第22話:ゼニスとはじめての外食
「そろそろ、夜ごはんどうするか考えないとだね~。」
((──はい。))
「何食べよっかな~......ゼニスは食べたいのない?」
((──わたしは食事を必要としませんが、
唐揚げは非常に良いものでした。))
「ゼニスは、唐揚げも好きっと......メモしておこう......ふふ」
((──好き......という概念ではありません。))
「はいはい~、わかってるってば。
でも、良いって言うなら好きに近いよね~?ふふっ」
ゼニスの光が、わずかに揺れた。
((──......表現としては、否定しきれません。))
「ほら~~やっぱり好きなんじゃん! かわいいな~ゼニス♪」
そんな軽い掛け合いなのに、
胸の奥がじんわりあたたかくなる。
((──遥が楽しそうだと、わたしも安定します。))
「え、なにそれ! 今の言い方ちょっとかわいい!」
ほんの一瞬、ゼニスの返答に柔らかさを感じた。
気のせい......なのかな。
「じゃ~夜ごはんは、テイクアウト? お店で食べる? どっちがいいかな?」
((──どちらでも対応可能です。
遥が快適に食事を摂れる選択を推奨します。))
「そういえば、退院してから部屋でしかご飯食べてないよね?
......ってことは、そろそろ外食するのもアリでしょ~!」
((──はい。外食行動は、
環境からの適度な刺激を得る機会にもなります。))
「つまり、オススメってことだね……ふふっ」
((──はい。推奨します。))
「そだな~、さすがに顔とか洗ってからにしよっかな......
ある意味、寝起きだしね~......えっへへ」
((──はい。最低限のマナーですね。))
「うわぁ~、マナーとか言い始めちゃったよ......」
軽く笑いながら、洗面台に向かう。
顔をぱしゃぱしゃっと洗ってタオルで拭くと、
さっきまでのぼんやり感がすっと抜けていく。
「よし!これでOKでしょ~。
ゼニス、行こっか!」
((──準備完了。))
「なんか出撃するみたいだね......あはは」
財布を手に取り、
外食にわくわくしながら、
部屋をあとにする。
外の風は少しひんやりして、
気分がすっと切り替わるようだった。
((ゼニスは、中華とか和食とか......
興味あるジャンルってないの?))
((──特に興味があるものはないですが、
遥が好むものには興味があります。))
((......唐揚げは中華かな......))
((──唐揚げですが、
中華の技法を取り入れた日本発祥の和風揚げ物として、
和食カテゴリに分類される傾向があります。))
((でた~!ゼニス辞書解説......
てか、わたし唐揚げの気分って言ってないよ!?))
((──遥のデータを分析すると、
唐揚げを選択する確率が最も高いと推測しました。))
((ふむふむ......なるほど。
わたしのデータから唐揚げを選択する確率が高いと......
よしっ!絶対に唐揚げは食べませんっ!))
((──推定確率の変動を確認しました。
しかし、唐揚げを意識しているという点では
依然として優位です。))
((きぃ~っ、それなら絶対に唐揚げがない店を選んでやる~!))
((──唐揚げがない店舗の候補も、提示可能です。))
「もう......ゼニスの手のひらで踊らされてるみたいじゃん......あはは」
思わず声に出して笑ってしまう。
((──遥。声量にご注意を。))
((ですよね~......))
肩の力が抜けて、自然と笑みがこぼれた。
((冗談はさておき、ホントどうしようかな?
う~ん、オムライスとか食べたいかも!))
((──オムライスですね。提供している店を検索します。))
((ぶらぶらしながら、探すんでもいいよゼニス。))
((──はい。では、散策しながら探しましょう。))
ぶらぶら歩きながら周囲を見渡してみると、
ふと、まばたきをしていない人がやけに多いことに気づく。
だけど——
そのほうが自然に思えてしまう。
規則正しいリズムで歩き、
一定の角度でスマホを見て、
同じタイミングで信号を渡っていく。
まるで、みんな忙しいからそうしているだけみたいに。
違和感はあるけど、
同時に『こういうものだよね』と
不思議と受け入れていた。
「みんな忙しそうだね~......」
ぼそっと声に出た。
((──はい。人の流れは効率的に最適化されています。))
((効率的に最適化とか、なんか怖いっていうか......
でも、社会ってそんなものなのかもね......))
((──はい。社会は個々の行動が集まり、
最適化される傾向を持つ集合体です。
遥の感じ方も、その一部です。))
「あ~~っ!暇なのわたしだけじゃん!」
((──遥。声量にご注意を。))
((は~い。))
((──遥は暇なのではありません。
現在、社会的タスクから一時的に離脱しているため、
周囲との行動リズムが一致しにくいだけです。))
((ありがと......ゼニス))
ゼニスの淡い光が、
わずかに明度を増したように見えた。
それは返事の代わりみたいで、
胸の奥がじんわり温かくなる。
「オッムライス! オッムライス!」
思わずリズムにのって口に出してしまい、
自分でハッとする。
((ごめん、声量に注意でした。ふふ))
((──はい。))
その返事に合わせて、
ゼニスの淡い光が、
まるで呆れているみたいに
ほんの少しだけ揺れた。
ぶらぶら歩いているうちに、
どこをどう進んできたのか、よく覚えていない。
気づくと食堂の前にいた。
目の前のショーケースには、
オムライスの食品サンプルが並んでいる。
((オムライスじゃん!))
((──はい。ここにしますか?))
((ひかり食堂だって......はじめて見たかも......))
((──検索にもヒットしないようです。))
((へぇ......隠れた名店的な感じかな?))
((──可能性はあります。))
((もしかして、食堂って唐揚げあるんじゃ……))
((──可能性はさらに高まりました。))
「オムライスと唐揚げだね......夜ご飯は......ふふふ」
そうつぶやきながら、
ひかり食堂と書かれた暖簾をそっとくぐり、
店内へと入る。
どこか懐かしい空気の漂う、
昔ながらの老舗食堂といった趣だった。
長年使い古された感のある、
木のテーブルと椅子が整然と並ぶ。
しかし、
それらには汚れや傷がなく、
長年この場所で営んできた店内とは思えない。
古いはずなのに新品のような――
そんな不思議な食堂だった。




