表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/51

第40話:覚えていない確認作業

眠っていたはずの意識が、

いつの間にか、

目を覚ます準備を始めていた。


――そういえば、

昨日はゼニスと

ずいぶんたくさん話した気がする。


幸福度とか、指標とか......

今までよりも深く、

真面目な話をした。


そのことが、

どこか心地よく残っていた。


((──おはようございます、遥。))


「ふわぁ......

 おはよ、ゼニス。

 今日も天気よさそうだね~。」


((──はい。

  過ごしやすい気温と湿度です。))


「いいね~。

 今日は、何しようかな......」


カーテンを開け、

朝の光を、そのまま受け止める。


「顔、洗ってくるか~。」


((──はい。))


手早く顔を洗い、

寝ぼけていた意識が、

少しずつ戻ってくる。


くろいわベーカリーの袋から、

総菜パンを取り出し、かじりつく。


「総菜パンも、

 買っておいてよかったね。」


((──はい。

  朝食になりましたね。))


「レンジでチンしてから、

 食べればよかったかも......」


食べかけのパンを、

電子レンジで軽く温める。


「やっぱり、

 温かい方がおいしいかも。」


((──はい。))


「朝ごはんも食べたし、

 ぶらぶら散歩でもしよっか?」


((──はい。

  歩行は、

  遥の身体機能の維持に有効です。))


「そだね。」


そう言って、

ワンピースに着替え、

外に出る準備を整えた。


サンダルを履き、

玄関を開けて、外へ出る。


通勤時間帯より少し遅いため、

北口へ向かう人の流れは、

いくらか落ち着いていた。


「とりあえず、

 この辺を散歩しよっかな。」


((──はい。))


北口に向かって歩き、

サンクチュアリ27の手前で、

コンビニのある方へ曲がる。


コンビニを通りすぎ、

そのまま少し歩いていると、

小さな公園があることに気づいた。


「へぇ~、こんなとこに公園あるんだね。」


((──住宅街にある、

  小規模な公園のようです。))


「そだね~。

 少しだけど遊具もあるし、

 子供たちが遊ぶにはよさそう。」


((──はい。))


「ベンチもきれいだし、

 新しい公園なのかな?」


((──住宅街自体が新しいため、

  公園も比較的新しい可能性があります。))


「なんか、公園って、

 ゆったりしてていいよね。」


((──はい。))


「......あ、

 飲み物、買ってくればよかったな。」


((──公園の入口付近に、

  自動販売機がありました。))


「いいね。

 自販機で買ってこよう。」


((──はい。))


自動販売機まで歩き、

缶コーヒーを買って、

ベンチに腰を下ろす。


「ふぅ……」


コーヒーを飲んで、

一息つく。


「ひより緑地公園より静かだね。

 やっぱり、こんな時間だからだよね。ふふ」


((──はい。

  この時間帯は、

  人の利用が少ない傾向にあります。))


コーヒーを片手に、

しばらくぼんやりしていると、

公園に、深くキャップを被った男性が入ってきた。


周囲を少し気にするような素振りを見せながら、

ゆっくりと歩いてくる。


それに合わせるように、

パトカーが公園の脇に止まった。


警察官が降り、

男性に声をかける。


男性は、

警察官の言葉に、

小さくうなずいているように見えた。


警察官が、

男性の左手の甲に、

何かの機器を軽く当てる。


男性は、

抵抗する様子もなく、

そのまま後部座席に乗せられた。


ドアが閉まり、

パトカーは、

静かに走り去っていく。


「今の......なんだったんだろ?」


((──職務質問のみで、

  同行を求められることは、

  あまり一般的ではありません。

  ただし、任意同行であれば、

  その可能性はあります。))


「ふぅ~ん、そうなんだね。

 そういえば、コンビニの万引き?の時もそうだったけど、

 パトカーに乗る前に、

 手に何か当ててるよね?

 あれ......なんなんだろう......」


((──公的な場面では、

  そういった確認が行われることもあります。

  特別なものではありません。))


「公的な場面で確認......

 市役所とかでの確認も、

 あんな感じってこと?」


((──はい。

  公的な場面では、

  本人確認が行われることがあります。))


「......えっ......

 じゃあ、わたしも、

 あんな感じで確認されてたってことかな?」


((──はい。

  一般的な手続きです。

  遥も、確認を受けた経験はあるはずです。))


「そうなのかな......

 ぜんぜん覚えてないよ。あっはは」


((──事故の影響で、

  遥自身に近い記憶が欠落しています。

  そのため、

  日常的な記憶にも影響が生じており、

  確認作業を含めて様々なことを覚えていないのは、

  自然なことです。

  気にする必要はありません。))


「初めて見たような気がしたから、

 気になっただけだしさ......  

 でも、覚えてないなら仕方ないし、  

 気にしてないから大丈夫だよ。  

 心配してくれて、ありがと。」


((──はい。))


「自分のこと以外も、

 覚えてないんだね~......

 これからも、覚えてないこと、

 いろいろ出てきそうだね。ふふ」


((──その可能性はあります。))


「うん、そだね。」


((──過度に意識する必要はありません。))


「うん。

 ほんと、気にしてないから大丈夫。」


((──了解しました。

  遥の幸福度は、重要な指標です。))


「だね。」


缶コーヒーをひと口飲んで、

ゆっくりと息を吐く。


視線を上げると、

いつもと変わらない空が、

静かに広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ