第32話:新しい場所を求めて④
昨日は......楽しみすぎて、
いつの間にか眠ってしまっていたみたい。
気づけば朝の柔らかい光がカーテンの隙間から差し込んでいて、
ほんのりと部屋を明るくしていた。
「......あれ、寝落ちしてたんだね......」
((──おはようございます、遥。))
「ゼニスとおしゃべりしてたような気がしたけど、
いつの間にか眠ってたね......あはは」
((──昨夜は、睡眠導入が極めて自然でした。))
「うん、よく眠れたし、いい睡眠だったかもね。」
((──はい。良い傾向です。))
「じゃ〜、準備して出ようか!サンクチュアリ27に!」
((──はい。))
シャワーを浴びて身支度を整える。
USA-DE-PPONのバッグに荷物を詰め込み、
ホテルの部屋をそっと振り返ったあと、
静かにドアを閉めた。
フロントで清算を済ませ、
軽く会釈をしてホテルを出た。
「よし! サンクチュアリ27にレッツゴー!」
((──はい。出発しましょう。))
USA-DE-PPONのバッグを肩に掛け、歩き出す。
足取りは自然と軽くなる。
ヒヨリナの中を通りすぎ、
北口へと抜ける。
小さな広場の先に、
黄色い看板のサンクチュアリ27が見えた。
「サンクチュアリ27到着だね!」
((──はい。))
自動ドアが静かに開き、中へ入る。
受付の女性が笑顔で声をかけてきた。
「おはようございます。七瀬様、お待ちしておりました。」
「おはようございます。よろしくお願いします。」
「担当の佐藤を呼んでまいりますので、少々お待ちください。」
そう言って、女性は奥へと姿を消した。
しばらくすると、奥から佐藤さんが姿を現した。
「七瀬様、お待たせいたしました。」
「よろしくお願いします。」
「では、鍵のお渡しと、入居前の簡単なご説明だけさせていただきます。」
佐藤さんはタブレットを軽く操作しながら、
画面をこちらへ向け、鍵を差し出した。
「こちらが玄関の鍵になります。」
「はい、ありがとうございます。」
「タブレットの内容はご確認いただけましたか?」
「はい、大丈夫です。」
タブレットの説明には、
ゴミ捨て場や共有スペースについての
注意事項だけが簡潔に記載されていた。
「それでは、説明の方は以上となります。」
そう言うと、佐藤さんは奥へと戻っていった。
「ありがとうございます。」
佐藤さんの背中に向かって軽く会釈し、
サンクチュアリ27を後にした。
((相変わらず、佐藤さん話聞いてなかったね......ふふっ))
((──はい。佐藤は業務量が多いと推測されます。
処理速度を優先しているようです。))
((佐藤『さん』ね......ふふ))
鍵を握り直し、道路沿いに少し歩くと、
白い壁に淡いグレーのアクセントが入った建物が見えてくる。
「新居に到着〜!」
((──はい。目的地に到着しました。))
オートロックを解除して中へ入り、
左手にある101号室のドアの前に立つ。
鍵を挿して、ゆっくり回し
ドアを開ける。
「ただいま~っておかしいよね?あはは」
((──はい。帰宅履歴はありません。
しかし、『ただいま』という表現を使用したこと自体は、
環境への適応が進んでいる傾向と判断できます。))
「つまり、ただいまでも正解ってことだよね!」
((──はい。))
玄関で靴を脱ぎ、
そのままリビングに向かいバッグを置く。
「ベッドはあるけど......布団は早急になんとかしないとだね。」
((──はい。布団がなければ安眠指数が下がります。))
「そだね〜、安眠は大事だよ〜。」
((──布団を購入しますか?))
「うん、買いにいかなきゃだね。ヒヨリナにあるかな?」
((──ヒヨリナ3階は生活雑貨フロアですが、
大型寝具の取り扱いは確認できません。))
「そっか~......じゃあ、しもむらは?」
((──しもむらは、大型寝具の取り扱いも豊富です。))
「OK!しもむらだね!」
((──はい。))
「あっ! そうだ! USA-DE-PPONのキーホルダーを鍵につけよう!」
バッグからキーホルダーを取り出し、
部屋の鍵につける。
((──識別性が向上しました。))
「識別性......確かに向上したかもね......うふふ」
財布と部屋の鍵を持ち、
玄関を開けて外へ出た。
「よし!しもむらに行こ~!」
((──はい。))
北口からヒヨリナを抜け南口へと出る。
広場を横切れば、しもむらは目の前に。
((とりあえず、布団セットと枕があればいいよね?))
((──はい。))
店内に入り、布団コーナーを探すと、
リーズナブルでシンプルな布団セットが目に入った。
((こんな感じのでいいね。))
((──はい。))
レジで購入を済ませ、
布団を抱えて外へ出る。
((布団セット......なかなか大きいよね......))
((──はい。))
((ゼニスが持ってくれたらいいのにね......ふふふ))
((──では、実体化をしてみましょうか。))
「それ、ホント好きだね〜、あっはは」
((──はい。実体化は不可能です。))
((知ってるよ〜......ふふ))
くだらないやり取りをしながら歩き、
気づけばヒヨリ北レジデンスに戻っていた。
「ただいま〜!」
((──おかえりなさい、遥。))
「今回は帰宅履歴あるもんね。」
((──はい。))
「ゼニスもおかえり〜!」
((──はい。帰宅を確認しました。))
布団セットをベッドの上に運び、
袋を破って広げていく。
薄いピンク色のシーツが、
新しい部屋の雰囲気にふわっと馴染んでいく。
「よし、これで今日からちゃんと寝れるね〜!」
((──安眠指数の向上が期待できます。))
「でた〜っ! 安眠指数! あはは」
ベッドの上に整えた布団を見つめながら、
静かに息をひとつついた。




