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【異世界警察!時給1350円】舞矢とジャクセル、最悪の出会い  作者: 朱実孫六
ちょっと待って、いきなり初出動!?

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第11話 待って⁉︎弓がしゃべった⁉︎【覚醒】ウェポン・ウィスパラー

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 サガノ・ツインタワービルの西塔、屋上から、悲痛な叫びが響いた。


「た、助けてくれえ!」


 犯人の男・ピエトロだ。左腕だけで屋上の鉄柵にしがみ付いている。


「お、お巡りさんたち、こいつ、イカれてる!」


 反対の手首は、ジャクセルに繋がっている。






 舞矢は中庭から見上げたまま、目を凝らした。


 どうやらジャクセルは、ピエトロと自分の手首を手錠で繋いでいるようだ。



「まさか、あいつ……」


 ジャクセルの顔は、可笑しそうに笑っている。


 舞矢は額を押さえた。


「……死にたがりって、そう言うことなのね」


 現場も騒然としはじめた。男性警官たちは規制線を越えて撮影ポイントを奪い合う報道陣の押し戻しに追われている。


 やじうま相手の物売りや屋台が出始めており、舞矢はサラの姿を探した。


 すると彼女もキャンディ屋台に群がる子供達を追い払うのに手一杯な様子のようで、舞矢に苦笑を投げてよこした。


 その屋台の背後で警官が叫んでいた。


「バウの奴、また飛び降りる気だぞ!」


 通信結晶を通して指示を仰ぐ声と、その返事が飛び交う。


 現場指揮官らしい年配のオーク警官が、舞矢に気付き、怒鳴り付けてきた。


「爆弾はどうすんだ! ──ん!? おい、そこの! ボサーッと突っ立ってないで、屋上へ走れ、アイツを止めろ!」





 舞矢は、その指揮官が目を逸らすまで、硬直してから、うなだれた。


「……結局、わたしって、こうなっちゃうんだよな」



 逃げ回るうちに、最も面倒なことが回って来る。


 和弓を抱えて、足もとに陰が落ちる。


「これじゃ、中学の時と同じじゃん……」


 それでも仕方無しに、引き受けて、頑張ってみる。けれど気がつくと、やりすぎている。そして周りには、誰もいなくなっている。






 舞矢は周囲を見まわした。


 手が空いているのは、本当に、自分しかいないようだ。


 目を上げると、どうやらジャクセルも、本気で飛び降りる気らしい。


「いやでも、さすがに、マットが膨らんでからよね……」


 舞矢は首を傾げたが、それでもあのジャクセルだ。どう出るか分からない。


 いずれにしても、犯人と警官の飛び降りの瞬間を──あるいはビルが大爆発し崩壊する様を──カメラに収めようと報道陣が押し寄せ、この大混乱が起きているのは間違いなさそうだ。そう舞矢は理解した。


 

 エアマットはいまだ展開中。いそぎ魔法課の警官が風魔法を流し込んでいるようだが、厚さ10メートルに膨らむそれは、まだマットレスほどにしか膨らんでいない。



「何してんだろ……わたし。なんもできないままで」


 舞矢は、この一大イベントに沸き立った現場の中で、ひとり爪を噛むような思いがした。


「って言うか、止めに行けって言ったって、ビルには爆弾があるじゃん。自分が行きたくないだけじゃん。あの偉そうな人……」


 歯を噛み合わせて、彼女は拳を握りしめた。



 その舞矢の脇を、鼻垂れ小僧の一団が通り過ぎていく。


 カエル顔の坊主が足を止め、ロリポップキャンディを片手に、不思議そうに舞矢を見上げた。


「おねえちゃん、お巡りさん?」


「──ちが、いや、そうか。そうね、訳あってポリスメンよ。なあに? どうかした?」


「どうして、働いてないの?」


 やはり、そう見えるか。


「──ぐっ、そ、それはね!」


 彼女はポケットからスマホを取り出し、時刻を見た。

 午前11時00分。

 勤務終了まで、まだ六時間もある。


「うう…… 返す言葉がない!」


 けれど──自分は新人だ。

 言ってしまえば、この制服もまだコスプレみたいなものだ。


 けれども、あと六時間は警官。そこは事実だ。この世界のこの街に住む市民から見れば、こんな自分でも本物の警察官なのだ。


「──でも!」


 ジャクセルからは、「ここにいろ。動くな。迷惑だ」と言われている。ある意味。命令を守っている。そう自分に言い聞かせる。


 それでも、舞矢の脳裏にはグルドルフ課長の言葉が甦る。おかげで、身体が心にひきつられ、真っ二つに裂けてしまいそうだった


 



 舞矢は、頭を掻きむしった。


「ああもう! ジャクセル、邪魔するなって、どっちの意味なの……!」


 苦悩が口を突いて出た。中学時代の嫌な記憶がよみがえる。弓道部の部長を押し付けられ、空回りした日々。不器用ながらも、なんとか責務を果たそうとして、厳しくしていたら、誰もいなくなっていた。


 胸に刺さったトゲが、うずき、屋上のジャクセルを見上げる。


「でも、もう無理なんだよね……誰かの期待に応えるのは」


 まぶたのなか、グルドルフ課長が、頭を下げている。


 申し訳ない気持ちに、背を向けて逃げたい。


「できない……できないよ、わたしには……」




 そのとき、だった。


 耳に入り込んできたのは、子供のような声だった。


『舞矢ちゃん自身は、どうしたいの?』


 舞矢は、足もとを取り巻いている子供たちに、視線を落とした。


「あ、ええと、キミたち、いま、なんか言った……?」


 子供たちは、カラフルなキャンディを手に、互いに見合わせてから、舞矢に顔を横に振った。


「そ、そう……」


 舞矢は、和弓を抱えたまま、左右を見て、小さくつぶやく。


「げ、幻聴か……」


 するとまたどこかで、そう。腕の中で、


『ははは。幻聴なんかじゃないよ。でどうなの? 舞矢ちゃんはどうしたいのかな』


 彼女は、口をへの字にした。もう幻聴にだって愚痴れるのなら愚痴りたい。


「……うん。でも、あの課長さんが悲しむのを見るのは、ちょっと嫌かな」


 再び屋上を見上げる。


 犯人は、泣きながら鉄柵にしがみつき、ジャクセルは笑いながら犯人ごと飛び降りようとしている。


 まるでコントだ。


「助けてくれ、助けてくれなきゃ、本当に……爆破するぞ……!」


「おお、やれるもんならサッサと爆破してみやがれテメー、このチキン野郎!」


 大声が、向かいのビルとの間でこだましている。






 舞矢はつぶやいた。


「わたしに、何ができるって言うの……」



 そこにまた、あの子供の声が聞こえた。


『なんで? とめたいんじゃないの、あのオオカミ男を』


 舞矢は、目を下げた。やはり幻聴だ。子供たちは空を見上げて、屋上の馬鹿げたコントに腹を抱えて大笑いしている。


 舞矢は、仕方なしに口の中、幻聴に向け、ひとりごちる。


「だって。わたしヒーローじゃないもん。ただの負け犬。ここにいる事で……また逃げてるのよ」




 その瞬間だった。


 手の中の和弓が微かに震え、その、何かが動いた感触に舞矢が手もとを見ると、弓の中ほどで、二つの目が開くのが見えた。


 和弓は、小さくその口を開き、


『……ちがうよ。まいまいは、負け犬じゃない』


 確かに、そうしゃべった。

 彼女の目を見つめながら、それは力強く、うなずきながら。



「……へ?」


 舞矢は、弓の表面に浮き出た目と口もとに、自分の顔を近づけて、目をこすった。


『幻聴じゃないよ。ぼく、きみにだけに聞こえる声で話してるんだ』


 そして固まった。


「──弓が、しゃべってる?」


 すると和弓は、小さく胸を張った。


『そう。ナイショだよ? ぼくの名前は千代伽羅ちよきゃら。よろしくね』


 千代伽羅と名乗る弓は、目を鋭くし、続けた。


『見てたんだ。きみは一人になっても、雨の日も、雪の日も、練習してた』


 騒然としているはずの現場の中で、ここだけが静かになった気がする。


『だから、ぼく、さっき武器庫で声をかけたの』


 疑いようのない事実だ。和弓が話している。しかも彼女を置き去り気味に。


『っていうか、舞矢だから、まいまいで良いよね?』


 舞矢は周囲を見回すが、子供たちは屋上を指差して笑っているだけだ。

 やはり、弓の言葉は、弓が言う通り、自分にだけ聞こえているようだった。


「──分かったわ。もう幻聴でいいや。相談のってよ」




 千代伽羅は、漆塗りの中で目を動かしながら言った。


『うん。それもいいけど、まいまい、ちょっと後ろを見てみてよ。お向かいのビルなんだけどさ』


 


 振り向いたその先──

 そこには、確かにもう一つのビルがそびえている。サガノ・ツインタワービルの東塔だ。



 和弓は、舞矢に言った。


『あっちの屋上に上がろう。あそこからなら狙える』


 それは、ささやきのように小さな声だった。


 舞矢も、声を絞って、千代伽羅の耳もとに囁いた。


「──狙うって、まさか、向かいから屋上のあの犯人を?」


 それとも……ジャクセルをということか。


『んー。その真ん中かな。あの黒い箱が問題なんでしょ?』


「──って、起爆箱を射ち抜くっていうの?」




 舞矢は、ビルとビルの間にある空を見上げて、距離を測った。


 120メートル。


「ぜったい無理だって……」


 弓道の遠的えんてきでも、的までの距離は60メートル。その的だって直径1メートルある大的を使う。


「無茶だって……遠すぎる。起爆箱の大きさはガラケーくらいしかないって」


 しかも、屋上はの高さは45メートル。たしかジャクセルはそう言っていた。


「風も強そうだよ。狙ったって届かないし、当たらない……」


 けれども、握る手の中に、小さな確信の目が微笑んでいた。


『風はぼくが読む。まいまいには、スキルがある。信じて。ぼくと自分じしんを』



 舞矢は、うつむいた。泣きたいかのような目を閉じた。


「……」


 そして、目を上げ、左肩の通信結晶を叩いた。


「課長、きこえますか」


 ノイズに混じって課長の声がした。


「グルドルフだ。どうした、舞矢」


 舞矢は、屋上のふたりに目を走らせながら、防壁魔法のテープを踏み越えた。


「どこから話せばいいのかですが、実は──スキルが目覚めたみたいで。和弓が言ってるんです」


 グルドルフも、その言葉に、通信の向こうで驚いた様子だった。


『な、なんだと!』


 歩きながら言う。


「スキル名、〈ウェポン ウィスパラー〉。矢は対岸に届くそうです。なので起爆箱を──狙撃できるかも知れません」


 舞矢は、無人の東塔の屋上に、目を向けた。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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