第60話:第1特殊調停準備室
「また、南口からタクシーで行けばいいよね?」
((──そうだね。
その他、バスという選択肢もあるよ。))
「バスは......時間かかりそうね。」
((──タクシーと比較した時に
バスは到着までに時間がかかるね。))
「だよね......タクシーにしよっ。」
((──うん。))
いつものように北口から南口へ抜け、
タクシー乗り場を目指す。
「タクシー停まってるかな?」
((──南口はタクシー利用者も多いから、
2~3台は必ず停車してるよ。))
「うん、だよね。」
南口へ到着し、
タクシー乗り場に視線を向けると
3台停車していることが確認できた。
先頭の運転手さんに合図を送り、
ドアを開けてもらい乗り込む。
行き先を、ひより市調停センターと伝え
タクシーは目的地に向け走り出す。
((第1特殊調停準備室ってネーミング......
なんか仰々しいよね、ふふっ))
((──そうだね。
確かに、必要以上に大げさで誇張され、
いかにも立派そうに見せている感じはあるね。))
((でた、ゼニス辞書、ふふ))
((──うん。いつでも遥の側にゼニス辞書。))
「なにそれ~、
ゼニスギャグですか~?あっはは」
大声で笑っても、
運転手さんはこちらを見向きもしない。
見慣れた光景ではあるけど、
この世界は、わたしに対して無関心だということを
改めて実感する。
((もしかして、緊張ほぐそうとか考えてる?))
((──遥のデータを分析する限り、
緊張も不安もないことはわかっているよ。))
((さすがだね。全く不安も緊張もないよ。))
((──うん。遥らしいね。))
((むしろ楽しみでしかないかな......
こんな発想もどうかと思うけどさ。))
((──そうだね。
一般的には区分変更なんて避けるべき状況なのに
あえて飛び込むという発想は、
なかなかできるものではないよ。))
((とりあえず、調停制度のアンチ派としては、
自治体の調停も知っておきたいよね。ふふっ))
((──敵を知るという発想なのかな?))
((まぁ......そんな感じかな。))
脳内での会話をしていると、
車窓からひより市調停センターが見えてきた。
入口付近に停車したタクシーから、
会計を済ませ軽く会釈をして降りる。
「2回目の調停センター到着。」
((──調停センター到着。))
「どこ行けばいいんだろ?
チケット買った受付とか?」
((──チケット売り場とは反対側に
被申立人の受付があるよ。))
「なるほど、反対側なんだね。」
((──うん。))
調停センターに入り、
前回とは反対方向へと進むと
右手に受付窓口が見えた。
「ゼニス、ここでいいの?」
((──うん。ここで合ってるよ。))
「出頭したんですけど~って言えばいいかな?」
((──整理番号3301と名前を伝えればいいよ。))
「整理番号ってあったんだね。」
((──うん。通知の最後に記載があったよ。))
「へぇ~、そうなんだ。」
受付にいる女性職員が
こちらに視線を向け口を開く。
「調停への出頭でしょうか?
整理番号と氏名をお伝えください。」
「はい、3301、七瀬遥です。」
「3301、七瀬遥ですね。
本人確認をお願いします。」
受付に備え付けられた端末に
左手の甲を当てる。
「はい、本人確認完了しました。
それでは、通路を進み第1特殊調停準備室へとお入りください。」
「はい、わかりました。」
受付を離れ、
静まり返った通路を歩き出す。
スニーカーの音が、
少しだけ遅れて聞こえてくるような、
奇妙な反響が耳についた。
「受付も案外アッサリしてるね。ふふっ」
((──うん。そうだね。))
「どんなこと聞かれるのかな?
なんかドキドキしてきたよ。あっはは」
((──楽しんでいることが伝わってくるよ、遥。))
「うん、退院してから一番ワクワクしてるかもね。」
((──うん。とても良い傾向だね。))
「できれば、ケガはしたくないけどね。」
((──そうだね。
遥が怪我をしないように可能な限りサポートするね。))
「うん、助かる。
でも......これってズルしてるみたいにならない?」
((──遥以外に存在が知られているわけではないから、
卑怯や狡猾といった事にはならないから安心して。))
「だよね~!
わたしの脳内見ないとわかんないことだもんね!あはは」
((──正確に言えば、
CTやMRIでもわかるけれどね。))
「それはそうだね......
まさか、そんな検査ないよね?」
((──うん。
調停前にCTやMRIといった検査は
行われることはないよ。))
「それなら、ズルはバレないね。ふふ」
((──うん。))
通路を歩いた先に
第1特殊調停準備室の案内板が
天井からぶら下がっている。
「ここだね。」
((──うん。))
「よし、入ろうか。」
((──うん。))
第1特殊調停準備室の冷たいドアを
ノックすると無機質な音が響いた。
そのままドアを開け
中へと入る。
室内にはテーブルと椅子があり、
黒いスーツ姿の男性職員が座っていた。
椅子に座っていた男性職員が、
手元の端末からゆっくりと顔を上げる。
その瞳には感情がなく、
ただ決めれられた動きをしているのように感じた。
「整理番号3301、七瀬遥。
お待ちしておりました。」
機械的な声が室内に響く。
窓のない部屋の空気は、
外よりも少しだけ冷たく重い。




