Voice.5 私のもう1つの秘密、教えてあげる
俺と篠原は食べものを注文して待っているあいだ、柚木真奈さんのライブのセットリストの曲順でカラオケを歌う。
ちょうど半分くらい歌い終わった時、女性の店員がノックをして入ってきた。
立っていたので、2人でソファーに座る。
「失礼します。フライドポテトとハニートーストとロシアンたこ焼きです」
「ありがとうございます」
2人でお礼を言うと、店員はテーブルに俺達が頼んだものを置いた。
店員は説明する。
「こちらのロシアンたこ焼き、普通のロシアンたこ焼きとは少々変わったものでして、当たりが入っている個数はランダムになっております」
「そ、そうなんですか?」
俺が聞くと、店員は清々しい笑顔で答えた。
「はい。ちなみに当たりが入っている数を知っているのはキッチンのスタッフだけなので、私達ホールスタッフはわかりません」
もしかしたら俺達はとんでもないものを頼んでしまったのかもしれない。
店員がドアを閉めた後、2人で頼んだ食べものを眺める。
フライドポテトにハニートーストにロシアンたこ焼き、どれも盛りつけがおしゃれでおいしそうだ。
篠原が言った。
「おいしそうー! ねえ、SNSに上げる写真撮っていい?」
「いいよ」
「ありがとう」
俺がうなずくと、篠原はすぐにスマートフォンを取り出して何枚か食べものの写真を撮る。
ロシアンたこ焼きを見て顔をひきつらせた。
「……ロシアンたこ焼きも見た目はおいしそうだね」
どれくらい辛いのかわからないから、2人で苦笑いする。
俺は言葉を詰まらせながら提案した。
「と、とりあえずロシアンたこ焼きは最後に食べようか」
「うん。そうだね。そうしよう」
途中で歌を挟んだりアニメ映像を観たりしながら2人で頼んだ食べものを食べて、ロシアンたこ焼きが最後に残った。
俺は篠原に聞く。
「当たったらどうする? カラオケだからすごく難しい歌を歌う、とか?」
「それだとなんか普通じゃない?」
篠原は考える仕草をしてから言った。
「あ! こういうのは? 当たった人は当たらなかった人のお願いを聞く、っていうの」
「内容によってはすごく恥ずかしい思いするやつだな。でもおもしろそう」
2人でドリンクバーに行って、水を持ってきてからソファーに座る。
たこ焼きは全部で6個だから、2人で割って3回食べることになる。
ただし、当たりが入っている数はランダムで、全部食べ終わるまでそれはわからない。
俺と篠原は息をのむ。
「せーの」
2人同時にたこ焼きを口に運んだ。
噛むとたこ焼きの生地がいい具合にカリッとしてて、中身はトロッとして――。
「めちゃくちゃ辛い!」
――1個目で俺が当たった。
一番ヤバい時間差攻撃系の一味の辛さだ。
すぐにグラスを取って水を飲み干して、息をついた。
辛さに悶えている俺を見て、篠原は声をあげて笑っている。
「たっくん罰ゲームね」
「……わかってるよ」
俺は篠原のほうに向き直った。
自然と距離が近くなる。
胸の鼓動が高鳴って、篠原の顔がうまく見られない。
しばらくした後、篠原は言った。
「私のお願いは……今度やる真奈ちゃんのライブのチケット取るの手伝って!」
「……え?」
俺は思わず聞き返す。
「今度のライブ会場たまアリでしょ? 絶対ファンクラブ先行の倍率高いと思うんだよね」
「まあそうだな……。この前発表されたさいたまスーパーアリーナのライブはツアーじゃなくて2日間だけだから……」
「だからお願い! 真奈ちゃんのライブは絶対行きたいの! 私と連番して!」
篠原は胸の前で手を合わせて言った。
俺はいつも1人でライブに行くから、チケットを取る時は単番だけど、篠原のお願いだし……。
しばらく考えた後、言う。
「いいよ。連番しても」
俺の答えに、篠原は今までで一番の笑顔を見せて、声をあげた。
「たっくんありがとう!」
「っていうか、ロシアン当たったから断れないし。ほら、次食べよう」
篠原に言われて、2人で2個目を食べた。
両方とも普通のおいしいたこ焼きだった。
続けて3個目を食べる。
最後も普通のたこ焼きだ、と思った瞬間。
「辛ーい!」
今度は篠原が当たった。
辛さに耐えられないらしく、立ち上がって部屋の中を歩きまわってから、グラスを取って水を飲み干した。
俺は笑みを浮かべながら言う。
「篠原罰ゲームな」
「はいはい。なんでもお願い聞きますよー」
ちょっと怒ってる顔初めて見たな。
俺はしばらく考えてから、言った。
「篠原がまだ誰にも言ってないこと教えて」
篠原は目をみはる。
その後、顔を赤らめて恥ずかしそうに笑った。
「難しいお願いだなー……」
篠原はマイクを持って、テレビの横に立つ。
「じゃあ、たっくんだけに話すね。私のもう1つの秘密、教えてあげる」
「うん」
「昨日私が『私はたっくんに感謝してるんだ』って言ったでしょ?」
「うん」
「あの日、真奈ちゃんのライブに行って、たっくんにライトもらった日にね、夢ができたの」
そう言ってマイクのスイッチを入れると、笑顔でマイクに向かって声を出した。
「私、声優になりたいんだ」




