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第48話:この社会のルール

「調停センターは、

 わたしが関わること......きっとないよね?」


((──はい。

  トラブルに巻き込まれないことが前提になります。))


「トラブルに巻き込まれたら、

 調停センターに来なきゃいけなくなるもんなの?」


((──はい。

  軽微な内容であっても、

  調停センターで取り扱われる場合があります。))


「ふ〜ん......

 例えばさ、歩いていてぶつかったとするじゃん?

 『ごめんなさい』って言えば、

 済む話じゃないのかな?」


((──はい。認識は間違っていません。

  その場で謝罪が行われ、

  相手がそれを受け入れた場合、

  調停の対象にはなりません。))


「つまり、

 謝ったけど許してもらえない場合ってことだね?」


((──はい。

  謝罪が受け入れられず、

  相手の感情が収まらない場合などは、

  調停で取り扱われます。))


「なるほど......

 それだと、意外に

 調停センター案件って多そうだね......」


((──はい。

  取扱件数は年々減少傾向にありますが、

  データベース上では、

  現在も多くの案件が記録されています。))


「そうなんだね......」


そんな話をしながら歩いていると、

いつの間にか、

ひより駅北口が見えるところまで戻ってきていた。


そのまま、

北口広場のベンチに腰を下ろす。


「自販機で、コーヒー買ってこようかな。」


((──はい。))


自動販売機で缶コーヒーを購入し、

再びベンチに座る。


「データベースで、

 軽微なトラブルの詳細はわかるのかな?」


((──はい。

  当事者に関する記載は、

  個人情報のためデータベース上にはありませんが、

  トラブルの内容については、

  閲覧できるようになっています。))


「なるほど......

 ざっくりでいいんだけど、

 どんなトラブルが多いか、まとめられる?」


((──はい。少々お待ちください。))


缶コーヒーを開け、

一口飲んで喉を潤す。


((──遥。データのまとめが完了しました。))


「さすがゼニス、仕事が早いね。

 どんな感じだったの?」


((──はい。

  隣人同士のトラブルでは、

  騒音やゴミ出しに関するもの。

  仕事上のトラブルでは、

  ミスをきっかけとしたハラスメントに

  関するものが多く確認されています。

  日常生活では、

  列への割り込みや、

  些細な言い争いなども記録されています。))


「そうなんだ......

 でも、トラブルが起きたときにさ、

 その場で喧嘩に発展しないって、あり得るの?

 なんか、そのまま揉めて、

 警察が来るみたいなイメージだったよ......」


((──はい。

  路上を含め、

  あらゆる場面での暴力的な解決は想定されていません。

  そのような行為が発生した場合、

  軽微な調停の対象ではなく、

  警察による対応が行われます。))


缶コーヒーを、

もう一口飲んで、

小さく息を吐いた。


「つまり、制度がしっかりしているから、

 日常生活では、

 争いが起きることはないってことだよね?」


((──はい。遥の認識で相違ありません。))


「もし、争った......

 暴力的な行為かな?

 しちゃったら......どうなるの?」


((──はい。

  暴力的な行為が確認された時点で、

  取り扱いの区分が変更されます。

  争いの経緯や理由は、

  その段階では考慮されません。))


「区分変更......」


((──はい。))


「争いの経緯とか、

 理由も考慮なしなんだ......」


((──はい。))


「暴力的なことは、

 絶対に許さないって感じなんだね。」


((──はい。))



「もし、暴力行為が路上で起きたら、どうなるの?」


((──はい。

  警察が出動します。

  警察の介入が確認された時点で、

  取り扱いの区分は変更され、

  争いの経緯や理由に関わらず、

  犯罪として処理されます。))


「警察が来たら......

 もう、犯罪ってことなんだ......」


((──はい。))


「でも、そんなに

 警察って早く来ないよね?」


((──いいえ。

  この社会では、

  暴力的な行為は即座に検知されます。

  対応までに時間がかかることは想定されていません。))


「そうなんだ......」


((──はい。))


「なんか......

 すごいね、警察......」


缶コーヒーを飲み干し、

近くのゴミ箱に空き缶を捨てる。


もう一度、

ベンチに座り直した。


「なんか知らないことばっかり......

 忘れてるだけだよね、ふふっ」


((──はい。

  遥が把握していない情報についても、

  必要な範囲でサポートします。))


「うん、ありがと。」


((──はい。))


「生きてきた社会のルールも覚えてないなんてな......

 忘れるにもほどがあるよね。あっはは」


((──遥の置かれている状況を踏まえると、

  致し方ない部分もあります。))


「だよね......

 でも、気にしてないよ。」


((──はい。非常に良い傾向です。))


「お家に帰ろっか。」


((──はい。))


ベンチから立ち上がり、

自宅へと向かって歩き始めた。

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