表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

第30話:新しい場所を求めて②

サンクチュアリ27から道路沿いに少し歩くと、

真新しい建物が見えた。


佐藤さんが歩みをゆるめ、

正面の建物を示す。


「こちらが、《ヒヨリ北レジデンス》になります。」


白を基調とした外壁に、

淡いグレーのアクセントが入った三階建ての新築。

賃貸アパートにしては、どこか上品な雰囲気があった。


「おぉ〜......これすごいけど......高いんじゃない?」


思わず心の声が漏れ出たけど、

佐藤さんの反応はなかった。


((......佐藤さんには、聞こえてなかったのかな......))


((──はい。その可能性はあります。))


((まぁ......いつものことだしいっか......))


((──はい。))


「それでは、お部屋へご案内いたしますね。」


「はい、お願いします。」


建物へ入っていく佐藤さんの後を追う。


オートロックの電子音が鳴り、

開いたエントランスを通って中へ入る。


エントランスを抜けると、

まだ新しい香りが残る共用廊下が続いていた。


佐藤さんが先を歩き、

左手のドアの前で立ち止まる。


「こちらが、101号室になります。」


鍵を取り出し、

静かに差し込んで回す。


カチリ、と小さくロックが外れた音が響いた。


「では、どうぞご覧ください。」


ドアがゆっくり押し開かれていく。


玄関でスリッパに履き替え、

一歩、部屋の中へ足を踏み入れた。


正面にはまっすぐ伸びる廊下。

左手にはドアがひとつ、

その先はゆるやかに明るい空間へと続いている。


((1LDKなんだね......その割には広いよね......))


((──はい。リビングは約12畳。

  キッチンスペースも平均より広めです。

  間取り全体のゆとりが確保されています。))


((めっちゃいいけど......これお高いんでしょう?......ふふ))


((──家賃は相場と大差なく......))


そこへ、佐藤さんの声が重なった。


「リビングは12畳あり、キッチンスペースも広くゆとりがあります。

 バスも1坪タイプとなっており、足を伸ばして入浴することが可能です。」


タブレットを軽く確認しながら説明を添えた。


「こちらの物件は家具家電付きでして、

 ベッド、ソファ、ローテーブル、テレビ台、

 冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ、

 それから照明やカーテンも備え付けとなっています。

 入居後すぐ生活できるような仕様です。」


「ホントに素敵な物件ですね!」


思わず声が弾んだ。

けれど——


「では、次の物件に向かいましょうか。」


佐藤さんは、

こちらの言葉が聞こえていなかったかのように、

淡々とタブレットを閉じ、そのまま次へ進む姿勢を取った。


((......えっ、聞こえてなかったのかな?))


((──可能性は高いです。))


((いや、今の距離で聞こえないことある?))


((──佐藤は、効率を優先して行動しているようです。

  本日は3件の案内があるため、

  次の作業へ早めに移行したと推測されます。))


((......そうかもね~......ゼニス、佐藤『さん』ね......ふふ))


1件目を後にして、

そのまま次の2件も案内してもらった。


どちらも新築で、

条件もほとんど同じだったけれど——


((......ヒヨリ北レジデンスだっけ?最初の物件ね。

  あそこがホントによかった気がするんだよね......))


((──はい。設備や間取りに大きな差異はありません。

  ただ、遙の反応は、

  ヒヨリ北レジデンスのほうに

  より好意的な傾向を示していました。))


((うんうん、確かにそうだと思う。))


((──ヒヨリ北レジデンスに決めますか?))


((......だね!決めちゃおうか!))


3件目を退出し、建物を出ると、

佐藤さんが軽くタブレットを確認しながら口を開いた。


「では、一度サンクチュアリ27へ戻りましょう。

 お手続きのご案内をいたします。」


((おぉ......もう決める流れになってる......ふふ))


((──はい。そういう段階です。))


((だよね〜、じゃあ戻ろっか。))


「はい、お願いします。」


歩きながら、

胸の奥がじんわりとあたたかくなる。


新しい生活が始まるかもしれない——

そんな予感が、

静かに、でも確かに広がっていく。


サンクチュアリ27に戻ると、

受付の女性が軽く会釈し迎えてくれた。


「お戻りですね。どうぞこちらへ。」


案内された席に腰を下ろすと、

佐藤さんがタブレットと書類をまとめて持ってきた。


「では、先ほどご覧いただいた物件のご説明をさせていただきます。」


((手際がいいな佐藤さん......ふふ))


((──はい。))


「よろしくお願いします。」


佐藤さんはタブレットを操作しながら話を続けた。


「3件とも新築で条件は似ておりますが、

 いかがなさいますか?」


「ヒヨリ北レジデンスがいいと思ってます。」


「ヒヨリ北レジデンスですね。承知いたしました。

 では、手続きを始めてもよろしいでしょうか?」


((おぉ......考える時間とかないんだね......ふふふ))


((──はい。佐藤は効率重視の傾向があり、

  手続きを早めに進める判断をしたと推測されます。))


((佐藤『さん』ね......))


「はい、お願いします。」


「では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。」


書類が静かに差し出される。

目を通した瞬間、手が止まった。


((ねぇ......名前と希望入居日しか記載するとこないんだけど......いいのかな?))


((──はい。サンクチュアリ27では、この形式が採用されています。

  必要最低限の情報のみで手続きが完了します。))


((最低限すぎない!?))


佐藤さんは淡々と説明を添える。


「お名前と入居希望日だけご記入いただければ大丈夫です。」


((......普通って、住所とか勤務先とか必要だよね......!?))


((──はい。一般的にはそのような情報が必要ですが、

  サンクチュアリ27では必要ないということです。))


((まぁ......勤務先とか住所もわかんないから、ありがたいけどさ~......))


とりあえず......名前と、1週間後の日付で入居希望日を記載し、

佐藤さんへと渡す。


「確認いたしました。問題ございません。では手続きを進めますね。」


((早っ!?))


((──佐藤は処理速度が安定しています。))


((佐藤『さん』ね......))


佐藤さんはタブレットを再び操作し、

数秒だけ画面を確認するとスッと顔を上げた。


「では、明日からご入居いただけます。」


((えっ......そんなすぐ!?))


((──はい。サンクチュアリ27では、即日対応が標準仕様です。))


((サンクチュアリ27......すごいね......))


「わかりました、ありがとうございます。」


佐藤さんは軽く頷き、静かに書類を整えた。


「それでは、明日の午前中にこちらへお越しください。

 鍵と、入居に関する簡単なご説明をいたします。」


((ホント......怖いくらいとんとん拍子で決まったね......ふふ))


((──サンクチュアリ27のシステムが優れている証拠です。))


((すごい、不動産屋さんだね、サンクチュアリ27......))


((──はい。))


「明日の午前中ですね、よろしくお願いします。」


そう言って席を立ち、

サンクチュアリ27を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ