第42話:公民館の図書室
「配達まで時間あるし、
公民館の図書室、行ってみない?」
((──はい。))
「よし、決まりっ!」
サンダルを履いて、
そのまま外に出る。
行き先は、
ひより北地区公民館。
「どんな本、借りようかな?」
((──ジャンルとしては、
料理関連の書籍がおすすめです。))
「ゼニスは、
わたしが料理できないとか思ってるんでしょ? ふふっ」
((──は......いいえ。
遥は、料理も行っていたと推測しています。))
「ん?
今さ、『はい』って言いかけたよね?」
((──はい。
言いかけました。))
「素直だな~、あっはは。
でも、料理は嫌いじゃないよ。
たぶん......自炊してたと思うしね......」
((──食事への関心が高い傾向から、
自炊していた可能性は、
十分に考えられます。))
「なんか、
言わなくてもいい一言が入ってるよね~。ふふ」
((──『食事への関心が高い』
という部分でしょうか。))
「うん。
でも、間違ってはないよね~。あはは」
((──はい。
整合しています。))
「そう言えばさ、
本借りるときって、
本人確認のなんか必要だよね?」
((──はい。
本人確認は必要です。))
「だよね~......」
((──公的機関では、
手の甲をかざすことで、
確認が可能です。))
「そだね!
わたしも、手の甲で確認できるんだもんね。
忘れてたよ、あっはは」
((──はい。))
しばらく歩くと、
通りの先に、
ひより北地区公民館の建物が見えてきた。
一般的な公民館くらいの大きさで、
外観は比較的新しい。
派手さはないけれど、
きちんと整備されている感じがして、
地域の施設らしい落ち着きがあった。
入口の前で、
足を止める。
「ここだね。」
((──はい。))
自動ドアが開き、
そのまま中へ入った。
「図書室はどっちかな?
館内図とか、あるかな?」
((──はい。
右手に総合案内があり、
そちらに館内図が設置されています。))
「さすがゼニス!
頼りになるね!」
((──必要な情報は、
随時提示します。))
「このまま奥に行けば図書室で、
左に行くと、調停センターがあるんだね。」
((──はい。))
「調停センターは、ちょっと興味あるけど......
行く意味もないしな~......」
((──現時点では、
遥が立ち寄る必要はありません。))
「だよね~。」
((──はい。))
そのまま、
奥へ続く通路に足を向ける。
ガラス扉の向こうに
図書室の表示が見えた。
中は静かで、
本の並ぶ棚が整然と並んでいる。
「......なんか、楽しみ!」
((──はい。))
そのまま、
ゆっくりと中へ入った。
図書室の中には、
すでに何人か人がいて、
それぞれ静かに過ごしていた。
椅子に座って本を読んでいる人もいれば、
棚の前で、
ゆっくりと背表紙を眺めている人もいる。
声はなく、
ページをめくる音だけが、
控えめに響いていた。
((さすがに、図書室で普通に話すのはね......))
((──周囲の環境を考慮すると、
控えるのが適切です。))
((どんな本、借りようかな~。
ゼニスのオススメは?))
((──チョコレートの歴史など、
チョコレートに関する文献が該当します。))
「どんだけチョコ好きなのさ、あはは」
思ったより少し大きな声で
ツッコミを入れてしまったけれど、
周りの人たちは、
特に気にする様子もなかった。
司書さんに注意されることもなく、
図書室の静けさは、
そのまま保たれていた。
((どんだけ、
わたしに関心がないんだ......
逆に面白いよね、ふふふ))
((──読書などに集中している場合、
周囲の音や出来事が、
認識されにくくなる可能性はあります。))
((だね。
集中してると、
気がつかないこと、あるもんね。))
((──はい。))
((じゃあ、
チョコ関係の文献でも探そうか?))
((──はい。))
((......探すわけないでしょ。
ふっふふ))
((──......))
((なんか、
ツッコんでよ!))
((──......))
((まさか、
無言でツッコんでるの?))
((──はい。))
((テクニック使ったな~。
ほんと、面白いねゼニスは。))
((なんか、
脳神経関係の本、ないかな?))
((──専門的な医学文献は、
置かれていない可能性があります。))
((なるほど......
医学的に難しいやつは、
さすがにないか......))
((──はい。))
棚の間をゆっくり歩きながら、
並んだ本の表紙やタイトルに、
順番に目を通していく。
やはり、
難しそうな医学専門書は見当たらず、
日常や趣味に近い本が、
手に取りやすい位置に並んでいた。
((じゃあ、
小説でも借りようかな?))
((──はい。))
小説が並ぶ棚の前で、
自然と足が止まる。
特別な表示があるわけでもなく、
ただ、物語がまとめて置かれているだけの棚。
その中の一冊に、
ふと視線が引っかかった。
『わたしの知らない、わたしの話』
((この小説......
わたしみたいじゃない? ふふ))
((──類似点はありますが、
状況は異なります。
遥は、自分のことを覚えていないだけです。))
((だよね。
まぁ......借りないけどね。ふふ))
((──はい。))
棚を少しだけ眺めてから、
目についたSF小説を2冊ほど手に取る。
どちらも表紙とタイトルだけで、
内容までは深く見ない。
((こんなもんでいっか。))
((──はい。))
そのまま本を抱えて、
受付のほうへ向かった。
「お願いします。」
本を受付に差し出す。
担当の司書さんが、
こちらを見上げて、
「はい。確認しますね」
と言いながら、PCを操作する。
続けて、
「では、本人確認をお願いします」
と告げ、
スキャナーのような機器を手に取った。
少しだけ迷ってから、
左手を、そっと差し出す。
ピッ、と
短い電子音が鳴り、
本人確認が完了する。
「はい。
それでは、貸し出し期限は一週間になります。」
「ありがとうございます。」
そう言って、
本を受け取り、
軽く会釈をして、
図書室を後にした。




