第67話:心は決まった
「ベッドも広いしふかふかそうだね~!」
((──うん。))
ソファから立ち上がり、
ベッドに向かって飛び込む。
ダイブした瞬間、
体がマットレスに沈んでからグッと跳ね返ってきて、
まるでトランポリンのようだった。
「すっごい跳ねるじゃん。」
((──うん。とても良いマットレスだね。))
うつ伏せから、
仰向けになりゼニスを見つめる。
((──悩んでいるのかな、遥。))
「うん......そだね。」
((──どんな選択をしても、
遥の事はサポートするから安心して。))
「ありがと、ゼニス。」
ゼニスの淡い光が、
いつもより優しく見えた。
「調停側に立つ方がメリットは大きいよね?」
((──うん。そうだね。))
「断ったら、どうなるのか......
執行される側として調停に強制参加させられるとか?」
((──うん。可能性としてはあるね。))
「う~ん......悩むね......」
((──少し前にも伝えたけど、
遥の安全を考慮するなら調停側が最適解だね。))
「それは、そうだよね。」
((──うん。))
「待遇っていいのかな?」
((──執行担当の待遇の事だよね?))
「うん、そう。」
仰向けから横向きに体制を変えて、
視界の中のゼニスを見つめ直す。
((──執行担当は、一般的な求人のように広く募集される事はない。
基本的にスカウトといった形になっているよ。
つまり、待遇が公表されてはいないんだ。))
「わかんないってことだよね?」
((──そうだね。正確には不明だよ。
ただし、執行担当という役割の大きさから、
高待遇という可能性は高いと推測できる。
最低でも、衣食住の心配は不要になるね。))
「住む場所も提供されるってことか......
アパート解約しなきゃじゃん、あっはは」
((──管理官のスカウトを受けるなら、
引っ越しする形にはなるかもしれないね。))
「もしかして、調停センターに住むとかなのかな?
この建物内に寮みたいなのがあって......住み込みみたいな?」
((──執行担当は、各自治体の所属ではないから
色々な場所に行く事になるね。
調停センター内の宿泊施設に滞在する可能性が高い。
ホテルを転々と移動するイメージが近いかもね。))
「ひより市の調停センター所属ではないってことか......」
((──情報統括省の所属になるよ。))
「へぇ~、官僚みたいじゃん。あはは」
((──執行担当は、エキスパートが選抜されるわけだから、
イメージ的には近いかもしれないね。))
横向きだった姿勢を
仰向けに戻し真っ白な天井をボーっと見つめる。
「うん、悪くはないけどな......
わたしにできるのかな......不安しかないよね。ふふっ」
((──......))
「執行担当って、わたしらしくはない気がするよね?」
((──そうだね。幸福度は上がらなそうな職業ではあるかもね。))
「それな~、楽しそうかって言われると......
あんまり、そうは思えない部分があるよね。」
((──うん。そうかもね。))
「楽しくないなら、やっぱり微妙かな。」
((──うん。))
「でも、Xさんを倒しちゃったから、
調停に損失が出たって言ってたでしょ管理官?
そこの部分は気になるよね。
損害賠償とか地獄じゃん、あっはは」
((──そうだね。))
「う~ん、ホントどうしようかな......」
ベッドから起き上がり、
ソファに膝を抱えて座る。
「執行担当って、途中で辞めれるのかな?」
((──任意退職という形だよね?
データ上には存在しないから不明だよ。))
「データにないなら辞めれないって可能性高いよね。」
((──うん。))
「ホントどうしよ......」
ゼニスはいつも通り、
淡い光を放ちながらぷかぷか浮いている。
「ねぇ、執行担当が負けたとして......
なんか処分されるとかあるかな?
例えば、損害賠償とか......そういうやつ。」
((──執行担当の敗北については、
今回が初めてのケースだから処遇については不明だよ。))
「そっか......Xさんってどうなるのかな......」
((──......))
「執行担当になったら、辞めることはできない......
データがないってことは、そういうことだろうし。」
((──......))
「きっと自由はないよね......」
((──そうかもね。))
「じゃ~、断るしかないよね。」
((──うん。))
「損害賠償とか言われても、
なんとかできないわけじゃないよね。」
((──うん。))
「執行担当の話しは断ることにする。」
((──うん。遥らしい決断だね。))
「ゼニスは、断ると思ってたの?」
((──執行担当になる確率29%、
断る確率68%と算出していたよ。))
「残りの3%は?」
((──遥が予想外の行動を取る確率、
簡単に言えば、データで導き出せない可能性かな。))
「それって、つまり不明ってことじゃん。あはは」
((──うん。そうだね。))
「明日は、監理官に断りを入れる感じだね。」
((──うん。))
「不安はあるけど......」
((──サポートするから心配しないで、遥。))
「うん。」
ゼニスの放つ光が少し強くなり、
不安をかき消してくれているように感じた。




