第69話:逃れる術はない
((ねぇ......ゼニスってば......))
ゼニスの光が、
いつも通りの淡さに戻る。
((──遅くなって、ごめんよ、遥。
どうしたら、この現状を打破できるのか思考していたんだ。))
((どうだった?))
((──思考した結果から伝えると、
管理官の話しから逃れる術は見当たらなかった。))
((そっか......そうだと思ってた。))
((──良い答えを見つけられなくて、ごめんね。))
((ううん、大丈夫だよ。
色々、わたしのために考えてくれたんだもん......
どんな結果になっても仕方ないよ。))
((──うん。申し訳ない。))
((気にしないでよ。))
((──うん。))
いつも通りに戻ったゼニスの光は、
再び弱々しくなった。
まるで、凹んでいるように感じる。
管理官は黒いコートの裾を翻し、
脚を組みなおすと再び口を開く。
「サテサテ、『サバイバル・レジスタンス』ノ主役デアル七瀬サン、
アナタニハ、損失補填トイウ枷ハアリマスガ、
ココデノ待遇ハ補償シマスヨ。
デスカラ、安心シテクダサイネ。」
「待遇は補償されるんですか?」
管理官は指をパチンと鳴らし、
話を続ける。
「モチロンデス。アナタガキーパーソンナンデスヨ。
盛り上げる為ニモ、待遇ハ重要ナコトナノデス。
アナタノ、士気ガ下がるノハ困りマスカラネ。」
「なるほど......待遇は補償するから、
適当な調停はするなってことですかね?」
管理官は手で口を覆い、
乾いた無機質な笑い声をあげながら続ける。
「アハハハハハ、七瀬サン良くオ分かりデスネ。
サスガ、私ガ見込んだ方デス。
ソノ通り、手ヲ抜いてモラッテハ困りマスノデネ。」
「わかりました。逃げ道もなさそうなので、
管理官の話に従います。」
「ウンウン、賢明ナ判断デスネ。
仮ニ逃げたトシテモ、地ノ果てマデデモ追いかけマスガネ。」
「大丈夫です。逃げませんから。」
「ワハハハハハハ、イイデスネ七瀬サン。
デハ、契約書ヲ作成シマショウカ。」
管理官はテーブルに置いてある端末を手元に引き寄せ、
手慣れた様子で操作し始めた。
「フ~ン、コンナトコロデショウカネ。
七瀬サン、内容ヲ確かめてクダサイネ。
不備ガアレバ修正シマスカラネ。」
管理官から手渡された端末を覗き込む。
『サバイバル・レジスタンス』
損失補填特別執行業務・寄託契約
・一戦勝利するごとに、七瀬遥が負っている損害賠償額から5%を免除する。
・勝利時にはボーナス報酬が支払われる。
・敗北した場合は、その時点で残りの賠償額を即刻全額支払い、
かつ調停対象となることを承諾する。
・観客の熱狂を一定以上に保つ義務を負う。
・無気力な試合と判断された場合、敗北時と同等の扱いになる。
・ダークヒロインの魅力を維持するため、私生活を含むすべての言動と行動を、
情報統括省が記録・放送することを許可する。
・損害賠償額がゼロになった時点で、七瀬遥は自由を得るものとする。
・衣食住については、全て情報統括省が補償する。
((ゼニス......))
((──うん。契約書自体には問題はなさそうだよ。))
((だよね......勝ち続けないと......
わたしの人生詰みなんだよな~、ふふ))
((──でも、執行担当と調停を行うよりは、
勝利を重ねていく可能性は高いよ。))
((ま~、エキスパートよりはマシだろうけどさ......))
((──うん。遥が勝てるようにサポートする。))
((うん、頼りにしてるよ、ゼニス。))
管理官はモニターを見ながら口を開く。
「七瀬サン、契約内容ハドウデスカネ。
報酬モ発生シマスシ、衣食住モ補償シマス。
カナリ高待遇ダト思いマセンカ。」
「はい、そうですね......
20回勝てば......負けずにですけど、
損失はなくなるんですよね?」
「モチロンデス。損失ハナクナリ、
オマケに報酬マデ手ニ入るワケデス。
ソノ分、活躍シテモライマスガネ。」
「わかりました。
でも、わたしアパート借りてるんですけど......」
「ソウデスネ、『ヒヨリ北レジデンス101』ニツイテハ、
コチラデ解約手続きヤ荷物ノ運び出しハ手配シテオキマスカラ、
ゴ安心クダサイネ。」
「あっ......そうなんですね。お願いします。」
「デハ、本人確認シテ契約完了デス。」
端末に手の甲をかざすと、
ピッ、という電子音と共に
画面に『契約完了』の文字が表示された。
管理官は満足そうな笑みを浮かべ、
端末を眺めている。
「現在、宿泊シテイル部屋ガ七瀬サンノ居住空間ニナリマス。
自由ニオ使いクダサイネ。
アト、食事ハ端末カラオ好きナモノヲ好きナダケ注文シテクダサイネ。
料金ハ一切カカリマセンカラ、安心シテクダサイネ。」
「はい、わかりました。」
「デハ、指示ニツイテハ端末ヲ確認シテクダサイネ。」
「はい。あと......外出とかは?」
「外出ハオ好きナヨウニドウゾ。
タクシーモ料金ハ不要デスノデ。
オ好きナ『ヒヨリナ』ニショッピングデモドウゾ。」
「はい。わかりました。」
「契約ニモアリマスガ、『サバイバル・レジスタンス』デ、
七瀬サンノショッピングナド行動ハ放送サレマスノデネ。
特別チャンネルデ放送予定デスヨ。楽しみデスネ。」
「プライベート全部ですか?」
「全部デハアリマセンヨ。ショッピングナド楽しい場面ヲデスカネ。
調停トノギャップがアリマスネ。
コレハ熱ヲ発生サセル為ニ放送スルワケデス。
ファンガ増えレバモ盛り上がりマスネ。」
「なるほど......」
「デハ、調停マデ準備モアリマスカラ、
ゴ自由ニオ過ごしクダサイネ。」
「はい。」
管理官室を後にし、
エレベーターに乗り部屋へと戻った。




