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第31話:新しい場所を求めて③

((ホントびっくりするくらい簡単に決まったね~!))


((──はい。))


((引っ越し......? 引っ越しではないか、ホテルからだし......ふふふ))


((──厳密にいえば引っ越しとは異なります。))


((初めての一人暮らしみたいだね。

  でも、ゼニスいるから一人暮らしともちがうかも......))


((──わたしは人間ではないので、

  厳密に言えば一人暮らしで相違ありません。))


((さっきから、厳密多めだね......ふふ))


そんな他愛ないやり取りをしているうちに、

ヒヨリナの入口が近づいてきた。


自動ドアが開き中へと入る。

外とは違う店内の照明が出迎えてくれた。


((住むところも決まったし、安心したらお腹空いてきたね〜......ふふふ))


((──本日は朝食を摂取していないため、空腹になる頃合いです。))


((そういえば、朝ごはん食べてなかったね。完全に忘れてたよ......))


((──はい。))


((ゼニスはなにか食べたいものある?))


((──厳密に言えば、食べることはできません。))


「そんな細かいことはいいんだよ〜......あはは!」


近頃は、こんなふうに声に出して笑っても、

もうゼニスは『声量にご注意を』とは言わなくなっていた。


((ヒヨリナの1階は、ご飯も売ってたよね?))


((──はい。お土産品やデザート類のほかに、

  総菜やお弁当も販売されています。))


((よしっ!なんか美味しいもの食べたいね。

  ま〜......なんでも美味しく感じちゃうけどさ......ふふ))


そう話しながら、

並んだお弁当の棚をゆっくり見て回る。


((そうだ!ついでだし、夜ごはんのお弁当も買っておこうかな。))


((──はい。ホテルに戻ってから再度外出する手間が省けます。

  効率的な判断です。))


((うん、じゃ〜お弁当1つはゼニスが選んでいいよ。))


((──はい。))


((どれにしようかな......ハンバーグもいいな......

  パスタかぁ......どれも捨てがたい......))


((──では、ハンバーグ弁当とパスタの両方を購入し、

  その他に気になる総菜があれば追加する方式が、

  最適だと判断されます。))


((......ゼニス、それは全部買えば解決って提案だよね?))


((──はい。否定はしません。))


((OK!じゃ〜食べたいもの全部買っちゃおう......うふふ))


((──はい。遥らしい判断です。))


ハンバーグ弁当、カルボナーラ、

さらに唐揚げやエビフライといった総菜まで追加し、

気づけばカゴはずしりと重たくなっていた。


((......なんか調子に乗って、たくさん買っちゃったな......))


((──はい。遥らしい選択です。))


((でも、ゼニスと一緒に食べるから多くてもいいよね。))


((──結果的に食べるのは遥で......))


ゼニスの言葉を軽く遮るように、


「わかってるよ〜。でもさ、一緒に食べてるって感じが好きなんだよ〜♪」


((──はい。非常に良いものです。))


((でしょ〜!))


そんな他愛ないやり取りをしながら、

ヒヨリナを後にした。


お弁当や総菜が入った袋が少し重たいけれど、

その重さすら、どこかうれしく感じる。


ホテルへの道をゆっくり歩きながら、

明日から始まる新しい生活を想像して、

わくわくした気持ちが強くなっていた。


ほどなくしてホテルに着き、

自動ドアが静かな音を立てて開く。

ロビーに入ると、いつもの空気が迎えてくれる。


((帰ってきたね。))


((──はい。明日に備えて、本日はゆっくり休息をとりましょう。))


((そだね〜、部屋でゴロゴロしてよう......ふふ))


エレベーターが上昇するわずかな揺れさえ、

どこか心地よく感じられた。


部屋に入り、

お弁当や総菜が入った袋をテーブルの上へそっと置く。


「ご飯食べる前に、シャワー浴びてこよ〜!」


((──はい。))


そのままバスルームの扉を開け、

温かい湯気に包まれながら疲れを癒す。


シャワーを終え、

髪をタオルで押さえながら部屋へ戻ってくる。


「うん、サッパリした〜!」


((──はい。))


ベッドに腰かけ、

テーブルの袋からお弁当や総菜を取り出して並べていく。


「ハンバーグ食べよ!」


((──遥。唐揚げもお忘れなく。))


「はいはい、わかってるよ〜!

 ホント唐揚げ好きだよね、あっはは」


((──はい。非常に良いものです。))


ハンバーグ弁当を中心に食べ進め、

唐揚げやエビフライを少しつまんでいく。


「ごちそう様でした。」


((──良い食事でしたね、遙。))


「うん、美味しかったね。」


空になった容器を重ねてまとめ、

テーブルの端へそっと寄せる。


「ホテルにずっと滞在してたわけじゃないけど、

 なんか......出ていくとなると、名残惜しいよね......」


((──はい。慣れた環境を離れる際には、

  一定の感情変化が生じるのが一般的です。))


「だよね~......」


視線を部屋のあちこちにゆっくり向ける。

ベッド、窓、いつもの壁の白さ——

ほんの少しだけ、さみしさを感じた。


((──遙。名残惜しさは、

  次の環境への適応が順調に進んでいる証拠です。))


「確かに......ゼニスの言う通りだね。」


((──はい。))


そう呟いて、そっと深呼吸をひとつ。

小さな部屋に、穏やかな空気が静かに満ちていく。


明日は、新しい鍵を受け取る日。

そのことを思うと、気持ちが静かに高まっていくのを感じた。

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