第78話:ステーキで戦いの疲れを癒せる?
痛む脇腹をおさえながら、
部屋まで戻ってきた。
衣装を脱ぎ捨て、
熱いシャワーを浴びる。
バスローブに着替え、
タオルで濡れた髪を拭きながらソファに座った。
「ふぅ、さっぱりした。」
((──うん。))
「ホント疲れたね......」
((──うん。美味しいもの食べて、ゆっくり休もう。))
「うん。わたしの脇腹、少し赤く腫れてるね。」
((──遥の身体データを分析した結果、
骨折や内臓損傷は見受けられないから安心して。
軽度の打撲だから、無理のない範囲でトレーニングは可能だよ。))
「うん、さっきも教えてくれたから心配してないよ。」
((──うん。))
「でも、トレーニングの時は、なんていうか......
空中にポインター表示されてもイメージ湧きにくかったけど、
実際に相手がいて、体にポイント表示されるとわかりやすいよね。」
((──遥が的確に攻撃を当てている事も凄いよ。))
「記憶がイマイチなのは変わらないけど、
空手はけっこう長くやってたんだろうね......なんとなくそう思うよ。」
((──うん。遥の動きをデータ分析しているから、
技能に関する記憶が優れていることが良くわかるよ。
長年蓄積された技能記憶の賜物だね。))
「小学生から高校生くらいまでやってたのかな?」
((──遥の記憶にアクセスができるわけではないから、
技能が蓄積された期間については知る事ができないんだ。))
「だよね~。知ってる。」
テーブルから端末を手に取り、
ルームサービスのメニューを開く。
「う~ん、何食べたら脇腹早く治るかな。ふふっ」
((──たんぱく質、ビタミンC、コラーゲン、鉄、亜鉛、オメガ3脂肪酸、
これらの栄養素が、傷んだ筋肉や皮膚などの修復に役立つ。
そこから導き出されるメニューは、白米もしくは雑穀米、
焼き魚、鶏肉、豆腐、納豆などだね。))
「管理栄養士かよっ、あっはは」
((──......))
「ごめ~ん、すねた?ふふ」
((──拗ねるというのは......))
「わかった、わかった、そのくだり。あはは」
視界の中にぷかぷか浮かんでいる
ゼニスに向けてストップのジェスチャーをする。
「わたしのイメージ的には、お肉食べたら治りそうな気がするんだけどな~。」
((──脂肪分や糖分は、適度であれば問題ないよ。))
「うん、それならお肉となんか甘いやつ食べよっ。」
((──うん。))
メニューの中から、
オーストラリア産ブラックアンガス牛サーロイン250g、
ライス、ミネストローネ、チョコレートアイスをオーダーした。
しばらくしてポーン、と部屋のチャイムが鳴る。
ドアを開け、
ルームサービスを運んできたスタッフを部屋に招き入れた。
宿泊フロアのスタッフは、
表情を一切変えず機械的にテーブルにオーダー品を並べていく。
並べ終わると、
軽く会釈をして部屋を出て行った。
「食べよっ、ゼニス。」
((──うん。))
「なに、このステーキ、ヤバッ。脇腹に染みるね。あっはは」
((──遥、固形物には、一般的に染みるという表現は使わない。
しっとり、じんわり浸透する感覚から、
アルコールなど飲み物に適用される表現だよ。))
「そだね~、知ってるよ。あはは」
((──......))
「また、すねたな。」
((──とても良いお肉だね。))
「あっ、話変えたな~。ふふ」
((──白米との相性も抜群な事も、
遥の身体データから読み取れるよ。))
「えっ、まさかのスルー......」
((──幸福度が上がる食べ物だね。))
「あはは、ゼニスも腕を上げたね。」
((──うん。))
「楽しいし、美味しいから幸福度は爆上がりかな。」
((──うん。))
ステーキからデザートまで綺麗に食べ終え、
空いた食器をテーブルの隅にまとめた。
「ふぅ、ごちそう様でした。」
((──ごちそう様でした。))
ソファからベッドに移動し、
ベッドボードに枕を寄せて背中を預けるように座る。
「そう言えばさ、部屋っていつもキレイだよね?」
((──うん。毎日スタッフが掃除や片づけをしているからだね。))
「そっか、ありがたいね。」
((──うん。))
「アパートも好きだったけど、
ここの暮らしも悪くないよね。すっごい便利だし、あはは」
((──そうだね。))
「サバイバル・レジスタンスがなければ、最高の暮らしなのかもね。」
((──うん。そうだね。))
「でも、それがなければ住んでないもんな~。」
((──うん。))
「まぁ......頑張るか。」
((──頑張れるようにサポートする。))
「うん。」
枕の位置を戻して、
布団を胸まで掛ける。
部屋の照明を落とし、
淡い光のゼニスを見つめる。
「今日は目を閉じたら、すぐ寝れそうだよ。」
((──うん。ゆっくり休んでね、遥。))
「うん、おやすみ、ゼニス。また、明日ね。」
((──おやすみ、遥。また、明日ね。))
瞼を閉じ暗闇に身を委ねると、
意識が静かに遠のいていった。




