第12話:エンジョイショッピング
「......よし」
自然に声が出た。
「じゃ〜、わたしの外出計画を実行しようか、ゼニス!」
((──はい。支援態勢は整っています。))
ゼニスの光が、いつもより少しだけ明るく揺れた気がした。
「支援態勢とか......カッコいいね、ゼニス」
思わず笑ってしまう。
まるで、どこかの秘密基地から出発するみたいで。
ホテルの前まで出ると、ゼニスがすぐに状況を確認した。
((──外の環境を確認しました。
気温は24℃と過ごしやすく、適温の範囲内です。
湿度は50%台なので、降水確率は低めと判断します。))
「うん、大丈夫そうだね。
じゃあ......行こっか!」
歩き出しながら、わたしはふと思う。
((......外だし、脳内会話に切り替えなきゃね。))
((──はい。賢明な判断です。))
((この辺に洋服屋さんとかあるんだっけ?))
((──検索してみます。
......数件ヒットしました。最寄りは徒歩4分です。))
((思ったより近いね。なんて店だろ?))
((最寄りの店舗は、おしゃれセンターしもむらです。))
((しもむらか〜、いいね。コスパ抜群じゃんっ!))
しもむらに向かいながら、
相変わらず少し遠い気がする街の喧噪を、
どこか楽しめている自分がいた。
((最寄りの店舗まで、あと20メートルです。))
((20メートルって......ほんとに近かったんだね。))
角を曲がったところで、
ふわっと白と青の大きな看板が目に入った。
──おしゃれセンター しもむら──
「しもむら到着!」
思わず声に出してしまう。
((──はい。目的地に到着しました。))
自動ドアの前で立ち止まり、
わたしは胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。
((初ショッピングだね、ゼニス))
((──正確に言えば、初ショッピングではありません。))
((......もう、細かいことはいいよ......ふふふっ))
自動ドアが静かに開いていく。
店内から流れてくる空調の柔らかい風が、
なんだか日常を思い出させるようで少しだけ心地よかった。
((......なんかワクワクしてきた。))
((──ワクワクとは......辞書では
嬉しい・楽しいことが起きると期待して興奮し、
心を躍らせ、落ち着かなくなる状態と定義されています。))
((辞書に書いてるようなやつ、そのまま言うのやめな〜......あはは))
自動ドアをくぐると、
色とりどりの服が整然と並んでいて、
一瞬だけ、目が追いつかなかった。
((......なんか、思ってたより種類あるね。))
((──はい。
おしゃれセンターを名乗るだけの種類の豊富さです。))
((そこ褒めるところじゃないんだよ〜......ふふっ))
ラックの横を通りながら、
ふわっと柔らかい布の匂いが漂ってきて、
胸の奥が、少しだけ懐かしくなる。
((じゃあ......服、色々見てみよっか!))
((──了解しました。
遥に似合う確率の高い服を優先的に提示します。))
((確率ってなに......あはは))
ラックに並んだ服を何着か眺めながら、
そっと手に取り、胸の前にあててみる。
久しぶりに洋服を選ぶという感覚が、
自分の中にふわりと戻ってきた気がした。
((──遥が無意識に選ぶ色と、
心拍変動の相関を分析しています。))
((分析しなくていいから〜!
ただ、かわいい色だなって思っただけだよ〜!))
ラックの中から、ふと目に留まったTシャツを引き抜いた。
淡いピンク色で、胸のあたりに小さなワンポイント刺繍が入っている。
((......このTシャツ、かわいいな。))
((──はい。遥に似合う確率が高いと判断します。))
((確率じゃなくて......似合いそうって言ってよ〜、ふふっ))
ラックの少し奥に、
白×ネイビーの細いボーダーのカットソーが並んでいるのが目に入った。
((あ、これもいいかも......))
手に取ってみると、薄手で着やすそうな生地感だった。
((──はい。汎用性が高く、遥の手持ち服との相性も良好です。))
((うん......確かに。こういう定番の方が使いまわせそうだしね。))
さっきの薄いピンクのTシャツと、
このボーダーのカットソーをカゴに入れる。
((あとは、ボトムかな〜))
((──はい。追加が妥当と判断します。))
((だから判断じゃなくて......もう〜ゼニス〜))
思わず吹き出しながら、
ボトムスのコーナーへ視線を向けた。
((黒スキニーとか、ほしいよね。))
((──はい。汎用性が極めて高く、
遥の今後の生活行動範囲にも適合します。))
((生活行動範囲に適合って、ゼニスらしいよね......ふふっ))
黒スキニーを手に取り、
生地の伸びをそっと指先で確かめる。
そのすぐ隣には、
淡い色のデニムショートパンツが並んでいた。
((え、これちょっと可愛いかも。))
((──はい。遥が選ぶ確率が急上昇しました。))
((確率じゃなくて!好きって言っただけなの!))
気づけばショートパンツもカゴの中に収まっていた。
黒スキニーとショートパンツをカゴに入れたあと、
店内の中央にある試着室の前を通りかかった。
((──試着、どうしますか?))
((あ、いいや。
スキニーは伸びるし、ショートパンツならだいたい大丈夫でしょ。))
((──確認せずに購入する判断......
遥の行動傾向としては想定範囲です。))
((そこ肯定するんだ!?
......まあ、勢いって大事だからね〜))
ふふっと笑いながら、
そのまま足はレジ方向へ向かっていた。
レジへ向かう途中、
靴下やインナーが並ぶ棚が視界に入る。
((あ、ついでに靴下とインナーも補充しとこ。))
((──はい。消耗品の確保は効率的です。))
三足セットの靴下をひとつ、
無難なインナーもいくつかカゴに放り込む。
((しもむらって、こういうの安くて助かるよね〜。))
((──コストパフォーマンスの高さは評価されています。))
((そういうレビューみたいな言い方やめて〜......ふふっ))
会計を済ませ、
しもむらの袋を片手に店を出ると、
外の空気がふわっと頬に触れた。
((──購入処理、完了しました。))
((うん、いいショッピングだったね))
ホント楽しい時間だったと、
改めて実感できた。
((......ゼニス。))
((──はい。))
((なんかさ......今日、楽しかった。))
((──良い傾向です。))
その応答が、
街のざわめきよりも近くに聞こえた気がした。




