第81話:イルカショー観覧
水族館正面入り口の入場ゲートで、
係員に優待チケットを提示して中へと進む。
中央のエントランスは明るく、
トンネル水槽、海獣コーナー、触れ合いコーナーなど、
行き先に分かれて通路が設けられていた。
「けっこう色々なコーナーがあるんだね。」
((──うん。イルカショーや餌やり体験もあるよ。))
「へぇ~、子供とか喜びそうだね~。なんか、いいね。」
((──うん。))
((忘れてた......撮影されてるんだったね。))
((──前回の動画で、遥の独り言は認知されているんじゃないかな。))
「もぅ~、恥ずかしいな。ふふっ」
((──声出てますよ。))
「知ってるよ。あっはは」
少し遠目に撮影していた佐藤さんが近づいてきた。
「七瀬さんの独り言は、誰かと話しているみたいに聞こえますね。」
「あっ、えっ、そんなわけないですよ~。ははは......
独り言のクセが強いって、学生時代からよく言われていました。」
「そうなんですね。何か脳内にキャラクターが居て、
その相手と話しているとか、そんな感じだったりしませんか?」
「あ、あぁ~、それはあるかもしれないですね。」
「それなら納得しました。編集でも、そのことが伝わるようにしておきますね。
七瀬さんのキャラクターが、輝くように配慮しますので、ご安心ください。」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます。」
佐藤さんに軽く会釈をすると、
撮影クルーの側まで戻って行った。
((──遥、上手い言い訳だったね。))
((うん。学生時代からって言っておけば納得感あると思ってさ。
まぁ......学生時代のことも含めて、ほぼ覚えていないんだけどね。ふふ))
((──うん。))
((これで独り言も大丈夫だね。))
((──うん。))
トンネル水槽を抜け、
大型淡水魚コーナーへと進んだ。
一通り見て回ったタイミングで、
場内アナウンスが入った。
『本日も、ひより水族館にご来場ありがとうございます。
この後、中央プールにてイルカショーが開演いたします。
観覧ご希望の方は、お早めにお集まりくださいませ。』
「イルカショーか~。せっかくだし行ってみようかな。」
((──うん。そうだね。))
中央プールに向かって通路を歩いていると、
親子連れやカップルなど、多くの人が同じ方向へ進む。
表情は特になく、
ただ中央プールへと向かって歩くプログラムのように思えた。
((なんかさ、みんな楽しそうな感じしないよね。))
((──イルカショーは人気だから、
必死に良い席を確保しようと早歩きになっていると推測できるよ。))
((なるほど......だから、みんな無表情でスタスタ歩いているんだね。))
((──うん。))
中央プールへと着くと、
ひな壇状の観客席は、ほぼ埋め尽くされている。
「すごっ!めっちゃ混んでるじゃん!必死になるわけだ......」
((──遥、左上の奥が空いているよ。))
((ナイス、ゼニス。よく見てるね。))
((──正確に言うと、遥も見ているはずなんだ。
ただ、処理できていない情報を素早く解析しているだけの事だよ。))
「スゴイ、今のめっちゃわかりやすかった。」
((──うん。))
ゼニスが発見した席へと辿り着き、
無事に座ることができた。
観客席の照明が暗転し、
スポットライトが3方向からプールを照らす。
係員の指示に従いイルカは華麗にジャンプ、
水しぶきが観客席まで飛んできた。
観客は一切歓声を上げることなく、
ただ静かにショーを見続けている。
「イルカショーって、こんな静かに観るものだっけ?」
((──中央プール入口に、
大声を出さない、立ち上がらないなど、注意事項の記載があったよ。))
「そうなんだ、ぜんぜん見てなかったよ。ふふっ」
((──遥の代わりに情報処理をしているから、
見逃したとしても大丈夫だよ。))
「うん、ありがと。」
((──うん。))
イルカショーは無事に幕を下ろす。
拍手や歓声は一切なく、観客席にいた人達は、
前の席から順番に通路へと消えて行った。
「かわいかったね、イルカさんたち。」
((──うん。))
席を立ち、階段を降り、
通路を歩きエントランスまで戻ってきた。
「ちょっと、お店に寄りたいかも。」
((──うん。))
エントランス内にあるグッズショップに入る。
「イルカのぬいぐるみ~、かわいい。」
((──遥の幸福度が上がっているね。
反応としては、USA-DE-PPONと同じかな。))
「う~ん、よくわかんないけど、
かわいいものでテンション上がるってことかな。」
((──うん。簡単に言えば、そうだね。))
「このピンクのイルカのぬいぐるみ買おうかな。」
((──うん。))
「あとは......いっか。」
会計を済ませ、
ぬいぐるみを抱きかかえて店を後にする。
「うん、水族館楽しかった。ぬいぐるみも買えたし。ふふっ」
((──うん。))
出口から外に出ると、
佐藤さんが近づいてきた。
「七瀬さん、水族館はお楽しみいただけましたか?」
「はい、とても楽しかったです。」
「それはよかったです。
我々も、七瀬さんの素敵な映像が撮れたので編集に力が入ります。」
「はい、よろしくお願いします。」
「この後は、どうされますか?」
「今日は、もう帰ろうと思います。」
「では、お車にお乗りください。」
ワゴン車に乗り込むと、
調停センターへ向けて静かに走り出した。




