第85話:サバイバル・レジスタンス2戦目
サバイバル・レジスタンス2戦目の幕が上がる。
今回も、1戦目と同じくメインでの開催。
観客席は、先の調停が終わったばかりで明るく照らされている。
観客席を見渡すと、手元のスマホを見て、
うなだれて落胆する者、ニヤニヤと浮かれている者など、
賭けの結果が多種多様に表れている。
「よしっ!今回もばっちりトレーニング積んだから、絶対に勝つぞ!」
((──うん。トレーニング通りいこう。))
いつの間にか大型モニターには、
メインイベントであるサバイバル・レジスタンスの案内が表示されていた。
観客席からは待ちわびていたかのように、小さな歓声が所々から湧き上がる。
「前回と反応が違うよね?」
((──うん。管理官の望む形になってきているのかもね。))
「そだね、盛り上げたいって言ってたもんね。」
((──うん。))
「ベルゼブブの表示は......Gluttony......グラトニィ?
えっ!七つの大罪の暴食じゃん!あっはは」
((──そうだね。))
「もしかして、盗聴されてるんじゃないの?あはは」
((──間違いなく、盗聴と言うか、モニタリングはされているだろうね。))
「あぁ~、なるほどね。もしかして、シャワーとかもかな?」
((──そこまでは、流石にモニタリングしないよ。))
「そっか、それならいっか。いや、いいのかな?
別に減るもんでもないし、まぁいいのかな。ふふっ」
((──遥らしい考え方だね。))
「カメラとかそういうのあると思ってたし、いまさら驚かないよね。」
((──そうだね。))
会場の照明が徐々に暗転していき、
次の瞬間、入場通路とリングだけが煌々と照らされる。
静かな音楽が流れ、
ドスン、ドスン、と重い足音を響かせそうな巨体のグラトニィが、
リングへと向かって歩いて行く。
「ARで表示されたより、なんか大きい気がするんだけど......気のせい?」
((──身長に変化はないけれど、体重は5~10kg増えていると推測。))
「なんで増量してんの?最悪じゃん.......」
((──掴まれなければ大丈夫だから、心配しないで、遥。))
「そだね。ヒット&アウェイってやつだね。ふふっ」
((──うん。遥の心拍数、呼吸共に正常範囲。
緊張を示すデータも見られないから、落ち着いているようだね。))
「うん。大丈夫。勝って美味しいもの食べる。」
((──うん。))
グラトニィの入場が終わり、
先ほどまでの殺伐とした空気をあざ笑うような、
ド派手なピンクとゴールドのレーザー。
同時に流れ出した音楽は、甘い歌声が響くポップチューンだ。
観客席からは、ワー、キャー、など小さいながらも歓声が響く。
「うわぁ......前と違ってアイドルみたいじゃん。あっはは」
((──歓声も上がっているから、遥のファンが増えた証拠だね。))
「アイドルらしく、手でも振りながらリング行こうかな。ふふっ」
((──うん。))
観客席に手を振りながらリングへと向かうと、
歓声も少しずつ大きくなっていく。
「なんか、気分よくなってきたかも~。」
((──......))
「でも、気を引き締めないとだね。浮かれてられない。」
((──うん。))
リングへと入りグラトニィと対峙する。
グラトニィは、巨体の割には伏し目がちで、
どこか弱々しく見えた。
((なんだろ、戦うタイプにぜんぜん見えないね。))
((──そうだね。でも、油断は禁物だよ、遥。))
((OK。トレーニング通りいく。))
視界の隅で浮いていたゼニスは姿を消し、
目の前のグラトニィに重なるように表示された。
((おぉ、完璧じゃん。))
((──うん。))
審判役のドローンがリング中央へと降りてくる、
それに合わせてしっかり構えを取った。
((今回は油断しないよ。))
((──うん。))
ブー、という電子音が鳴り響き、
ドローンはリング上部へと舞い上がる。
と同時に、
グラトニィの左脛にポイント表示された。
間合いを一気に詰め右足の甲で蹴り抜く。
バチンっと、かなりいい打撃音が響く。
バックステップで距離を取り、
グラトニィの表情を確認した。
((う~ん、効いてなさそうだね......))
((──そうだね。ダメージは0に近いよ。))
((あら~......手数が必要ってことだね。))
((──うん。動く気配もないから、
同じ個所にダメージを与え続けよう。))
((OK。))
グラトニィの左脛に表示されたポイントを目掛けて、
連続で蹴りを放つも、全くダメージを受けている気配を感じない。
((痛いとか感じない人なのかな?))
((──先天性無痛無汗症の可能性は低いと推測。
痛みが鈍感になる疾患、神経障害などの可能性が高い。))
((それだと、脛とか太ももに蹴り入れてもね......ダメそうだよね?))
((──そうだね。関節を破壊するしかないね。))
((じゃ~、膝かな。体重も重いし支えをなくする感じで......))
((──うん。膝にポイントを切り替えよう。))
グラトニィの左脛に表示されたポイントが、
左膝へと切り替わる。
思いっきり踏み込み、
グラトニィの左膝を側面から右脚で蹴り抜いた。
ゴッ、と鈍く低い音が聞こえたと同時に、
右の甲に痛みが走る。
((ヤバっ、わたしの足の方が先に壊れそうだよ......))
((──そうだね。少し距離を取って立て直そう。))
グラトニィはダメージも感じていなそうな素振りで、
リング中央から全く動いていない。
頭を搔きながら欠伸までしている。
まるで、台風にもビクともしない大樹のように見えた。




