第4話 気にいらない男だけど【装備選択】仮契約の人狼バディと、謎の声
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観念したようにその耳を平らに戻して、ジャクセルはたずねた。
「……じゃあ、お前さんは意地でも帰らないっていうのかい」
舞矢は、鼻をすすって小さくうなずいた。
「とりあえず、定時までは……」
「は?」
「どんな人か……確かめます」
ジャクセルは鼻を鳴らした。
「そこまでして、しがみつくような仕事かね。しかも怒ったり、ベソかいたり、忙しいヤツだしよ……」
彼は腕時計を確かめた。
「定時は17:00。ってことは、今から七時間か」
休憩の一時間は、計算に入れていない。
「オッケーだ。マイヤー、契約といこう」
歩み寄り、もう一度、右手を差し出した。
「とりあえず今日だけだ。バディのフリを頼む。おれも実際、そっちの方が顔が立つからな」
舞矢は、ワーウルフのその大きな右手を見て、
「マイヤーじゃないです」
そして、音がするほど思いっきり平手で、ジャクセルの手をひっぱたいた。
「──舞矢です! あと! 今日一日でも仲良くするつもりないですから! 明日は来ないかもしれませんし!」
にらみつけた金色の目の上で、ジャクセルの耳がしおれて垂れ下がった。
「……ってえな」
よほどその逆襲が骨身にしみたか、彼はしびれたように手を振った。そして武器庫の奥へ靴の先を向けた。
「安心しろ。おれだってなれ合う気はねえ。だがな、とりあえず武器は選ぶぞ。死なすわけにゃいかねえんだ」
そう言いつつ、振り向きもしない。
「やっぱり矛盾してますよね、ジャクセルさんて」
「さん付けはヤメロ。ジャクセルでいい」
「じゃあ、あまのじゃくせる」
「なんだそれは」
そう怪訝な顔で、棚の間をいくジャクセルだが、
「そんでもまあ、案外と強いところがあるんだな。日本人もいろいろいるってわけか」
口元を上げて、彼はつぶやいた。
武器庫の奥に広がるのは、博物館の倉庫を思わせる空間だった。
壁際に並ぶのは戦斧など重量物。中央の棚にはロングソードやレイピア、ナイフなどの刀剣類、奥にはメイスなどの棍棒類が並ぶ。
ジャクセルはロングソードのラックの前で足を止めた。そして、ずらりと並んだ長剣の中から迷うことなく一振りの相棒を引き当てた。
鞘に走った傷、柄の握りに巻いた革。抜いた刀身の刃こぼれもそのままだ。
舞矢は、その長剣が他の誰の手に渡ることもよしとせず、ここで主の帰還を待っていたのだろうと感じた。
ジャクセルの顔にもだが、ロングソードにも、再会の喜びが浮かんでいるように見えたほどだ。
ただ、舞矢のほうは、どの刃物にも手を伸ばしていない。
目では選ぶものの、手が尻込みしていると言っていい。
棚の上に並ぶ短刀のうち、時代劇で見るような漆塗りの鞘に収まっている短刀の美しさは気になった。
けれども、その下がり藤の蒔絵をあしらった拵えは、人を拒絶するような気品と孤高があった。
どれを選んでもいいと言われてはいる。だから舞矢は一度、手を伸ばしかけたが、途中で下ろしてしまった。
ジャクセルは、彼女の様子に眉を上げた。
「どうした。それなんか良いじゃないか。持っておけ」
下がり藤の短刀を見ながら言うと、ジャクセルは、舞矢のつま先から肩までを、ざっと見渡した。
「……ずいぶん細いな。長い剣のほうが良いのか?」
「剣? いやいやまさか……あ、でも弓なら」
舞矢の答えにジャクセルは、耳を立てた。
「弓か。そいつは助かる。おれが剣だからな」
「いや、でも……」舞矢はどもりながら言った。
「なんだ?」
「実はもう一年くらい手にしていないので、たぶん……腕は鈍ってます」
ジャクセルは鼻を鳴らした。
「──まあいいさ。だがナイフくらいは持っておけ。24分署の管轄は、お世辞にもガラがいいとは言えないんだ」
そう言いながらジャクセルは、愛用のロングソードを背中に背負った。
腰のベルトには、鞘ごと短剣を括りつけた。
「こういう短いのでいい。さっきのはなんでダメなんだ?」
ジャクセルの視線の先には、先ほど舞矢が手を伸ばしかけた下がり藤の短刀があった。
彼は、その短刀を無造作に取って抜いた。
平造り寸延べの短刀で、地味ながら刃文は冬の海を思わせるほどに涼やか。そして穏やかだった。
けれど舞矢には、ジャクセルの手の中で、やはりそれがツンと鼻先を上げてそっぽを向いている気がした。
彼女は、その様子がおかしくて、少し笑いそうになった。
「けど、わたし、どうせ刃物なんて人に向けられないから、なしでいいです」
そんな彼女の困り顔に、ジャクセルは鼻先の下の、牙が並ぶ口を開いた。
「あのな、こういうもんはな、別に相手を刺すためだけに使うワケじゃないんだぜ」
ジャクセルは続けた。
「さっきの握手じゃないが、悪党にとっ捕まったとして男は死ぬだけで済むが、女はそうもいかねぇ。わかるだろ」
彼は、パチンと音を立てて短刀をしまい、棚にそっと置いた。
舞矢のほうは、身を震わせていた。
壁際には、鉄塊の鈍い光が並ぶ。両刃の斧、ハンマー、何に使うのかわからない、上下に革の取っ手を付けた太い鉄の棒など。そんな中で、この蒔絵の短刀は、まだ持ち手に優しい部類だと彼女にも分かった。
「しかしだな。女こどもでも手にカミソリの一本でもありゃあ、大柄な男だってナメた態度はとれなくなる。それで収まる事もある」
舞矢はうつむいて考えていた。
やっぱり、続けていくのは無理そうだと。
けれども、今日一日は、課長からのお願いもある。
しぶしぶ彼女は下がり藤の短刀に手を伸ばそうとした。
その瞬間だった。──子どもが呼ぶような声がして、彼女は顔を上げた。
「どうした?」
ジャクセルには聞こえなかったのだろうか。
舞矢は、武器庫のさらに奥、暗闇に目を凝らしながら言った。
「──今、あっちから声が聞こえたんですけど。こっちだよ、って」
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次回は、明日12:00に公開予定です!




