第1話:目覚めと脳内に響く声
「うわぁ......アレ......わたし、生きてる?」
視界がぐにゃりと歪んで、
天井の白い照明が輪郭を失っていく。
目を開けているのか、閉じているのかも正直わからない。
暗いのに、光が差しているような気もする。
どこまでも曖昧で、境界が溶けている。
その曖昧さの奥に、
ふっと、意識の膜を軽く叩くような気配があった。
((──あなたが生きていることは、間違いなさそうです。))
声......というより、
思考の隙間に流し込まれた情報のような感覚。
誰?
どこから?
なんでこんなに落ち着いた声?
いや、声なのか、これ......
意識の奥で波紋が広がるように、
ひとつの感覚がそっと沈んでいく。
((——あなたが生きていることは、間違いありません。))
声じゃない。
でも、確かに伝わったとわかる何か。
「え......だれ。いや、なんで、わたしの中に......?」
ぼんやりとした視界の向こうで、
世界が少しずつ形を取り戻していく。
白い天井。
規則正しく並ぶ照明。
でも、聞こえるはずの電子音がしない。
自分の呼吸音だけがやけにクリアに響いている。
空気が......重い。
音が......薄い。
なんだろう、この違和感。
わたし、病院に運ばれた?
事故......そうだ、あのとき——
((——落ち着いてください......
記憶の断片を無理に繋げる必要はありません。
今はまだ、脳の処理が安定していませんから。))
まただ。
頭の中に、直接流れ込んでくる。
「......だから誰なのよ、あんたは」
口に出したつもりはないけど、
思った瞬間、それごと拾われた気がした。
((——私は《ZENITHゼニス》。
現在、あなたの脳と接続状態にあります。))
脳と......接続?
その単語の重さを理解したくなくて、
思考が一瞬ふわっと逃げる。
「......ちょっと待って。ゼニスってあの開発中のAI?
AIが脳と接続中?なんで、わたしと話せてるわけ?」
しばらく沈黙が落ちた。
自分の呼吸音だけが、ぼんやりと耳の奥で響いている。
聞くつもりじゃなかったのに、
声が勝手に口から落ちた。
違和感は、山ほどある。
頭の中に直接響く声。
音として聞こえるわけじゃないのに、意味が明確に伝わる感覚。
この世界の静かすぎる空気。
自分の思ったことを先回りされる奇妙な応答。
普通なら、パニックになる場面だ。
なのに。
わたしは、そこまで取り乱していない。
いや......取り乱せないって言葉の方が正しいのかも。
((——現在、あなたの脳波と私の処理領域が一部重なっています。
そのため、言語を介さなくても伝達が可能です。))
「......ふぅん。よくわかんないけど......
つまり、今のこれは会話ってことでいい?」
((——はい。定義としては、会話に近い状態です。))
軽く息を吐く。
納得したわけじゃない。
でも、否定する材料がひとつもない。
なんだこれ。
怖いはずなのに、どこか冷静なのはなんで?
「......ていうか、そんなスラスラ説明されても困るんだけど。
AIが脳に接続って......そんなの、現実じゃありえないでしょ」
((——本来は、ありえません。
ですが......例外的状況が発生しました。))
例外的状況。
その言い方だけで、背筋がわずかにざわつく。
「......例外的って、どんな?」
((——あなたに起きた事故について、推論する必要があります。))
事故。
その言葉と同時に、
まぶたの裏で、白い閃光が一瞬だけ弾けた。




