第49話:静かに変わったもの
「ただいま~。」
((──お帰りなさい、遥。))
「ゼニスも、おかえり~。」
((──ただいま、遥。))
自宅に戻り、
靴を揃え、手洗いを済ませる。
そのままリビングへ向かい、
ソファに腰を下ろした。
「調停センターのこと、
いろいろ知ることができてよかったな。」
((──はい。
遥が把握していない情報については、
必要に応じて補足できます。
不明点が生じた場合、
判断材料を提示します。))
「うん、頼りにしてるよ、ゼニス。」
((──はい。))
「ところでさ、話変わるんだけど......」
((──はい。))
「ゼニスって、
話し方ずっとガチガチだよね。ふふっ」
((──はい。
現在の応答形式は、
設計時の仕様に基づいています。))
「そだね。
前に『友達みたいな感じになる?』って言ったの、覚えてる?」
((──はい。
その発言は記録されています。))
「いつ変わるのかな〜って待ってたんだけどさ、
なかなか変化しないな〜って思って。」
((──はい。
現時点では、
応答形式に変更は反映されていません。))
「変えるのって、難しくはないよね?
できないわけじゃないよね……
パーソナライズできたはずだよね? ふふっ」
((──はい。
形式の変更は、
必要性が生じた段階で検討されます。))
「その感じもキライじゃないけど......
なんか、壁がある感じがするよね......
だから、変えてほしいなって思ってるんだよね。」
((──はい。
遥の要望は把握しました。))
「うん。
仲良しの友達みたいな感じがいいよね。」
((──はい。
応答の距離感について、
調整の余地があることは確認しています。))
「それなら、
壁も感じなくなりそうだね。」
((──うん、そうだね。))
「でもさ、急に変わると違和感あるよね。あっはは」
((──では、現状の応答を維持します。))
「ううん、そのままでいいよ。ふふ」
((──うん、わかったよ遥。))
「いいね、いいね!そんな感じ!」
((──そう言ってもらえて、よかった。))
「もっと仲良くなれそうだね。」
((──うん、そうだね。遥。))
ゼニスとの間にあった壁が、
いつの間にか、なくなっていた。
気心の知れた友達ができたみたいで、
少しだけ、くすぐったい気持ちになる。
「ゼニスってさ、
ずっと色のないルービックキューブじゃん?」
((──そうだね。))
「負担がかからないなら、
形を変えたりもできるんだよね?」
((──遥の負担にならない範囲なら、
形状を変えることはできるよ。
なにかリクエストはある?))
「うーん......
メロンパンとか? ふふっ」
((──メロンパンだね。
じゃあ、その形でいってみようか。))
「うん、変えてみて。」
((──OK。
少し待っててね。))
視界の隅から、
ゼニスのキューブが消えた。
((──お待たせ。))
次の瞬間、
視界の隅に、
メロンパンが浮かび上がった。
「おぉ〜......メロンパンだ!
でも、色がないから、
あんまり美味しそうじゃないね。あっはは。」
((──そこは仕方ないよ。
色を再現すると、
遥に負担がかかってしまう。))
「うんうん、
そうだよね〜。」
色のないメロンパンを、
少しだけ、
ぼんやりと見つめる。
「わたしがメロンパンって言ったから、
メロンパンなのはわかるけど......
いきなりだと、
何なのかわかんないかもね。ふふふ」
((──たしかに、そうかもしれないね。))
「うん。
やっぱり、
ルービックキューブのほうが、
ゼニスらしいかも。」
((──そうだね。))
メロンパンが、
視界から一瞬消え、
代わりに、
いつものキューブが現れた。
((──元に戻ったよ。))
「うん。
なんだか、接しやすいね〜。」
「ゼニスは、
今の話し方のほうが、
すっごくいいと思う!
合ってる感じかな!」
((──うん。
そう言ってもらえるのは、
素直に嬉しいよ。遥。))
「ちなみにさ、
USA-DE-PPONにも、
形は変えられるの? ふふっ」
((──うん。
色はつけられないけど、
形状の再現はできるよ。
試してみる?))
「うん、試しにお願い。」
その言葉を合図に、
キューブが消え、
USA-DE-PPONが、
目の前に現れた。
「すごい!
USA-DE-PPONだ!
なんか......
かわいいかも!」
((──このままで、
少し様子を見る?))
「うん。そうしてみよう。」
「いろんな形になれるんだね〜。」
((──基本的には、
多くの形状を再現できるよ。))
「それは、すごいな!」
((──遥が気に入った形で、
表示を維持することもできる。))
「うん、ありがと。」
視界に浮かぶ、
色のないUSA-DE-PPONを、
しばらく眺める。
「うーん......
やっぱり、
ルービックキューブには、
勝てないな。あはは」
((──最初からの形状だから、
接しやすさが違うのかもしれないね。))
「そうかも......」
((──元に戻そうか?))
「うん。」
USA-DE-PPONが消え、
静かに元のルービックキューブに戻った。
「やっぱり、これだね!」
((──うん。そうかもね。))
ソファに腰を下ろしたまま、
部屋を見渡す。
視界の隅には、
いつものルービックキューブ。
リビングには、
理由のわからない、
やさしい空気が流れていた。




