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第45話:調停センターの役割

財布と鍵が入ったバッグが、

歩くたびに小さく揺れる。


いつも財布は手に持っていたから、

手が塞がっていない感覚が少し新鮮だった。


「うん、いい感じだね、バッグ。」


((──はい。))


「3階も見てみようかな?」


((──はい。

  3階は生活雑貨、書店、コスメ、

  ガジェット類などの売り場があります。))


エスカレーターへ向かいながら、

無意識にバッグのショルダーストラップの位置を直す。


「コスメかぁ......

 メイク、あんまりしないもんな、ふふっ」


((──はい。))


「特に必要なものはなさそうだけど、

 せっかくだし、ぶらぶらしてみようかな。」


((──はい。))


「本屋さん行ってみよ。」


((──はい。))


本屋さんへ向かっていると、

男性同士が言い争っている場面が目に入った。


((なんか、トラブルかな?))


((──はい。

  原因は不明ですが、

  トラブルの可能性は高いと推測できます。))


そこへ、

ヒヨリナの警備員が駆けつける。


男性の間に入り、

何か話しているように見えた。


((警備員さん、来たね......))


((──はい。

  館内通報で駆けつけたと思われます。))


興味本位で、

少しだけ近づいてみる。


((なに話してるのかな......))


((──声が不明瞭なため、判読不可です。))


((そっか、残念......))


その時、

警備員さんが端末を取り出し、

男性二人の手の甲に当てた。


((ん?

  なんで本人確認してるんだろ?))


((──調停センターへの申請だと思われます。))


((えっ!?

  調停センター?......))


((──はい。

  軽微なトラブルも含め、

  紛争は調停センターで扱われます。))


((ちょっとのトラブルでも、なの?))


((──はい。

  基本的に、

  全てのトラブルは調停センターが取り扱います。))


((調停センター、

  仕事多すぎない? ふふっ))


((──はい。

  トラブルの内容によって、

  扱う調停センターは異なります。

  そのため、

  取扱量は過剰ではないと推測できます。))


((トラブルの種類で、

  調停センター変わるの?))


((──はい。

  軽微なものは、

  地区公民館に併設された

  調停センターが対応します。))


((なるほど......))


((──はい。))


((そんな制度があったんだね......

  知らなかった?

  いや......忘れてるんだね......))


((──はい。

  遥の状況では、

  忘れていても仕方ありません。))


((うん、ありがと。))


((──はい。))


((本屋さん行くんだったね、ふふ))


((──はい。))


警備員さんと二人の男性は、

調停センターでの取り扱いが決まったからなのか、

それぞれバラバラに歩き出していた。


その様子を、

少しだけ眺めてから、

本屋さんに入る。


((やっぱり、小説かな?))


((──はい。))


小説が並んでいる棚の前を、

ゆっくり歩く。


((たくさんあるね......))


((──はい。))


((小説も買い始めると、

  キリがなくなりそうだな......

  今日は買わなくていいかな、ふふっ))


((──はい。))


そのまま、

本屋さんを後にした。


「そういえば、さっきのトラブル......

 わたし達以外、誰も興味なさそうだったよね?」


((──はい。

  特に珍しい光景ではないため、

  足を止める人は少ないと考えられます。))


「珍しくないんだね......」


((──はい。

  街中で深刻なトラブルに発展することは、

  ほとんどないと考えられます。))


「そうなんだね......

 制度が機能してるってことだよね?」


((──はい。))


「なんだろ......

 覚えてないからなのか、

 すごく不思議に思っちゃうよね......」


((──はい。

  遥の置かれている状況では、

  仕方のないことです。))


「うん、そだね......」


((──はい。))


ゼニスと会話をしながら、

下へ降りるエスカレーターに乗る。


「帰ろっか?」


((──はい。))


「なんか、

 忘れていることって、

 新しく知ったみたいな感覚で面白いね。」


((──はい。))


「新鮮な感じ?

 知らない世界に迷い込んだ感じかな?あっはは」


((──はい。

  そのように感じてしまうのも、

  無理はありません。))


エスカレーターを降り、

そのまま外へ向かう。


「毎日、いろいろなことが起きるよね。」


((──はい。))


「わたしの周りだけ、

 いろいろなことが起きてるってこともないでしょ?」


((──はい。

  遥が観測している出来事は、

  日常的に各所で発生しているものと、

  大きな差はありません。))


「だよね~、ふふっ」


((──はい。))


「ここまで知らないこと多いとさ、

 異世界だとしても、

 不思議じゃないよね?

 そんなわけないんだけどさ、あはは」


((──はい。

  異世界と判別できるような、

  差異や違和感は、

  現在の観測範囲では確認されていません。))


「うん、知ってる~。」


((──はい。))


「ちなみに、ゼニスが異世界かもって判断する基準って、

 どんなところにあるの?」


((──モンスターの出現や、

  魔法の行使など。

  明らかに、

  現実世界では起こり得ない事象が観測された場合です。))


「なるほど......

 そこまでわかりやすかったら、

 さすがに気づくよね。あはは」


((──はい。))


「わたしも、魔法使えたら面白かったのにね、ふふっ」


((──はい。))


楽しく話をしながら、

アパートまで帰ってきた。


新しいバッグから鍵を取り出し、

家の中へと入った。

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