゼニスの実体化ができてるなら、
ここは絶対ハイタッチする場面なんだけどな~。ふふ))
((──実体化できるように努力するよ。))
「あっはは」
((まぁ、それはムリだけどね。))
((──うん。不可能だね。))
鳥籠のようなフェンスで区切られた檻の中から、
通路へと向かって歩く。
観客席では1戦目と異なり、
『Haruka』と書かれたタオルを振り回す者、
ずっと拍手をしている者など、
十分に盛り上がっていたことが窺える。
((ねぇ、わたしのグッズとか販売されてるのかな?))
((──観客席には、タオルやうちわなど、
一般的なアイドルグッズのような物を手にしている人がいるね。
そこから考えると、遥グッズが販売されているのは間違いない。))
((もう、わたしアイドルじゃん。))
「あっはは」
((──遥、嬉しそうだね。))
観客席に向けて手を振りながら、
通路の奥へと進んだ。
((まぁ、こんな経験できないからね。
嬉しいというか、少し恥ずかしさもあるけど......
応援?かな、してくれるのは嬉しいよね。))
((──うん。良い傾向だね。))
通路の奥では栞が待っていた。
「遥さん、お疲れ様でした。
管理官がお呼びでしたので、お着換えされた後にでも、
管理官室にお願いします。」
「うん、わかった、栞ちゃん。」
栞は会釈をして、その場を後にした。
「めっちゃ、愛想なくなったね、栞ちゃん。」
((──うん。そうだね。))
「管理官側の人だから、仕方ないけどね~。」
((──うん。))
部屋へ戻りシャワーを浴び、
サッと着替えを済ませる。
「お腹空いてるのにな~、少しお預けだね。ふふっ」
((──うん。早く済ませて、
遥の好きな物をたくさん食べよう。))
「うん、そだね。」
エレベーターに乗り、
管理官室のあるフロアへ到着。
黒にゴールドが施された重厚な扉をノックし、
管理官室へと脚を踏み入れる。
中央のソファに脚を組み座っている管理官が、
こちらへと顔を向け口を開く。
「七瀬サン、ご無沙汰デスネ。」
「はい、お久しぶりです。」
管理官はソファを手で指し示し、
座るように促してきた。
「七瀬サン、貴女ノお陰デ、売り上げモ上がってイマスヨ。
特ニ、グッズガトテモ人気アリマスネ。アイドル顔負けデスヨ、七瀬サン。」
「お役に立てているようで、よかったです。」
「動画ノ視聴数モウナギ上りデスヨ。
想定以上ノ成果ヲ上げてクレタ事ニハ感謝シテイマスヨ。
何カ、ボーナスデモ差し上げマショウカ。」
「ボーナスですか?」
「ソウ、ボーナスデス。
但し、サバイバル・レジスタンスヲ途中デ止めるナドノ
ご希望ニハ沿えマセンガネ。」
「それは、契約あるので、ムリなことは理解しています。」
「ウ~ン、ブラボー。実ニ賢明デスネ。
ご自身ノお立場ヲ良く理解シテラッシャル。
デスノデ、欲しい物ヤ要望デスカネ。」
「欲しい物とか要望かぁ......」
「今スグニデハナクテモイイデスヨ。
決まったラ、佐藤・スミス・栞ニデモ伝えてオイテクダサイネ。
ドンナ要望デモ叶えてアゲマスヨ。」
「わかりました。」
「七瀬サン、引き続き盛り上げてクダサイネ。
貴女ニハ、期待シテイマスカラネ。」
「はい。」
ソファから立ち上がり軽く会釈をして、
管理官室を後にした。




