第58話:決意
ヒヨリナを抜け
北口の小さな広場へと辿り着く。
いつもの自動販売機で缶コーヒーを買い、
いつものベンチに腰を下ろす。
缶コーヒーを開け一口、
ふうっと一息ついて空を見上げた。
「クレープ......
最後まで食べたかったな、あっはは」
((──遥は、
クレープが相当悔しかったんだね。))
「うん、ホントそれ、ふふっ」
((──クレープはヒヨリナでも購入できるよ。))
「まぁ......そうなんだけどさ。
今日は、もういいかな~。」
((──うん。そうだね。))
「あっ!忘れてた!」
((──何を忘れていたの?))
「冷蔵庫にケーキ入ってるじゃん!あっはは」
((──そうだね。
冷蔵庫にケーキが入ったままだね。))
「テンション上がった~!
家に帰ってケーキ食べようよ。」
((──うん。そうしよう。))
缶コーヒーを飲み切り
自動販売機横のごみ箱に捨て、
北口広場を後にする。
「忘れてたから、
余計に楽しみになってきたなケーキ。」
((──うん。))
「ゼニスのチョコケーキもあるしね。」
((──うん。非常に良いものだよ。))
「うんうん。そうだね~。」
自宅へ到着し
鍵を開け中に入る。
手洗いをサッと済ませ、
冷蔵庫からケーキの箱を取り出し
テーブルの上に置く。
「どれから食べようか?」
((──遥が好きなものから食べてね。))
「うん、やっぱりイチゴショートかな。」
箱を開け、
イチゴショートにフォークを刺し、
口に一口運ぶ。
「あま~い♪」
((──遥の幸福度が上がってるよ。))
「この甘さは幸福度アップするよね~!」
((──うん。))
「そう言えばさ、明日だったよね調停?」
((──うん。そうだよ。))
「調停をすっぽかしたら区分が変わって、
自治体の調停センターに行くことになるわけ?」
((──うん。端的に言えばそうなるね。))
「なんか通知がくるの?」
((──自治体の調停センターから、
区分変更と調停への出頭命令が通知されるよ。))
「なるほど......
警察が来て逮捕とかはないんだね?」
((──うん。それはないよ。
軽微なトラブルの調停だから、
警察が直接介入はしてこないんだ。))
「さすがに、
自治体の調停もすっぽかしたら警察来るでしょ?ふふっ」
((──うん。その場合は警察が身柄を拘束しにくるよ。))
「うん、なんか予想通りだね。」
イチゴショートを食べ終え、
濃厚そうなチョコケーキに手を伸ばす。
「このチョコケーキも甘そうでいいね。」
((──うん。))
ふんわりとしたココアスポンジと
ミルクチョコクリームの層をフォークで切り取り、
口の中へと放り込む。
「うわぁ、ミルクチョコが甘くて幸せを感じる~♪」
((──ミルクチョコクリームの
甘さと濃厚さのバランスがとても良いね。
これは、非常に良いものだよ。))
「うん、ホントそれ。」
((──うん。))
「えっと......どこまで話したっけ......
あっそうだ、警察が身柄を拘束するとこだったね。
地区の調停から区分が変わって、
どのくらいで自治体の調停に呼び出されるのかな?」
((──それは、
状況にもよるから一概に何日とは言えないけれど、
概ね1週間だと思っておけばいいよ。))
「なるほど、1週間くらいか......」
甘いチョコクリームが喉を通るたびに、
調停への思いが少しずつコーティングされ
麻痺してていくような不思議な感覚だった。
「とりあえず、
明日の調停は行かないことにするよ。」
((──うん。
区分変更を甘んじて受けれ入れるということだね。))
「うん、そんな大層なもんじゃないけどさ......
なんか、自治体の調停に興味が惹かれたからかな。」
((──遥らしいね。))
「ゼニスは予想してた?」
((──遥の行動や考え方は常に分析しているけれど、
この行動に関しては選択率38%と低かったよ。))
「ゼニスの予想を裏切った感じだね。あっはは」
((──うん。そうなるね。))
「もし調停人に負ける......普通は負けるよね?
そうなったら、どんな処分が下されるのかな?」
((──うん。調停人が負けた前例は一度もないよ。
処分についてだけど、
元々が軽微なトラブルということもあり
罰金刑になるのが一般的だよ。))
「負けても罰金で済むんだ......
思ったより重罪にはならないんだね。」
((──悪質な犯罪ではないし、
一般人同士の軽微なトラブルであることが考慮される。
その上での罰則だから罰金相当が妥当なところだよ。))
「OK、わかった。」
ケーキを食べ終え、
箱をゴミ箱に捨てソファに座り直す。
「最悪は、ケガして罰金も払う感じね......」
((──うん。そうなるね。))
「もし、調停人に勝っちゃったらどうなるの?
賞金とかもらえたりしないのかな?ふふっ」
((──制度上、調停人の敗北は考慮されていないし、
前例もないからデータも存在しないんだ。
だから、勝利した場合にどうなるかはわからないよ。))
「ふ~ん、ゼニスにもわからないことあるんだね。ふふ」
((──うん。データがないものは想定ができないよ。))
「確かに......そうだね~。」
ソファに寝転がり、
視界の端にいるゼニスを見つめる。
いつものように淡い光を放ち、
ぷかぷかと浮いているゼニス。
その光は、調停への決意を
祝福しているようにも、警告しているようにも見えた。




