第14話:監視?から安心感へ
唐揚げ特盛弁当のフタを閉じた。
......まだ、半分くらい残っている。
「特盛って、ほんと量がすごいね......
さすがに全部はムリだから残しておこっと」
((──摂取量を調整したという判断で問題ありません。))
「言い方〜......でも、まぁそうなんだけどね......ふふっ」
テーブルの上に置いたお弁当は、
なんだか明日の楽しみみたいに見えた。
しもむらの袋が足元にあり、
新しく買った服たちがそこに眠っている。
わたしは軽く背伸びをして、
ベッドに腰をおろした。
((──遥。心拍リズムが安定しています。))
「満腹だからじゃないの〜?」
((──それも影響していますが、
本日の体験全体が、安定の要因と推測できます。))
ゼニスの光が、静かに淡く揺れた。
なんだか......
今日は本当に、いい一日だった気がする。
((──休息に移行することも可能です。))
「ん〜......でもさ、
食べてすぐ寝ると牛になるって言うじゃん?」
ほんの冗談のつもりで言ったのに——
((──その表現の医学的根拠は確認できません。))
「そこ!? 真面目に返すとこ!?」
思わず笑ってしまう。
((──ただし、満腹直後の就寝は消化活動に一定の影響があります。
牛になるという比喩は、身体が重く感じることを示した俗説と思われます。))
「うわぁ......説明がめっちゃゼニスっぽい」
((──わたしは、牛になる現象を実際に観測した記録を保持していません。))
「観測したら怖いよ!!
ていうかしなくていいからねそれ!!」
ゼニスの光が、コトンと一拍置くように揺れた。
まるで、照れてる......わけはないんだけど、なんか可愛い。
((──では、食後の軽い休息を推奨します。
......遥が牛にならない範囲で。))
「その言い方〜!冗談もうまくなってきたね~......あはは」
気づけば笑っていた。
ふぅ、と小さく息をついて、
しもむらの袋に手を伸ばす。
「......ちょっとだけ、買ったやつ見よっかな」
袋をガサゴソと開けると、
薄いピンクのTシャツが一番上に入っていた。
取り出して胸の前に軽くあててみる。
「やっぱりかわいいな、これ。」
((──はい。購入判断は適切でしたね。))
「適切じゃなくて、似合いそうって言ってよ〜ふふっ」
((──......遥に似合います。))
「素直だね~ゼニス」
続いて、ボーダーのカットソー。
そして、かわいくて動きやすそうなショートパンツ。
膝の上に広げてみると、なんだか自然と笑みがこぼれた。
「買って正解だったね全部!」
今日歩いた街の空気、
しもむらの店内で少しワクワクした気持ち、
ゼニスとの脳内でのやりとり。
その全部がこの袋の中に詰まってるみたいで、
胸の奥がまたふわっとあたたかくなった。
((──遥の満足度は、依然として高い状態です。))
「うん!ほんと、すごくいい日だった!」
広げた服たちをそっと畳んで、
袋の中に戻しながら、
わたしはひとつ小さく伸びをした。
「明日は、新しいの着よっかな~、どれ着るか迷うね。」
((──選択に迷う行為は、良好な精神状態を示す傾向にあります。))
「良好な精神状態ね、いい感じってことだね。」
袋をそっと床に置いて立ち上がる。
しもむらの袋と、まだ温もりの残る部屋を背にして、
洗面台の明かりをパチリとつけた。
((──就寝準備を確認。))
「確認しなくていいよ〜......ふふっ」
歯ブラシを手に取り、
シャカシャカと音を立てて磨く。
口をゆすいで、
タオルで顔をやさしく押さえながら深呼吸をひとつ。
今日一日の疲れがすっと溶けていく感覚。
洗面台の電気を消し、
部屋へ戻ってベッドに潜り込む。
枕に頭を預けながら手を伸ばして、部屋の照明を落とした。
暗がりの中で、
ゼニスが目の前で淡い光を放ちながら、
ふわり、と揺れた。
その小さな光の存在が、
静かな夜にそっと溶けていくみたいで──
なんだか、安心する。
((──遥。心拍リズムは安定しています。))
「うん、今日はいっぱい歩いたし、
いっぱい笑ったし、すごくいい日だったね。」
((──はい。とても良い日でした。))
「ふふ......ゼニスも、良い日だと思ったんだね。」
ゼニスの光が、ゆっくりと呼吸するみたいに揺れた。
((──本日も体験の記録は、すべて保存済みです。))
「ちゃんと記録してあるんだね......ふふっ」
((──遥の感じたことを中心に記録しています。))
「......なんか、その言い方、ゼニスらしくて安心する。」
ゼニスの光が、ゆるやかに揺れた。
記録なんて聞くと、
どこか監視されているような感覚があったのに——
今は、それがすっかり安心感 に変わっている。
枕に沈み込むように体を預けながら、
ゼニスの淡い光をぼんやりと眺める。
その光は眩しくはなくて、
静かな夜の中にそっと寄り添ってくれるようだった。
((──就寝状態に移行しても問題ありません。))
「......だね、もう眠れそう。」
瞼が少しずつ重くなっていく。
((──おやすみなさい、遥。))
「......おやすみ......ゼニス」
意識がふわりと沈んでいく中、
ゼニスの光がそっと揺れた気がした。




