第5話 まさかのSSレア!【スキル】ウェポン・ウィスパラー(武器にささやく者)
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舞矢は、自分で言いながら耳を疑った。武器庫の奥の暗がりから声が聞こえたのだ。
「ジャクセルは聞こえなかったの? 子どもの声が……」
彼は顔を小さく振った。
「耳は、お前らサピエンスより自信あるけどな」
「……いや、でも本当に、あっちのほうから、男の子の声がしたんですよ」
そう舞矢が指差した暗がりに、ジャクセルは、耳と顔を向けた。
「いや。呼吸音も聞こえないぞ」
舞矢は、首をひねった。
「おかしいな。子どもっぽい声で、こっちこっちー、って聞こえたんですけど」
ジャクセルは、そんなわけがないと言いながらも耳を動かし、鼻を高く掲げて、今度は武器庫全体へ気配をチェックした。
「気のせいだろ」
そう言うと耳の付け根を掻いた。
「とりあえず何か武器は選べ。腹が空いてるうちに訓練所を使うぞ。メシ食ったあとじゃ吐くかもしれねえ」
「吐く? そんなにハードなんですか……?」
さらに気が重くなってきた舞矢は、仕方なさそうに短刀に手をかけかけたが、そこでまた男の子の声を聞いた
「また聞こえましたけど」
倉庫の奥へと再度、顔を向ける。
ジャクセルは、もう耳すら動かさずに言った。
「誰もいねえっての。それとも何か。オメーは霊でも見えるのか」
「いや、本当なんですってば、こっちだよって。あー! もういいですよ。わたし見てきますから」
舞矢は、暗がりになっている奥へと足を向けた。
ジャクセルも、面倒くさそうな顔でついてきた。
「なんだか知らねーが、深入りして変なモンに魅入られても知らねーぜ。ここにある武器は、どれもそれなりに血を吸ってんだ」
「ジャクセルはユーレイとか信じるほうなんだ」
「信じるっていうか、こえーじゃん普通に」
奥には、木箱の中、見慣れた和弓のシルエットがあった。舞矢は駆け寄って、ジャクセルは壁のスイッチを押し、天井の灯りをともした。
「これって……和弓?」
舞矢が振り向くと、ジャクセルも長弓を一瞥した。
「のようだが、そこは廃棄品を入れておく木箱さ。ギャングから押収したんだが、そんなバカでけぇ長弓なんか誰も使わねぇからな」
ポケットに手を突っ込んで、彼はこうも言った。
「この街には路地が多い。弓なら小さくて取り回しが効く複合弓が主流だ。矢も短くて多く持てる。速射も効く。おれたちは軍隊じゃないからな。長距離の射ち合いは流行らねえってことだな」
舞矢は、それでも、この美しい和弓を見ていた。
「……じゃあ、なぜ、街のギャングがそんなものを?」
ジャクセルは、舌を折り曲げてあくびをした。
「頭目のヤローの趣味さ。飾りにしちゃエキゾチックで上等だ。さっきの蒔絵の短刀もそうだが……」
そう言いながらジャクセルは、同じ木箱の中からフライパンを取り、ひらひらと舞矢に見せつけた。
「お前さんは気が強そうだから、こんなんでもいいんじゃないか?」
「なんで……そんなものが武器庫にあるの」
舞矢は、その調理器具を押しのけて、和弓を木箱から引っぱり出した。
ジャクセルはフライパンで自分の肩を叩く。
「MRPDは貧乏だからね。装備のほとんどは押収品のリサイクルなのさ。だからこのフライパンも、どこかで誰かの頭をミンチにしたんだろうな」
舞矢は小さくため息をついた。
「やっぱ、やっていけそうにないな。ハンバーグ作れなくなりそう」
そう言いながら舞矢は、長大な和弓を手に、弦の張り具合を確認した。
弦はホコリを散らしたが、弓束は、舞矢の右手に吸い付くようになじむ。
少しだけ、舞矢の口角が上がった。
けれど、ジャクセルは壁にもたれたまま「それがいいよ」と言った。
「課長になんと口説かれたか知らねえが、とりあえず今日の一日を生き延びて、退勤前に話すといい」
壁にもたれて、そう言った彼はしばらく舞矢の横顔を見て、それから目をそらした。
何かを思い出したような顔──と舞矢には見えた。
けれども、舞矢は口を尖らせた。
「なんですか。そんなに前髪、おかしいですか」
ジャクセルは腕を組んだ。
「そうでもないぜ。似合ってる」
舞矢は、たしかにそうかも知れないと思いながら、眉毛とまぶたの中間で揃った前髪に触れてから、気を散り直すようにして、見知らぬ異世界で思いがけず出会った同胞──和弓のホコリを拭った。
その手つきは、慣れている。
弦の張り具合を調べ、弓のくびれを、目で愛おしい気持ちでなぞる。
明日は署に来ないかも知れない。そんな憎まれ口を言っているわりに、弓を手にしていると、その気持ちが晴れてくる。
舞矢は、笑顔でジャクセルに振り向いた。
「わたし、これにします」
ただ、問題は弓の強さだった。ジャクセルは興味なさげにあくびをした。
「構わねえけど、女のお前に引けんのか。そいつは古いもんだぜ」
言われて舞矢は、巻藁を射るように壁に向かって、高く掲げた位置から試しに弓を引こうとしたが、
「むうっ……」
弦にかけた指先は微動だにしない。まるで盤石の張力。ジャクセルが冷笑した。
「ほら見たことか。引けねえんじゃ持ってく意味ねーじゃん」
そう言いながら彼は、フライパンをくるくると手の上で回してみせた。
「同じ飾りなら、こっちにしとけ。気が強いオメーにはよく似合う」
だが、舞矢は諦めずに、ジャクセルを睨みつけてから、もう一度呼吸と姿勢を整えて、ぐっと弦を引いた。
それでも弓は、びくともしない。
舞矢はうなりながら、小さくつぶやいた。
(お願い……少しは引かせて。こいつの手前、かっこつかないよ!)
すると、その瞬間──。
「んっ?」
手応えが変わった。
まるで弓の方が合わせてきたように、張力が急に弱まり、大きく弓がしなった。
「……おろろ?」
自分の腕力が増したというより、弓の張りが格段にゆるんだと舞矢には感じられた。
ジャクセルも、目を丸くしていた。
「いま、お前、弓になんか言ってなかったか?」
舞矢は、恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「まあ。心の声が……」
けれどもジャクセルは茶化しはしなかった。
「まさか、お前のスキル、ウェポン・ウィスパラーか」
「……スキル? なにそれ」
「なんだ。そこからか。いや、異世界人はコッチにくるとな、スキルが一個ついてくるって言うんだけどな……」
ジャクセルは、聞いた話だがと前置きした。
「〈武器調教人〉──それは、武器の言葉を聴き、武器と心を通わせ、武器の持つ性能を最大限に引き出す能力」
舞矢は手にした和弓を見つめた。
「じゃあ、わたしの、さっきのささやきに、これが反応したっていうこと……?」
「あとで魔法課で観てもらうんだな。もっとも、今日で辞めちまうなら意味はねえが」
ジャクセルは、牙を見せてカラカラと笑った。
──と、そのとき、ふたりの制服の左肩に付いている通信結晶のバッジが青く光り、鳴動した。
舞矢が戸惑う様子を尻目に、ジャクセルが自分のそれをタップした。
「はい。こちらジャクセル」
手の下の通信バッジから聞こえるのは、あのぬるぬるのスライム──刑事課のグルドルフ課長の声だ。
『──ワシだ。バウ、今どこにいる』
舞矢の制服の左肩でも、同じ通信結晶のバッジが光っていた。
ジャクセルが片手でタップしながら応答する。
「武器庫です。新米とクリスマスプレゼントを物色中です」
ジャクセルの軽口に、課長の声はピクリとも笑わなかった。
『爆弾騒ぎだ。おまけに屋上から男が飛び降りかけている。両方ともサガノ・ツインタワーだ。全く訳がわからん。応援要請があった。舞矢と行けるか』
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次回は、明日12:00に公開予定です!




