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陽キャアイドルの幼なじみの秘密を陰キャオタクの俺だけが知っている件について  作者: 水沢紗奈
Stage.1 再会と新しい始まり

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Voice.6 まだ行きたいところたくさんあるんだよ

「私、声優になりたいんだ」

「え!?」


 篠原の言葉に、オレは思わず声をあげた。

 すると、篠原はマイクのスイッチを切る。


「そんなに驚いた?」

「まさかそういう話されるとは思ってなかったから……自分の夢言うのってけっこう勇気いるだろ? それをオレに話してくれるなんて思わなくて……」


 それからマイクをテーブルに置いて、ソファーに座った。


「それはたっくんだからだよ。たっくんのおかげで夢ができたんだもん」

「オレのおかげ?」


 オレは首をかしげる。

 夢ができたきっかけを作ったくらいじゃここまで話してくれない気がした。

 そんなオレの反応を見て、篠原はうつむく。

 そして、ゆっくりと話し始めた。


「私、小さい頃から周りの反応ばっかり気にしてたんだよね。家族にも友達にも嫌われたくなくて、お父さんとお母さんが仕事で忙しくてもわがまま言えなくて、たとえば周りの友達に『一緒にピアノ習おうよ』って誘われればそうしたし、いろんな習い事に通ったりした」


 たしかに幼稚園の時、篠原とは遊ぶ時間があんまりなかった気がする。

 マンガ読んだりアニメ観たりしてたオレとは正反対だ。

 篠原は続ける。


「学校だけじゃなくていろいろなところ行ったおかげで友達はたくさんできたし、ピアノとか運動とか、できるようになったことはたくさんあるんだけど、できるようになったことで本当に好きだって思うことはなかったんだ」


 そんなふうに今まであったことを話す篠原の声は、オレに暗い顔をさせたくないのか、いつもより明るく聞こえた。

 篠原は続ける。


「でも、中1の時たっくんのおかげで真奈ちゃんのファンになって、初めて自分が本当に好きだって思うことが見つかって、声優になるっていう夢ができたの」


 そして、篠原はオレの目を見て言った。


「だから私、たっくんには感謝してるんだ」

「そっか。話してくれて嬉しいよ」

「っていうか、ロシアン当たったから断れないしね」


 篠原はさっきのオレの言葉の真似をする。

 そして、続けた。


「中学の時は演劇部なかったから軽音楽部でキーボード弾いてたんだけど、高校は演技の勉強するために演劇部に入ろうと思ってるんだ」

「オレは中学の時美術部だったから高校も美術部にする」

「部活楽しみだね」


 篠原はそう言って、タブレットで次の曲を予約してから立ち上がる。

 そして、テレビの横に立ってマイクのスイッチを入れてから、言った。


「じゃあ……次が最後の曲です!」

「ええー! まだ来たばっかりー!」

「私も終わりたくないよー!」


 柚木真奈さんのセットリスト再現カラオケの続きだ。

 それから、最後の曲の後のアンコールまで全部再現して、カラオケの部屋を出る時間が来た。

 部屋を出て、ロビーの受付で会計をする。


「あ!」


 そして、2人で帰ろうとした時、篠原が制服のスカートのポケットからハンカチを落とした。

 すると、それをちょうど店に入ってきた女子が拾う。

 そして、篠原のほうに歩み寄ってきた。


「これ、あなたの?」


 女子はそう言って、篠原にハンカチを差し出す。

 篠原はそれを申し訳なさそうに受け取った。


「はい! ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 女子はそう言うと、カラオケの受付をして部屋に入っていった。


「篠原、大丈夫?」

「うん、大丈夫! ごめんね」


 そして、カラオケ店を出て電車に乗る。

 駅に着く頃には、外はもう暗くなっていた。

 家に帰る道を歩きながら、隣に居る篠原を見る。

 篠原はとても嬉しそうな顔をしていた。

 なんかあっという間だったな。


「今日すっごく楽しかった! 池袋1日じゃまわりきれないよ」

「けっこう遊んだと思うけど」

「まだ行きたいところたくさんあるんだよ。アニメのコラボカフェとか原画展とか」

「そっか。オレでよかったらいつでもつき合――」


 あれ?

 これ全部言ったら告白だと思われるんじゃ――。


「たっくん、どうかした?」


 篠原は首をかしげる。

 顔が熱くなって、オレはあわてて今思ったことをごまかした。


「な、なんでもない」

「そう? 顔赤いけど」

「気のせいだよ気のせい」

「そっか」

「とにかく、オレでよかったらいつでも誘って」

「ありがとう」


 すると、篠原は自分の家の前に行く。

 そして、振り返ってからオレを見て、言った。


「また2人で遊ぼうね!」


 そう言った篠原の笑顔に、オレは思わず見とれてしまう。


「……ああ」


 そのせいで、こんな返事しかできなかった。

 そして、オレは篠原を見送ってから家に入る。

 私服に着替えてから家族と夜ごはんを食べて、自分の部屋に入った。

 ベッドに寝転がって、スマートフォンを操作する。

 ラインを開くと、篠原がラインのアルバムに写真を追加してくれていた。

 篠原が今日撮った池袋のいろんな場所の写真を眺めながら、さっきの篠原の笑顔を思い出す。


「うわっ」


 すると、オレとメガネと文豪のグループラインに通知が届いて驚いた。

 開くと、メガネからのラインが表示される。

 そこには、こう書かれていた。


「2人とも、オレ達3人で部活作ろうぜ!」

「ゲーム制作部!」

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