第73話:新コスチューム
見慣れた風景を車窓から眺めていると、
あっという間に調停センターに到着した。
タクシー内で支払いを済ませ
運転手さんにお礼を伝えて降りる。
「帰ってきちゃったね、ふふっ」
((──うん。))
正面入り口から奥へと進み、
職員やVIP専用のエリアからエレベータに乗る。
宿泊フロアに到着し、
101号室のドアを開けた。
「ただいま~。」
((──お帰り、遥。))
「ゼニスもお帰り。」
((──ただいま、遥。))
両手いっぱいの荷物を
テーブルに置いた。
「ケーキは冷蔵庫に入れておかなきゃだね。」
((──うん。))
テーブルからケーキの箱を手に取り、
冷蔵庫の中へしまう。
ふと、ベッドの脇に視線を送ると、
段ボール箱が置いてあった。
「なんだろ、見覚えがない箱があるね。」
((──そうだね。))
段ボールを開けてみると、
洋服などアパートで使用していたものが入っていた。
「ヒヨリナ行ってる間に、アパートから運んでくれたんだね。」
((──うん。そうみたいだね。))
「仕事早いな、情報統括省。あっはは」
((──うん。))
「でも、しもむらで買ったお布団セットはないね。
まぁ、持ってこられても困るけどさ、ふふっ」
((──そうだね。布団セットは処分されたのかもね。))
「うん、全く問題ないね。」
((──うん。))
ポーン、と相変わらず無機質なチャイムが、
部屋に響く。
「誰だろ?栞ちゃんかな?」
ドアを開けると、
栞が紙袋を片手に持って立っていた。
「遥さん、お疲れ様です。」
「おつかれ~、栞ちゃん。どしたの?」
「まず、アパートの解約処理のご報告です。」
「うん、荷物あったから、そうだと思ってた。」
「はい。処理が完了し、荷物を運びましたが、
布団は不要との判断で処分させていただきました。
処分後の報告になり、申し訳ございません。
大丈夫でしたでしょうか?」
「うん、大丈夫。教えてくれて、ありがと。」
栞は、
少しホッとした表情を浮かべた。
「あと、こちらをどうぞ。」
そう言うと、
手に持っていた紙袋を手渡してきた。
紙袋を開き中を確認すると、
見覚えのある衣装が入っていた。
「あぁ~、調停用の衣装だよね?」
「はい、遥さんの衣装になります。」
「うん、ありがと。」
そう伝えると、
栞は、さらに笑顔になった。
「それでは、失礼します。遥さん。」
「うん。またね、栞ちゃん。」
栞は、
軽く会釈をして通路の奥へと歩いて行った。
ドアを閉め、
部屋に戻りソファに腰を下ろす。
「衣装はハンガーにでも掛けておこうかな。」
((──うん。))
紙袋から衣装を取り出し、
ハンガーに掛けながら小さな変化に気が付いた。
「衣装の色は赤で同じだけど、
なんか幾何学模様が、白に変わってるよね?」
((──うん。前回の衣装は黒い模様だったね。))
「微妙に模様も違う感じするけど......気のせいかな?」
((──前回の衣装の模様は回路図のようだったけれど、
今回の模様は、稲妻のように変化しているね。))
「うん、稲妻と言えば、そう見えるかも。ふふっ」
((──前回より、スタイリッシュな印象があるね。))
「確かに。こっちの方がカッコいいかも。」
新しい衣装を、
オープンクローゼットに掛ける。
「買ってきた服と、
持ってきてもらった服も掛けておこうかな。」
((──うん。皺になると困るからね。))
服を全て掛け終え、
再びソファに腰を下ろす。
「調停......バトル?どっちでもいいか、ふふ」
((──うん。))
「急に連絡くるのかな?」
((──予めスケジュールが組まれるはずだから、
前回のように急に調停が始まる事はないよ。))
「それなら、よかったよ~。
この後、1時間後に調停です、とか言われてもね。あっはは」
((──遥は調停の執行担当と同じような立場だからこそ、
スケジュール調整はしっかり管理されるはずだよ。))
「うん、普通に考えたらそうだけどね~......
管理官も何を考えているかわかんないからな~、ふふ」
((──調停を盛り上げたいといった考え方だから、
遥に無理をさせる事はしないと予測しているよ。))
「なるほどね、ゼニスがそう言うなら納得。」
((──うん。))
「ここって、トレーニングルームとかあるんだよね?」
((──うん。執行担当が使用するトレーニングルームがあるよ。))
「明日は汗でも流しに行こうかな。」
((──うん。))
「体も動かしておかないとね、
バトルに対応できないと困るからさ。」
((──そうだね。))
「対戦相手は、どんな感じなんだろうね?
気になるけど......予定決まるまでわかんないだろうし......」
((──うん。対戦相手として選ばれるのは、
執行担当のような戦闘のプロではない。
だから、そこまで警戒を強める必要はないという判断ができるよ。))
「ホントかな~?
元ボクサーとか、そんな腕自慢ばっかだったりしてね。あはは」
((──可能性は0ではないね。
それでも、格闘エキスパートの執行担当と比較すれば、
勝率は相当に高くなると予測しているよ。))
「うんうん、それなら20連勝も夢ではないね。」
((──うん。現実的に起こりえる確率だよ。))
「きっと、なんとかなるよ。楽観的だけどさ、あっはは」
((──うん。))
「とりあえず、シャワーでも浴びてこようかな。」
((──うん。))
ぬるめのお湯でシャワーを浴び、
ふかふかのバスタオルで髪や身体を拭く。
着心地の良いバスローブに着替え、
ソファーに寝転がった。




