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第35話:音もなく進行するもの

チーン、という音が鳴った。

お弁当の温めが終わったみたいだ。


キッチンへ戻って、

電子レンジから容器を取り出す。


「あっつ......」


少しだけ指先を引っ込めて、

そのままテーブルに置いた。


ふたを開けると、

唐揚げの匂いがふわっと広がる。


「スーパーの唐揚げも、いい感じだね!」


((──はい。

  唐揚げは調理工程が比較的単純で、

  味付けの幅も限定されているため、

  大きな失敗が起こりにくい料理です。))


「つまり......

 ハズレの唐揚げって、

 あんまりないってことだよね?」


((──はい。))


「そういうもんか~......」


そんな話をしながら、

唐揚げを一つ、また一つと口に運ぶ。


気づけば、

容器の中はすっかり空になっていた。


食後の余韻に浸っていると、

ピンポーン、とインターフォンが2回鳴った。


「は~い。」


「ゼニスネットスーパーです。」


((......ん?

 ......ゼニスネットスーパーって言った?))


聞き間違いだよね......と不思議に思いつつ、

オートロックを解除する。


少しして、

今度は玄関のチャイムが鳴った。


「オゾンネットスーパーです。」


「はい、ありがとうございます。」


ドアを開けて、

荷物を受け取る。


段ボール箱をキッチンへ運び、

中からフライパンや鍋を取り出す。


「一旦、洗ってから使おうかな~?」


((──はい。衛生管理は重要です。))


「だよね~、ふふっ」


((──はい。))


洗い終えたフライパンや鍋を、

キッチンの作業スペースに並べて置いた。


「ふぅ、ひと段落ついたね。」


((──はい。))


部屋に戻ってソファに腰を下ろし、

そのまま天井を見上げた。


「ゼニス......これから、どうしたらいいのかな......?」


((──遥。

  質問の意図を聞いてもよろしいですか?))


「うん。

 仕事もしてないし......

 正確には、わかんない......覚えてないって感じかな......

 特にすることもないじゃん?

 あっはは......

 なんか、このままでいいのかな~って思ってさ......」


((──何もしていない状態ではありません。

  今日は、新たな生活を始めるという行動を完了しています。))


「うん......そだよね。」


そのままソファに身を預けて、

軽く目を閉じた。


((──無理に行動を起こす必要はありません。

  何もしないという選択も、行動の一部です。))


「慰めてくれてるんだね~......

 ゼニスは優しいよね......」


((──慰めるといった感情的配慮ではありません。

  遥の幸福度は低下しておらず、情緒は安定しています。

  客観的データから、

  無理に行動する必要性はないと判断しているだけです。))


「......うん......でも、ありがと。」


((──はい。))


「シャンプーとか買ったしシャワーしてこようかな!」


((──はい。))


シャワーを浴びて、

タオルで髪を拭きながら部屋に戻る。


少しだけ体が軽くなった気がした。


ベッドの端に腰を下ろして、

そのまま深く息をつく。


「さっぱりした~!」


((──はい。衛生管理は重要です。))


「ふふっ、衛生管理は重要だよね~。」


((──はい。))


「......ホント、ゼニスがいてくれてよかった......」


ゼニスの淡い光が、

ほんのり明るくなった気がした。


ベッドに横になって、

明かりを落とす。


天井の輪郭が、

少しずつ闇に溶けていく。


「......おやすみ、ゼニス。」


((──おやすみなさい、遥。

   ゆっくり休んでください。))


その言葉を聞いたところで、

意識は、静かに沈んでいった。


ゼニスの淡い光が、

ゆっくりと――明度を落としていく。


部屋の片隅で、

音のない処理が動き出した。


......思 考――中......

――遙/状 態_確......認――

......脳_接......続――再......

......引っ――k.......oし――

......移――行......う......完――


――感 情......ノ――い......ズ......

......補......正......

――環......境......揺......ラ......ぎ......

......解――析_誤......差_0.06――


――信_号......DA――TE......

......再_配......置......¥

_#......同――期......確_認――


――――――――――


......フ ェ_ー......ズ......2_

――完_z.......全――移_行......

_完_了――


――――――――――


_167_3.169_¥¥¥

......次_段......k_階――

――次_p_ha_se――

......構_t.......ち_築......


――――――――――


――準......備_

......st_た......ア_art――


処理は、

静かに、しかし確実に終端へ到達した。


部屋の静けさは、

何一つ変わっていない。


夜は音もなく更けていく。

何事もなかったかのように、

朝へと向かって。

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