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第44話:もし異世界だったら?

本を読み終えて、

膝の上に置いたまま、

少しだけ余韻に浸る。


「......読破だね。」


((──読了を確認しました。))


表紙をもう一度だけ見てから、

そのままテーブルに置く。


『特別な力はありませんが、異世界で生きてます』


「想像してたより......普通の話だったね。」


((──日常描写を中心とした構成でした。))


「異世界で、

 ご飯作ったり働いたり......」


((──生活の継続が、

  主軸に置かれていました。))


「だよね。」


言いながら、

ソファに体を預ける。


「世界が変わってもやることは、

 そんなに変わらないのかもね。」


((──環境が変化しても、

  行動様式が即座に変わるとは限りません。))


「だよね......」


((──現状の遥に、

  通ずる部分はあるかもしれませんね。))


「確かに......

 似てるところはあるかも、ふふっ」


本の表紙に目を向けてから、

天井を見上げる。


「もしかして、

 ここが異世界だったりしてね、あはは~!」


((──退院後に目覚めた世界が、

  異世界であったという展開は、

  物語としては興味深いですが、

  現実に起きる確率は限りなくゼロに近いです。))


「知ってる~、ふふふ......

 でも、ホントにそうだったら面白いよね。

 事実は小説より奇なりって言うじゃん。」


((──現実世界で実際に起きている出来事が、

  フィクションとして描かれる小説よりも、

  かえって奇妙で不思議に感じられる場合がある、

  という意味ですね。))


「うんうん。

 ゼニス辞書、さすがだね。」


((──はい。))


「まぁ......そんなわけないんだけどさ......

 でも、可能性はゼロじゃないよね?」


((──可能性は限りなくゼロに近いですが、

  完全に否定することはできません。))


「つまり、

 ここが異世界の可能性もあるってことだよね?」


((──意味合いとしては、そうなります。))


「それなら、

 ホントに面白すぎる展開なんだけどね。ふふっ」


天井から視線を戻し、

視界の隅で漂うゼニスを見つめる。


「もし、

 異世界だったとしても、

 ゼニスは判別できないのかな?」


((──いいえ。

  現実世界の特徴は、

  十分に学習されています。

  差異や違和感があれば、

  判別は可能です。))


「だよね......

 元の世界とすごく似てても、

 違和感があればさ。

 さすがに、わたしでも気づくよ。あはは」


((──はい。))


「でも、わたし記憶がないじゃん?

 だからさ......もし異世界に迷い込んでても、

 正直わかんないよね。あっはは!」


((──はい。

  ただし、遥に代わって環境を判別することは可能です。

  その点については、

  過度に心配する必要はないと思われます。))


「そだね、それはそう......

 ゼニスに頼りっぱなしだね。

 いつもありがとね、ゼニス。」


((──はい。遥のサポートが役割です。))


「う~ん、異世界のイメージって......

 モンスターが出てきたり、魔法があったり、

 そんな世界観だよね?」


((──はい。

  ライトノベルなどでは、

  そのような世界観が多く描かれています。))


「逆にさ、

 現実世界と区別がつかなかったら、

 なんか怖くない?」


((──はい。

  仮に現実世界と酷似していたとしても、

  完全に同一であれば、

  異世界とは定義されません。))


「うんうん......」


((──異世界である以上、

  何らかの差異や違和感が

  生じると考えられます。))


「そういうもんか......」


ゼニスの淡い光が、

少し輝きを増している。


「まぁ、

 ここが異世界だったとしても、

 わたしにはどうすることもできないけどね。あはは!」


((──はい。

  遥の心配は杞憂です。

  必要なサポートは行いますので、

  安心してください。))


「うんうん、

 わかってるよ~。

 たぶん、『特別な力はありませんが、異世界で生きてます』に

 感化されただけだと思う。」


((──はい。))


「もう一冊は、

 あとで読もうかな。」


((──はい。))


ソファから立ち上がり、

軽く伸びをする。


「あっ、そうだ!

 ヒヨリナでも行く?」


((──はい。お任せします。))


「OK!

 じゃ~、散歩がてら行ってみよ!」


((──はい。))


財布と鍵を持ち、

サンダルを履いて家を出た。


「なんか、

 小さいバッグ欲しいかも。」


((──財布や鍵の持ち運びを考えると、

  ショルダーバッグが使いやすいと思われます。))


「いいね!

 両手も空くし、アリだね!」


((──はい。))


北口広場を通り過ぎ、

そのままヒヨリナへと入っていく。


「どんなショルダーバッグがいいかな?

 やっぱり、USA-DE-PPONかな、ふふ」


((──遥のお気に入りのキャラクターですね。))


「うん。

 けっこう好きかも。」


((──では、

  2階の雑貨店を見てみますか。))


「うん。」


エスカレーターに乗り、

2階へと上がる。


エスカレーターを降り、

前にキーホルダーを買った雑貨屋へ。


所狭しと並んだ棚には、

小物や文房具、キャラクターグッズがぎっしりと並ぶ。


「相変わらず、

 いろいろ置いてあるね。」


((──商品の入れ替わりはありますが、

  陳列の傾向は、

  前回と大きく変わっていません。))


通路をゆっくり進みながら、

視線を棚から棚へと移していく。


キーホルダー、ポーチ、

小さなぬいぐるみ。


手に取っては戻し、

また別の商品を眺める。


((──ショルダーバッグは、

  奥の棚にまとめられています。))


「ほんとだ。」


視線の先に、

小ぶりなバッグがいくつか並んでいるのが見えた。


USA-DE-PPONの刺繍ワッペンがついた、

小さめのショルダーバッグを手に取る。


「このバッグ、ちょうどいいね。」


((──決定ですか。))


「うん。

 かわいいし、使いやすそう。」


レジで会計を済ませ、

タグを外してもらう。


財布と鍵を入れ、

肩からぶら下げる。


少しバッグの位置を調整してから、

店を後にした。

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