第57話:身に降りかかる調停
((ゼニスのオススメ、
サクサク度85%の唐揚げ楽しみだね。))
((──うん。楽しみだね。))
メニューを眺めながら
脳内でそんな会話をしていると、
店員さんが料理を運んできた。
「お待たせしました。唐揚げ定食です。」
「ありがとうございます。」
目の前に置かれた唐揚げ定食は、
衣がサクサクしているのが見た目でわかる。
((ホントにサクサク度が高いのがわかるね。))
((──うん。
キッチン・モナドのレビューや画像を
分析した結果だから間違いないよ。))
((さすがゼニス~!
じゃ~早速食べてみよう。))
((──うん。))
カリカリに見える衣をまとった唐揚げを
箸でつかみ、一口頬張る。
カリッ、と見た目通りの音が響き、
その後に肉汁が口に広がった。
((うわぁ、これホント美味しいね!))
((──衣のカリカリとした食感が、
遥の反応から分析できるよ。
適温で揚げられた鶏ももに旨味が閉じ込められて、
噛んだ瞬間に肉汁が溢れてくる点も秀逸。
これは、非常に良いものだよ。))
((食べてもないのに評論がスゴイよね、ふふっ))
((──あくまでも、
遥の反応などを分析した結果だよ。))
((知ってるけどさ、
ホント的確な分析だと思って。))
((──遥のデータを分析し続けた結果の賜物かな。))
((だよね~。))
唐揚げと白米を一緒に口に入れ、
みそ汁や小鉢にも手を伸ばす。
あっという間に
唐揚げ定食を食べきっていた。
「ごちそう様でした。」
((──ごちそう様でした。))
コップの水を一口飲み
席を立ちレジ前に向かう。
会計を済ませ、
キッチン・モナドを後にした。
「キッチン・モナドの唐揚げ、
当たりだったね!」
((──そうだね。
レビューや画像を分析した甲斐があるね。))
「ホントそれ!
ゼニスのお陰で美味しい唐揚げに出会えたよ!」
((──遥の幸福度が上がっていることが良くわかるよ。))
「うんうん、あの唐揚げ定食は、
間違いなく幸福度アップすると思う!あはは」
((──うん。))
唐揚げ定食の余韻に浸りながら
飲食店街の通りを歩いていると
クレープ屋さんが目に入った。
「食後のデザートにクレープよくない?ふふ」
((──うん。))
クレープ屋さんに入り、
フルーツがたっぷり乗ったクレープを買って
再び通りを歩き始める。
「フルーツとクリームたっぷりだよ。
見た目もかわいいし、いい感じだね。」
((──うん。幸福度がさらに上がるね。))
クレープを食べながら歩いていると、
スーツ姿の中年男性にぶつかった。
「あっ、ごめんなさい......」
顔を男性の方へ向けると、
スーツの腕部分にクリームがべったり付いている。
男性は表情一つ変えずに、
クリームの付いてしまった部分を見ていた。
まるで、自分の腕ではなく、
ただの汚れた壁でも眺めているような視線だった。
「クリーニング代を負担します。
本当にごめんなさい。」
男性は相変わらず表情に変化がない。
「クリーニング代も含めて、
調停で話をつけましょう。」
男性の口から調停という言葉が発せられた。
「えっ......調停ですか?」
「はい、調停です。」
「クリーニング代とかお支払いするんですけど......」
「後々、面倒なことになるのも困るので、
調停で話をつけましょう。」
困惑していると、
どこからともなく警備員がやってきた。
スーツの中年男性が警備員に話しかける。
「こちらの女性と調停になります。」
警備員は男性に返答。
「調停ですね。
では、本人確認をしてください。」
端末を男性に向ける。
男性は迷うことなく本人確認を済ませた。
「では、調停でお会いしましょう。」
と言い残し、
その場を離れていく。
「えっ......調停......」
警備員は、
こちらに向かって端末を差し出す。
「ほ、本人確認ですよね?」
「はい、本人確認です。」
端末に左手の甲をかざし
本人確認を済ませた。
端末を確認した警備員は、
感情の欠落した平坦な口調で日時を伝えてくる。
「調停は、明日11:00に
ひより北地区調停センター13号室で行います。
5分前には指定の調停室に入っておいてください。」
調停の日時を伝えると、
そのまま立ち去って行った。
「えっ......調停なの?
わたし謝ったよね......」
((──相手方が、
面倒事は調停で済ませるタイプだったね。
遥の謝罪を受け入れる、
受け入れないではなく、
調停を重視しているように見受けられたよ。))
「......えっ......謝っても意味ないんだ......」
((──これが調停制度だからね。))
「そんな......なんなのこの制度......」
((──......))
「クレープ少ししか食べてないのに......
謝っても調停だし......もう......」
((──クレープが食べれなかったことに不満を感じているの?))
「うん、それもあるけど......
わたしは調停制度もどうかと思ってるよ。」
((──......))
「ねぇ、ゼニス。
地区の調停に行かなかったら、
区分が変わるんだったよね?」
((──うん。そうだよ。))
「うん、わかった。」
手に持っていたクレープの残骸を
近くのごみ箱に捨て、
ひより駅方面に戻るよう歩き始める。
家路に着く足音は、
さっきまでの軽やかさを忘れたように、
アスファルトを重たく叩いていた。




