第66話:まるでVIPのような扱い
女性職員の後に続き、
エレベーターに乗り階下へ。
相変わらず階数表示はなく、
下向きの矢印が点滅している。
((なんで、階数表示ないのかな?))
((──限られた人しか乗ることがないからかな。))
((でも、降りたい階とかあるじゃん?))
((──行先の階層も予め管理されているから、
スキャンすれば階層の指定も自動でされるってことだよ。))
((なるほどね......スゴイなシステムが、ふふ))
((──うん。))
チーン、
エレベーターが止まる音が鳴り、ドアが開く。
待機室があったフロアとは違い
ホテルのロビーのような雰囲気があった。
「七瀬様、こちらです。」
彼女に促されエレベーターを降りる。
「七瀬様、101号室でお休みください。
お着換えなど所持品はお部屋に運んであります。
また、お食事などルームサービスの利用も可能ですので、
端末からご利用くださいませ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
彼女にお礼を伝えると、
エレベータに乗り去って行った。
「宿泊施設まであるわけ?調停センターって......」
((──うん。調停センターには、
ひより市以外からも観客が来場するんだよ。))
「なるほどね。」
101号室のドアについているスキャナーに
左手の甲をかざす。
ピッ、という電子音と同時に
カチッとドアロックが外れた音がした。
ドアノブに手をかけ、
用意された部屋の中に入る。
「うわっ!?なにこの部屋!
めっちゃ豪華なんですけど~!」
((──うん。さっきの話しの続きなんだけど、
ひより市以外から来場する観客の中にVIPが複数居るんだ。
そのVIP達が宿泊するために設けられたんだよ。))
「VIP......そうなんだ。
他の自治体の調停センターも同じなの?」
((──うん。基本的には同じだよ。))
「そう言えばさ、わたしいつまでこの衣装着たままなんだろうね。
しかも、ずっと裸足でペタペタ歩いてたしさ、あっはは」
((──遥の荷物は、
職員が部屋に置いたって言ってたから、
まずは、着替えでもすればいいんじゃないかな。))
「そだね、シャワー浴びてから着替えようか。」
((──うん。))
大理石調の豪華なシャワールーム。
シャンプーやボディーソープなども
綺麗に整頓されていた。
少しだけ熱めのお湯でシャワーを浴び、
肌触りの良いふかふかのバスタオルで水滴を拭う。
バスローブを身に纏い、
高級そうなソファに座った。
「シャワーもスゴイね。
こんなとこ初めて泊まったよ~。
俗にいうスイートルームってやつ?」
((──セミスイートルームの方が近いかな。))
「そうなんだ、これより上があるのね。」
((──うん。))
「こんな部屋を用意してくれて、
なんか怖いよね......断ったら請求されそうじゃない?あはは」
((──可能性はないとは言い切れないね。))
「うん、わたしもそう思う。」
ガラス張りのテーブルに置かれた端末を手に取り、
画面をを覗き込む。
「ルームサービスってあるね。」
((──うん。))
「今日は、頑張ったから美味しいもの食べたいね。うふふ」
((──遥が好きなものをオーダーするといいよ。))
「うん♪」
メニューの中から、
黒毛和牛のステーキセット、唐揚げ、
イチゴチョコレートパフェを注文。
「高そうなステーキと、
ゼニスの大好きな唐揚げも頼んじゃった、ふふっ」
((──うん。遥は頑張ったからご褒美だね。))
「うんうん、ご褒美だね。」
ポーン、と部屋のチャイムが鳴る。
「ルームサービスかな?」
((──うん。))
ドアを開けると、
職員とは違いホテルスタッフのような装いをした男性が
ワゴンの傍らに立っていた。
「七瀬様、ルームサービスのお届けです。」
男性は、そう告げると
部屋の中へとワゴンを押し運び、
テーブルにステーキなどを丁寧に並べた。
「それでは、失礼いたします。」
男性はワゴンを押しながら、
部屋を後にした。
「メニューに値段ついてなかったけど......
大丈夫かな、ホント高そうだよね。」
((──うん。基本的にはVIPにサービスする目的だから、
価格は気にしなくても大丈夫だよ、遥。))
「今のわたしは、VIP扱いってことなのかな?」
((──うん。そうなるね。))
「冷めないうちに食べよっか。」
((──うん。))
黒毛和牛のステーキは、
ナイフで簡単に切れるほど柔らかく
溢れる肉汁が食欲をそそる。
「うわぁ!?肉が溶けたっ!
なにこれ、すっごい美味しい!」
((──遥の幸福度上昇を確認。))
「そりゃ、幸福度も振り切れるよ。あっはは」
((──うん。美味しい事も伝わってくるよ。))
ステーキに舌鼓を打ち、
唐揚げも併せて食べ進める。
食後にイチゴチョコレートパフェを食べ、
ソファに深く腰を掛け直した。
「ごちそう様でした。ふぅ~、大満足。」
((──ごちそう様でした。))
「ねぇ、ゼニス。」
((──なんだい、遥。))
「管理官の話しだけどさ......」
((──うん。))
「どうしようかと思ってさ。」
((──うん。))
「どうするのが正解なんだろうね?」
((──うん、難しい問いだね、遥。
論理的な最適解なら受けるのが妥当。
そうすれば安全と、ここでの高い待遇は保証される。))
ゼニスの淡い光が少し弱くなり、
どこか思案にふけっているように思えた。
「執行担当......
つまり、今度はわたしが誰かを調停する側になるってことでしょ?
負けたらさっきの人みたいに運ばれていく姿を、すぐ近くで見る仕事......」
手元のパフェのグラスに残った、
溶けかけたアイスクリームをスプーンでなぞる。
「わたし、自分の空手が誰かを傷つけるための道具になっちゃうのかな......」
((──......))
ゼニスが沈黙した。
豪華すぎる部屋の静寂が胸をざわつかせた。




