第86話:予想外の劣勢
((ぜんぜん、効いてないし......無敵じゃん。ふふ))
((──遥、無敵な人間は存在しないよ。))
((そりゃ、そうだけどさ......ホントどうしよ......))
((──トレーニング通り脚から崩す戦術は継続しよう。))
((うん、そだね。))
ブー、電子音が鳴り1R3分の終了を告げる。
グラトニィは、ダメージを受けた素振りは一切見せず、
のっし、のっし、とゆっくりコーナーへと戻って行った。
((とりあえず作戦会議しよう。))
((──うん。))
コーナーへ戻って用意された椅子に座り、
ボトルに入った飲料を一口飲む。
((ねぇ、ベルゼブブ......なんか食べてない?))
((──そうだね。))
グラトニィのコーナーに目を向けると異様な光景が広がっている。
椅子とテーブルが用意され、1.5リットルサイズの炭酸飲料やスナック菓子、
アメリカンドッグなどが所狭しと並べられていた。
その食べ物や飲料を豪快に口に放り込み、
満足げな笑みを浮かべている。
「怖っ、あっはは、スゴイ食欲だね。まさに暴食じゃん。ふふっ」
((──うん。))
「とりあえず、動かないのかな2Rも?」
((──予測はつかないけれど、動くならチャンスが生まれるね。))
「確かにね......体重が乗ったところに一撃入れたら効率よさそうだし。」
((──そうだね。予測しながらポイント表示していくね。))
「うん。お願いね、ゼニス。」
食事を終えて満足そうなグラトニィが立ち上がり、
リング中央へと進むと同時にドローンも、
中央へ飛来しホバリングをする。
「よしっ!いこう!」
((──うん。))
2R目開始の合図と共にドローンはリング上部へ。
グラトニィは、1R目と変わらずリング中央でボケっと突っ立った状態。
((動かないのかな......))
((──動きそうな気配はないね。))
((とりあえず、少しでもダメージ蓄積できるようにしようかな。))
ARで表示されたグラトニィの左脛にポイント表示、
しっかり踏み込んで蹴りを入れる。
すかさずバックステップで間合いを取り、
引き続き左脛に蹴りを放つ。
5回目の蹴りが入った瞬間、
ARの人型表示の右腕が張り手のような形で動く。
ワンテンポ遅れて実際のグラトニィが、
横殴りの張り手を繰り出してきた。
((行動予測の精度高いね。さっすが~、ゼニス。))
((──うん。))
((これなら、余裕で躱せそうだよ。))
((──100%予測できるわけじゃないから、油断はしないでね。))
((OK。))
AR表示の人型が左脚を前に出し、
右手で横殴りの張り手を繰り出す。
それを見て、
後ろ回し蹴りを踵で、グラトニィの左膝に叩き込んだ。
ゴキッ、と音がしたがグラトニィの表情は変わらない。
その瞬間、バチン、と左側に衝撃が走る。
「痛っ......」
((──大丈夫、遥。))
((うん、力任せだから衝撃は強かったけど、大丈夫。))
((──よかった。))
((思ったより、リーチあるんだね......避けたつもりだったけど。))
((──そうだね。データを調整してAR表示に反映するね。))
((うん。お願いね。))
AR表示が同じように張り手を繰り出す。
その動きを見て、後ろ回し蹴りを再度グラトニィの左膝に放つ。
((ホント丈夫な人だね......))
((──少しずつ左の踏み込みが弱くなっているから、
ベルゼブブの左膝にダメージは蓄積できていると推測。))
((少しは効いてきたんだね。ちょっと安心。))
その後も、
AR表示の予測に合わせ回避と攻撃を繰り返したところで、
2R目が終了する。
グラトニィは少し左脚を引きずるように歩きコーナーへと戻った。
((足引きずってるよね?))
((──うん。左脚のダメージ率28%と予測。))
((まだまだだね......))
((──少しずつでもダメージの蓄積ができているから、このまま行こう。))
((うん、そだね。))
反対側のコーナーでインターバルを取っているグラトニィは、
相変わらず食べ物をむしゃむしゃと頬張っていた。
3R目開始の合図。
1R目と2R目と同様、グラトニィは欠伸をしながら、
リングの中央に突っ立っている。
左膝を目掛けて何度も蹴りを放つ。
((どうだろダメージは?))
((──46%と推測。このまま......))
次の瞬間、
グラトニィが怒りの表情で突進してくる。
AR表示の予測はなかったが、動きが遅く避けるのは容易だった。
「うわぁ、めっちゃ怖いんですけど~。」
((──予測できなくて、ごめんね。))
((うん、大丈夫だよ。))
((──予測データ修正完了。))
グラトニィは、
左膝に痛みを感じていないかのように引き続き突進。
その動きを見ながら、
的確に左膝に蹴りを叩き込む。
怒りの表情のまま突進を繰り返すグラトニィに少し気圧され、
いつの間にかリングの端に追い込まれていた。
((ヤバッ......))
((──遥、避けて。))
脳内に走る音声、AR表示の予測、
と同時にグラトニィの張り手が、左腕に炸裂する。
「ぐっ......痛っ......」
そのまま吹き飛ばされた。
なんとか立ち上がり距離を取る。
「左腕......上がんないかも......折れた?」
((──遥、身体データでは骨折はしていない。
中~重程度の打撲を負ったと推測。))
「う~っ、いたた......折れてないなら、大丈夫か......」
そのまま3R目終了の合図と共に、
グラトニィはコーナーへと引き返して行った。




