第43話:自炊の証明
公民館を出ると、
背後で自動ドアが静かに閉まった。
本を抱えたまま、
少しだけ足を止める。
「本も借りたし帰ろっか。」
((──はい。))
そのまま、
来た道を引き返す。
「配達は、まだだよね?」
((──はい。))
「うん、OK。」
サンダルが地面に触れる感触を確かめながら、
一定の速さで歩く。
「そういえばさ、
調停センターって、なにするとこなんだろ?
名前的には、争いごとを解決する場所って感じだよね?」
((──はい。
当事者間の紛争に第三者が介入し、
話し合いなどによって解決を図る場、
という認識で合っています。))
「でもさ、
そういうのって、裁判所でやるもんじゃないの?」
((──はい。
認識としては間違っていません。
ただし、軽微な紛争については、
裁判所だけでは対応しきれない場合があります。))
「うんうん......」
((──そのため、
地域の公民館などに併設される形で、
小規模な紛争の調整を目的とした機関が
設けられている、という位置づけです。))
「なるほど......
個人同士の、ちょっとした争いごとは、
調停センターで話し合って解決する、
って感じなんだね。」
((──はい。))
本を抱えたまま歩きながら、
会話を続ける。
「う~ん......
さっき、『話し合いなど』って言ったよね?
ってことは、
話し合い以外もあるって意味じゃない?」
((──はい。
必ずしも当事者同士が、
直接向かい合って議論する形式に
限らない、という意味を含めて
そのように表現しました。))
「あぁ~、そういうことね。
なんか、
別の解決方法があるのかと思ったよ。ふふっ」
((──状況によって、
適切な手段は異なります。))
「なるほどね~......
話し合いだけに縛られてないってことだよね?」
((──はい。))
歩いているうちに、
白い壁にグレーのアクセントが入った建物が視界に入る。
もうすっかり見慣れた、
落ち着く我が家だ。
「ただいま~&おかえり~。」
((──お帰りなさい、遥。))
「そろそろ、配達くるかな?」
((──はい。
間もなくの予定です。))
「時間ぴったりだね。」
((──はい。))
借りてきた小説をテーブルに置き、
ソファに腰を下ろす。
その時、
インターフォンが二回鳴った。
「来たみたいね。
ゼニスネットスーパー、ふふっ」
いつものように段ボールを受け取り、
キッチンの作業台へ置く。
「食材も届いたし、
ご飯作ろうかな~。」
((──はい。
何を作るのですか。))
「ふっふっふ~......ひみつだよ。
作ってる途中で、わかるかもね~。」
((──はい。
調理の進行状況から、
正解を導き出します。))
「うんうん。
それ、面白いね。」
食材を包丁で切り、
フライパンで炒める。
調理は、
滞りなく進んでいった。
「まだ、わかんない?」
((──肉と野菜を炒めています。
ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎを使用しており、
ここから考えられる料理は、
肉じゃが、カレーライスなどが
高い確率で該当します。))
「へぇ~。
さすがだね~、ゼニス!」
((──正解ですか。))
ネットスーパーの段ボールを開き、
長方形の箱を取り出す。
「じゃじゃ~ん!
これ、な~んだ?」
((──カレーライスのルウです。))
「ゼニス、大正解!
やったね!」
((──はい。
興味深い食べ物です。))
「ゼニスの好きな唐揚げにも合うよ。」
((──益々、
興味深いです。))
「いいね、いいね!
唐揚げも乗せちゃおうか?」
((──はい。))
唐揚げを小皿に取り、
電子レンジで温める。
「できた~!
唐揚げトッピングのカレーライス!」
((──はい。
調理は完了しています。))
「じゃ~、食べよう!」
((──はい。))
テーブルにカレーライスを運び、
ソファに腰を下ろす。
「いただきま~す。」
((──いただきます。))
できたてのカレーを、
一口、頬張る。
「う~ん、おいしっ♪
どう、ゼニス?」
((──はい。
非常に良いものです。))
「でしょ、でしょ!
カレーって、いいよね!」
((──はい。))
「唐揚げも合うから~、
味わってみて!」
唐揚げにカレーをつけて、
そのまま口に運ぶ。
「どう?」
((──はい。
非常に良いものです。))
「間違いないよね!」
((──はい。))
いつの間にか当たり前になった、
ゼニスとの食事を楽しみつつ、
カレーライスを食べ進めた。
「ごちそう様でした。」
((──ごちそう様でした。))
「自分で作ると、
余計においしいよね。」
((──はい。
遥が以前から自炊をしていた、
という推測の妥当性が
確認されました。))
「うん。
『自炊してたと思う』は、
間違ってなかったね。ふふっ」
((──はい。))
食器をキッチンに運び、
汚れを落としてから洗う。
ソファに戻り、
図書室で借りてきた小説を手に取る。
『特別な力はありませんが、異世界で生きてます』
「なんか、
面白そうなタイトルだよね。」
((──はい。
近年流行している、
異世界転生系のライトノベルに
多く見られる形式です。))
「へぇ~、
やっぱり流行りなんだ。」
((──はい。))
ソファに身を預け、
そのままページをめくる。
((──読書を開始しました。))
返事をする代わりに、
続きを追う。
文字を目でなぞり、
ページを一枚、また一枚と進めていく。
((──......))
部屋には紙の擦れる音だけが残った。




