第55話:調停の現実
「『2:30』『3:00』『3:30』って、
表示されているけど、これはなんなの?」
((──これは時間を示しているんだ。))
「つまり時間にベットするんだね~。」
((──うん、そうだよ。))
「時間にベットするって、
面白いシステムだね。」
カップに入った唐揚げを
付属の爪楊枝で刺し、
口に運ぶ。
「どう、調停センターの唐揚げは?ふふっ」
((──うん、非常に良いものだね。))
「唐揚げ、ほんと好きだよね。」
((──うん。))
アイスコーヒーを一口飲み
周囲を見渡す。
会場の大多数は、
スクリーンとスマホの視線の往復。
同じような動きを機械的に
何度も繰り返していた。
「ちなみに、
時間に賭けてピッタリなら当たりって感じ?」
((──イメージ的には、そんな感じだよ。))
「へぇ......
時間がどうなればいいんだろうね。」
((──それは、
見てからのお楽しみだよ。))
「そうだね。
ネタバレすると、つまんないもんね! あっはは」
((──うん。))
もう一度、周囲を確認すると
いつの間にか会場は満員になっていた。
その瞬間、アナウンスが流れる。
『ご来場のお客様
もう間もなく調停開始です。』
((そろそろ始まるんだ。
声は出さない方がいいと思って
脳内の会話に切り替えたよ。))
((──うん
とてもいい判断だね。))
観客席の照明が落ち、
中央が明るく照らされている。
スクリーンには、
調停人と対峙する人の写真や名前
対戦方法が映し出されていた。
((──対戦方法は、
ボクシングなんだね。))
((──そうだね。))
その時『カァーン』という音を合図に、
調停が開始された。
((始まったね。))
((──うん。))
調停人は、
容赦なくパンチを繰り出している。
対峙している人は、
防戦一方。
調停人のパンチが顔面を捉え、
そのまま仰向けに倒れた。
((もう終わりなのかな。))
((──うん。
倒れたから終わりかな。))
スクリーンには、
調停時間とオッズが静かに表示されていた。
((──スポーツ観戦と違って
盛り上がりみたいなのはないんだね。))
((──うん。
これはあくまで調停だからね。))
((──なるほど。))
スクリーンから先ほどの表示が消え、
新たな対戦が映し出されていた。
((次は空手なんだ。))
((──うん。))
調停人は、
相変わらず容赦のない攻撃を仕掛けている。
((調停人の一方的な蹂躙って感じだね。))
((──うん。
その道のエキスパート揃いだからね。))
((──そうなんだ。))
調停人の上段蹴りが側頭部を捉え、
相手はそのまま床に倒れた。
((──あんな蹴り当たったら
ヤバいんじゃない。))
((──うん。そうだね。))
対峙していた人は、
担架に乗せられて運ばれて行く。
中央スクリーンの数字だけが、
短い間隔で更新を続けている。
((──こんなの見て面白いの?))
((──......))
((──もういいかな。
途中だけど帰ろう。))
((──うん。))
席を立ち
会場の出口へ向かう。
建物の外に出ると、
タクシーが並んでいた。
運転手に合図をして、
ドアを開けてもらい乗り込む。
「ヒヨリナまでお願いします。」
「はい。ヒヨリナですね。」
タクシーは静かに
ヒヨリナへと向けて走り出した。
((──調停が人気イベントって......
ホント意味がわからなかったな......))
((──......))
((──いくら悪いことをしたとしても、
あれはないと思う......))
((──......))
((──しかも公営ギャンブルなんだもんね。
わたしは、おかしいと思うな......))
((──うん。))
脳内で会話を続けていると、
ヒヨリナが見えてきた。
タクシー乗り場に停まり、
会計を済ませて降りる。
「調停ってさ、
怪我するリスクもあって、
さらに刑も執行されるんでしょ?」
((──そうだね))
「いくらなんでも、
あんまりじゃない......」
((──うん。
でも、そういう制度だからね。))
「それはそうだけどさ......」
南口広場に設置されたベンチに座り
空を見上げ伸びをしながら深呼吸をした。
「こんなことゼニスに言っても、
仕方がないのはわかってるけどね......」
((──うん。))
「よし!気分転換にケーキ買いにいく!」
((──うん。そうしよう。))
ヒヨリナへ入り、
1階のケーキ売り場へ向かい
ショーケースの中から数個選んだ。
会計を済ませ、
箱に入ったケーキを左手に持ち
そのまま北口へ。
「ゼニス......
この世界は......。ううん、なんでもない。」
((──うん。))
「ケーキ食べるの楽しみだね。」
((──楽しみだね。))
「ゼニスが好きなチョコケーキも買ったしね。」
((──うん。
チョコレートは幸福度が上がるからね。
とても良いものだよ。))
「だね。」
北口を抜け自宅に辿り着く。
テーブルにケーキの箱を置き、
ソファに腰を下ろした。
「今日は、なんか疲れちゃったな......」
((──ゆっくり休んでね、遥。))
「そだね......
ケーキは明日にしようか?」
((──うん。))
冷蔵庫にケーキを入れ、
ベッドに潜り込む。
そのまま、
意識が深く沈んでいった。




