第50話:制度を知るということ
「ごめん、
調停センターの話に戻るんだけど......えへへ」
((──いいよ。
気になったこと、
そのままにできないタイプだもんね。))
「調停するのはわかるんだけど、
普通はさ、弁護士とかに依頼するもんじゃないの?
調停したことないから、
わかんないけど......イメージ的に?」
((──うん。
この社会での弁護士の役割は、
遥が想像しているものとは違う。))
「当事者双方が、
弁護士を立てて......
みたいな感じだと思ってたけど、違うんだね......」
((──そう思っていたんだね。
じゃあ、この社会での弁護士の役割を、
順番に説明するね。))
「うん、お願いね。ゼニス。」
ソファに、
軽く寄りかかっていた身体を起こし、
姿勢を整える。
それまで視界の隅にあったゼニスを、
正面へと捉え直し、真っすぐ見つめる。
((──弁護士の話に入る前に、
この社会での調停について、
簡単に説明しておくね。))
「うんうん。」
((──この社会での調停は、
当事者同士が話し合って
合意点を探す場ではない。))
「うん。」
((──調停は、
制度によって定められた手続きに基づき、
調停人が事実確認を行い、
白か黒かを決定する仕組みになっている。))
「なるほど......」
((──その過程で、
当事者の感情や事情、
そこに至るまでの経緯は、
判断材料として扱われない。
主張の強さや、
どちらがより不利な立場かといった点も、
考慮の対象にはならない。))
「考慮されないんだ......」
((──調停人は、
確認できた事実のみを基に、
区分を決定する。))
「すごい制度......」
((──決定は即時に有効となり、
その時点で調停は終了する。))
「なるほど......」
((──結果に不服があったとしても、
その場での異議申し立てや、
再調停は行われない。
この段階では、
弁護士が関与することもない。))
「この段階でも、弁護士は関わらないんだ......」
小さく息を吐き、
頭の中で、
聞いた内容を整理した。
「ゼニス、続きお願い。」
((──うん、わかった。
調停の結果が確定したあと、
初めて弁護士が関与する。))
「ここで関与するんだ......」
((──弁護士は、
調停の内容や判断に、
意見を述べる立場ではない。
白黒が決まったあとに、
その結果に基づいて発生する
要求や義務を、
正式な手続きとして遂行する。))
「手続きの遂行ね......」
((──勝った側の要求と、
負けた側の義務は、
制度によってあらかじめ定められている。))
「やっぱり制度がすごいな......」
((──弁護士は、
それらを文書として提示し、
実行期限と方法を管理する。
交渉や変更、
減免は行われない。))
「決まった内容の変更はなしか......」
((──提示された要求に従わない場合、
調停の枠組みから外れ、
区分が変更される。))
「区分変更ね......」
((──その時点で、
犯罪として扱われ、
別の処理系へ移行する。))
「かなり強い制度って感じがするね......」
一度、言葉を飲み込むようにして、
頭の中で順に並べ直した。
「かなり噛み砕いて説明してくれたんでしょ?」
((──うん。
理解しやすい形になるようにまとめた。))
「うん、要点がまとまっていて、
すっごくわかりやすかったよ。ありがと。」
((──どういたしまして。))
「なんか、すごい制度だよね......
知ってるはずなのに、
初めて聞いた錯覚があるよね、ふふっ」
((──遥は、覚えていない部分があるから、
そう感じるのも自然だと思う。))
「うん、確かにね......
ちなみに、調停人って、
裁判官とか検事とは違うのかな?」
((──うん。
役割は異なる。))
「へぇ~、そうなんだね......」
((──地区の調停センターでは、
裁判官や検事が関与することはない。
そのため、
制度として区別して覚える必要もない。))
「なるほどね。
関わることはないんだね。」
((──市町村や国が関与する案件、
事件性が高いものでは、
関与する可能性がある。))
「それなら、
普通に生きてたら、
関わらなそうだね、あはは」
一息ついて立ち上がり、
冷蔵庫から飲み物を取り出し、
一口飲んで口の中を潤す。
「この制度がさ、
ちゃんと機能してるって、
すごい国だよね。」
((──うん。
制度が機能していることで、
犯罪率は年々減少している。))
「それはそうだろうな~......
相手の要求かな?
負けた方が負う義務?
これも、履行しないとヤバいんでしょ? ふふっ」
((──履行されなかった場合、
区分が変更され、
犯罪として扱われる。))
「......だよね。」
「うん、
あんまり関係ないと思うけど、
制度の理解はできたから、
よかったかな。ふふっ」
((──そうだね。
知っておく分には問題ない。))
「だね。
なんか難しい話してたから、
お腹空いてきたよね、あっはは」
((──そうかもしれないね。))
そう言って、
ネットスーパーで買っておいた菓子パンを
キッチンから持ってくる。
ソファに座り、
パンを一口かじると、
部屋の空気が少しだけ緩んだ気がした。




