第29話:新しい場所を求めて①
「......んっ......ん〜、ふわぁ~よく寝たぁ......」
カーテン越しの柔らかい光が、
ホテルの部屋を静かに照らしている。
視界の端にはゼニスの淡い光が浮かび、
いつもの一定リズムでゆるく揺れていた。
((──おはようございます、遙。
本日も体調は安定しています。))
「おはようゼニス!今日は物件見に行く感じだね〜!」
胸の奥が、
じわっと熱を帯びる。
((──はい。))
「ん〜、じゃあ支度しよっか!」
掛け布団をぱさっと押しのけ、
軽く伸びをしながらベッドから降りる。
そのままシャワールームへ向かい、
サッと温かいシャワーを浴びた。
すっきりしたところで、
昨日買ったワンピースに袖を通し、
サンダルも合わせてみた。
「よし、準備OK〜!」
((──準備完了を確認しました。))
「毎回確認するよね〜、ふふふ」
((──はい。遥の状態確認は重要事項です。))
「はいはい、頼りにしてますよ〜ゼニスさん♪」
((──では、該当不動産業者へ向かいましょう。))
「OK〜!じゃあ行こっか!」
エレベーターを降り、
ロビーへと歩いていく。
外へ出ると、
景色はいつも通りで、
なにも変わらない。
「不動産屋さんは、ひより駅の方なのかな?」
((......おっと、外だったね......ふふ))
((──はい。ひより駅方面に向かいましょう。))
((どの辺なのかな?))
((──ひより駅北口方面です。))
((なるほど~、あっちなんだね。))
外へ出て、ひより駅へ向かって歩き始める。
道沿いを進むと、右手に《おしゃれセンターしもむら》があって、
そのまま通りすぎると、正面には駅ビル《ヒヨリナ》が見える。
駅ビル前の、ひらけた広場を横切り、
そのまま入口へ。
南口から北口へと抜ける通路を、まっすぐ歩いていく。
北口に出ると、南口より小さな広場があり、
その向こうに、不動産屋の看板が見えた。
((あの黄色い看板のことかな?《サンクチュアリ27》かぁ……
なんかおしゃれな感じの不動産屋さんだね~。))
((──はい。《サンクチュアリ27》が該当不動産業者です。))
((じゃ〜入ってみようか。))
入口の前に立つと、
静かな電子音とともに、すっと自動ドアが開いた。
店内は明るくて、木目調のカウンターが正面に見える。
落ち着いた雰囲気があり、
外のざわつきとは少し違う静けさがあった。
「いらっしゃいませ!」
受付の女性が笑顔で声をかけてくる。
まさにテンプレート通り......
((どの店も同じなんだよな~......ホント録音みたい......))
そんな風に感じるのにも慣れて、
気にはならなくなってきている。
「すみません、物件を見たいんですけど......」
受付の女性に声をかけた。
「物件はお決まりでしたか?」
「はい、気になっているのがありまして......」
((ゼニス、なんて物件なの?))
((──候補物件は、
《ヒヨリ北レジデンス101》、
《コモレビテラス204》、
《ステラハウスA-3》の3件です。))
「えっと、ヒヨリ北レジデンス101と、
コモレビテラス204と、ステラハウスA-3の3件なんですけど......」
受付の女性は軽く頷き、やわらかく微笑んだ。
「かしこまりました。すぐ担当の者をご案内いたしますね。」
そう言うと、奥へ向かって声をかけた。
奥から足音が近づいてきて、
スーツ姿の男性が姿を見せた。
「お待たせしました。《サンクチュアリ27》の佐藤と申します。」
担当者の男性は名乗りながら、
にこやかに会釈をしてくる。
「ご希望の物件を案内させていただきますね。」
((──担当者は佐藤というようです。))
((いやいや、そこは佐藤『さん』でしょ......ふふ))
「はい、よろしくお願いします!」
自然と姿勢を整えながら返事をすると、
佐藤さんはタブレットを軽く操作し、確認するように画面へ視線を落とした。
「これから、すぐに内見できますが、いかがいたしますか?」
((──即時の内見が可能なようです。))
((いいね!こんなすぐ内見できるんだね~!
佐藤さんって暇なのかな?......ふふっ))
((──暇という表現は適切ではありません。
今の時間に偶然空きがあったと考える方が妥当です。))
((はいはい、冗談だよ~......真に受けないでよゼニス......ふふふ))
「はい!お願いしたいです!」
「では、準備をしてきますので、少々お待ちください。」
そう言い残して、佐藤さんは奥へと姿を消した。
((このまま即入居とかもあり得たりしてね......
そんなわけないか。))
((──可能性はあります。
本日の候補はすべて新築で、家具、家電つきの物件です。
即入居が可能な条件が揃っています。))
((ってことは......わたしが決めさえすれば、なんじゃない?))
((──はい。遙が入居の意思を示し、
手続きが完了すれば即入居が可能と推測できます。))
((おぉ〜......ホテル暮らしともお別れかもね〜......うふふ))
いつも通りゼニスと脳内会話をしていると、
準備を終えた佐藤さんが戻ってきた。
「それでは、ご案内いたしますね。」
「はい、よろしくお願いします。」
佐藤さんの後について店の外へ向かう。
自動ドアが開き、光が差し込む。
内見のわくわく感を抱えて、
物件へと向かった。




