第65話:勝利はしたけれど......
相変わらずドローンは、
Xの側で様子を見るようにホバリングをしている。
((さすがに立てないよね?))
((──うん、遥のタイミング、
威力共に申し分ない一撃だったよ。
Xが再度、立ち上がる確率は23%と推測。))
((23%も立ち上がる可能性あるんだね......
タフすぎるでしょXさん、ふふっ))
ふと、Xの方に視線をやると
肘で体を支え起き上がろうとしていた。
((ねぇ、立ち上がりそうだね......))
((──うん。立ち上がった場合、
ドローンが飛び上がって旋回を始めるから
それを合図に攻撃できるようにしておいてね。))
((うん、わかった。))
Xの方に体を向け、
いつでも攻撃ができる体制を整える。
上半身を起こし片膝立ちになったXは、
膝に手をかけ立ち上がろうとしていた。
((いつでも、いけるよ。))
((──うん。合図をしたら、
上段蹴りで止めを刺そう。))
((OK。))
Xはぶるぶる震える脚で体を支えながら、
なんとか立ち上がった。
と思ったのも束の間、
そのままお尻からリングへ倒れ込んだ。
((立ち上がりそうだったけどね......))
((──うん。遥の勝ちだね。))
リングの入口から、
職員が担架を持って入ってくる。
Xを担架に乗せると、
リングから通路へと消えて行った。
((終わりでいいんだよね?))
((──うん。))
Xの側でホバリングしていたドローンも、
いつの間にかリングの外へ飛んで行っていた。
((前代未聞だったんだよね、調停人が負けるって......))
((──うん。そうだね。))
((賭けってどうなるのかな?
すっごい気になるよね~、ふふ))
((──前提条件が崩れているから、
ノーコンテスト扱いになると推測できるよ。))
((そっか、想定してない出来事だからか~。))
((──うん。))
ゼニスと会話をしながら、
リングの外へ出て通路に向かって歩く。
暗い通路内に女性職員が、
出迎えるように立っていた。
調停前とは違い、
丁寧な言葉遣いで彼女が話しかけてきた。
「七瀬様、調停お疲れ様でした。
ひより市調停センター管理官がお待ちになっております。
お疲れのところ、申し訳ありませんが、
私の後についてきてください。」
「あっ......わかりました。」
彼女が通路を歩き始め、
その後ろをついていった。
((言葉遣いが丁寧で怖いんですけど~、ふふっ))
((──うん。))
((さっきまで、すっごい不愛想だったのにね。))
((──遥のことを認めて、
丁重に扱う方針に切り替えたのかもね。))
((そうなのかな。))
通路を抜けて、
待機室があった先へと進んでいくと
エレベーターホールがあった。
彼女が、
手の甲をエレベーターの端末部分にかざすとドアが開く。
「七瀬様、お乗りください。」
「はい。」
エレベーターに乗り込むと、
上方向へと動き出す。
中には階数表示はなく、
上向きの矢印が点灯しているだけだった。
((なんか、職員以外入れなそうなフロアだね。))
((──うん。))
チン、エレベーターの到着音が鳴りドアが開く。
「七瀬様、監理官室へとお入りください。」
そう言い残し、
彼女を乗せたままエレベーターのドアが閉まる。
端末部分には、
下向きの矢印が表示されていた。
「部屋まで案内してくれないのね、あっはは」
((──そうみたいだね。))
フロアは、
20畳くらいの広さで窓はなく
壁も床も白一色で異質な空間に感じた。
奥には、
黒にゴールドの装飾が施された扉がある。
「なんか、変な場所だね......
管理官の趣味なのかな、あはは」
((──......))
黒い扉をノックすると、
音もなくスーッと開く。
「まさかの自動ドア!」
((──うん。そうだね。))
管理官室の中は、
壁一面にモニターが設置されている。
街中や調停など、
様々な場所がモニターに映し出されていた。
中央に大きなとテーブルがあり、
黒いロングコートのようなものを纏った
男性が脚を組んで座っている。
「ナナセサン、オマチシテオリマシタ。
ドウゾ、コチラヘオカケクダサイ。」
「はい。」
促されるまま
ソファに腰を下ろす。
「七瀬サン、素晴らしい戦いデシタネ。」
「ありがとうございます。」
「オ蔭様デ、売り上げガ減少シテシマイマシタ。」
「はぁ......」
「今回ノ調停デノ嫌疑ハ、晴れテイマスヨ。
簡単ニ言えバ無罪放免トイッタトコロデスネ。」
「はい。」
「デスガ、売り上げノ損失ハ問題デスネ。
我々ハ、ボランティア団体デハアリマセンカラ。」
((──遥、気をつけて。
この男、損失の話を口実に、
別の要求を突きつける可能性が高いよ。))
管理官は組んでいた脚を組み替え、
モニターに映る調停を指差した。
「七瀬サン、提案デス。
コノ損失分、貴女ノ腕デ、補填シテ頂けマセンカ?」
「......わたしの腕? また調停しろってことですか?」
「イエイエ。次ハ罰ヲ与エル側......
ツマリ執行担当トシテ、働いテ欲しいノデス。」
「執行担当へのスカウトということですか?」
「ソウデス。ソノ通りデス。
七瀬サン、物分かりガイイデスネ。」
「う~ん......断ったらどうなりますか?」
「断ったラデスカ?
特ニ何モアリマセンガ、損失ニツイテの嫌疑がカカルカモシレマセンネ。」
((これって選択肢ないよね?))
((──うん。断るのは得策ではないかもしれない。))
「返答は即決ですか?」
「イエイエ。即決シナクテモ大丈夫デス。
返答ハ、明日デモイイデスヨ。」
「わかりました。少し考えます。」
「ソレデハ、今夜ハ調停センターニ部屋ヲ用意シテイルノデ、
ソチラデ、オ過ごしクダサイネ。」
「はい。わかりました。」
((帰れないみたいよ......))
((──うん。))
管理室のドアがスーッと開き、
案内してくれた女性職員が立っていた。
「彼女ニ、案内シテモラッテクダサイネ。」
「はい。」
ソファから立ち上がり、
管理官に軽く会釈をして
部屋を後にした。




